16. 追放者の反逆戦④

16. 追放者の反逆戦④




 ワーロック城の中庭での死闘を終えて、ギルドの依頼物である目的の『月光水』と『ムーラン花』をミーユとアティは確保する。


「エルンこっちは終わったよ!」


「うん、私の方も終わった……と思う。」


 私を『便利屋』としてしか見ていなかった2人はグラッドと同じ信念を折られたかのように黙ってただ茫然とその場にいるだけだ。もう充分に私の力を見せてやっただろう。もしまだ立ち上がるようなことがあるなら私は何度でも戦い信念を折ってやるだけだ!もう私は『便利屋』なんかじゃない。


「あの……いいんですか?私はそこまで気にしてませんけどエルンさんはずっとバカにされてきたんですよね?」


「そうだね。でもさ別に殺したいわけじゃないし、ただ見返したいって気持ちだけだから。もう充分だと思う」


「そうですか。このバトルハンマーでボコボコにしてもよかったのに……。腕や足の骨の一本くらい折っちゃえばいいのに……。優しいですねエルンさんは」


 怖いよアティ……。元からそこまでやるつもりはないよ。とりあえず、あとは『フレイムドレイクの爪』だけど……ブレイドさんちゃんとやっているのかな?なんか……お酒とか飲んでそう……。


「ありえない!なんで……なんでなのよ!何であんたになんか……」


「リーナそれならいつでも勝負を受け付けるよ。私は逃げない。」


「……ムカつくのよ……その顔!!!!」


「はいはい。ミーユ、アティ。ギルドへ戻ろう」


 リーナはいつもの強気な発言はするが、私に掴みかかって来るようなことはない。私は大人の対応を見せ、うなだれている2人を置いてギルドへ戻るためにその場所を後にする。それと同時にグラッドがやって来て私に負けた3人が合流する。


「お前たちも……負けたのか」


「あいつ……なんなのよ……なんで……」


「何が何だかわからないな……」


 更にミーユの魔法弾で拘束されていたオリバーとアリシアもやって来る。


「だいじょぶっすか!?みなさん!」


「今回復しますね!」


 体の傷はアリシアの魔法で簡単に癒せるだろう。しかしあの『便利屋』エルン=アクセルロッドに負けた。という事実は心の傷として残る。彼女を甘く見ていた、最初から強くないという色眼鏡で見ていたのは落ち度と言ってもいい。


 その時『死神』ブレイドの言葉思い出す。「間違ってもお前がそいつらに劣ることはないんだ。」その言葉通りになってしまっていた。もう立ち上がる気力も失われていたが、ここでオリバーとアリシアが話始める。


「みなさん。早く依頼物を手に入れてギルドに戻るっす!」


「そうですクロス様が待っています!」


 クロス。そうだクロス=セントクレア。パーティーのリーダーだ。まだ負けたわけじゃない、エルン=アクセルロッドには負けたがこの勝負は勝つ。3人はお互いの顔を見て立ち上がり依頼物を手に入れギルドへ急いで戻るのだった。



 ◇◇◇



 光の女神に祝福を受けている幼いころから光の魔法剣を使うことのできるこの男はフレイムドレイクを無事単独で狩り、依頼物の『フレイムドレイク爪』を手に入れギルドへ戻っている途中だ。歩きながらあることを考えていた


 そう『死神』の事だ。


 奴は西の遺跡群へ向かったのか?それなら最初からこの勝負をあきらめているのか腑に落ちない。そんなことを考えながら歩いていると王都ローゼンシャリオが見えてくる。そしてこの男の目線の先には黒いものが映っていた。


「遅い。やっと戻ってきたか……酒が切れちまったぞ?」


「『死神』……?」


 その『死神』と呼ばれている男は、その光の魔法剣を使う男を待っていた。


「!!……そうかお前たちの目的は最初からオレから『フレイムドレイクの爪』を奪うことだったのか?」


「ご名答。悪いなオレたちは人数が少ないんでな、余計な体力を使うわけにはいかねぇんだ。」


「そんなことをしても無駄だオレの仲間が間違いなく残りの依頼物を持ってくる。お前たちの負けだエルン=アクセルロッドと共にギルドを去るがいい!」


「分かってねぇな?残り2つの依頼物は。この勝負初めからお前とオレの戦いなんだよ?」


 ギルドの依頼は依頼物を持ってくる事。それがどんな方法でもかまわない。実際このように同じ依頼を受け冒険者同士で戦い、奪い合うことも少なくない。


「オレと戦うつもりなのか『死神』?」


「だからそうだと言ってんだろう?その『フレイムドレイクの爪』を渡せ。あきらめろ。お前はオレには勝てん。そしてエルンたちが間違いなく依頼物を持ってくる。」


「ふざけるな。万が一にもエルン=アクセルロッドたちが戻って来ることはない。今頃オレ仲間が拘束しているよ。」


 そうだ。こっちは人数も多い。警戒するのはピンク髪のあの女、エルンとアティはただのお荷物だ。オレたちが負けるはずがない。


「クロス。一つ言っておく。お前は回復魔法が使えるか?」


「なに……?」


「剣術は?体術は?攻撃魔法、補助魔法は?分かるか、エルンはんだ。『便利屋』と言ってしまえば簡単だが……お前ギルドで何でもできる奴を見たことあるのか?普通の人間は自分の長所を生かし職業を名乗りギルドで活躍するのが普通だ。あいつは何でもできる時点で普通の人間じゃないんだよ。そしてあいつは間違いなく『閃光』を越えるギルド冒険者になる。それを見抜けなかったのは残念だったな?」


「あいつはゴブリンもスライムも倒すことができないんだぞ!?そんなやつパーティーに入れておけるか!」


「……だからお前はオレたちに勝てないんだよ。その視野の狭さはリーダーとして足元をすくわれるぞ忠告してやる。元『閃光』のギルド冒険者の先輩としてな?さて……軽く相手してやるよクロス=セントクレア」



 ◇◇◇



 依頼物を手に入れた私たちは急いでギルドへ戻るために走っている。アティも頑張って走ってくれている。ミーユはなんか楽しそう。目の前には王都ローゼンシャリオが見えてくる。そして人影が2つ見えてきた。


「遅い。」


 そこにはブレイドさんと地に膝をつけているクロスの姿があった。


「ぜぇ……ぜぇ……これでも私一生懸命走ってきたんですよ?遅いなんてひどいです!」


「うんうんアティ頑張ってたもんね!」


「ブレイドさん『フレイムドレイクの爪』は?」


「見りゃ分かるだろう?ここにある」


 クロスの姿を見れば一目瞭然だったか。ブレイドさんを見るが、傷一つ負っていない。さすがは最強のギルド冒険者パーティーの『閃光』の元メンバーだね、こうして私たちは依頼物をすべて集めたのだ。これで私たちの勝ちだ。

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