第1章 私は許さない! ~追放者の反逆戦~

8. エルン=アクセルロッド 元・パーティーとやりあう

8. エルン=アクセルロッド 元・パーティーとやりあう




 珍しくギルド内がざわついている。まぁ無理もない。ギルドでも底辺と呼ばれていた『便利屋』の私と『死神』のブレイドさんの嫌われ者同士がパーティーを組んで、しかもブロンズランクの魔物討伐の中でも高難易度のグリムドラゴンを討伐したのだから。それも2体も同時に。


「あれ?なんかざわつきすぎじゃない?すごく注目を浴びてるねエルンとブレイド」


「そうだね。まぁいつも注目を浴びてたんだけどね……違う意味で」


「騒がしくて仕方ない。ほらエルン。ルナレットに報告してこい」


 私は受付にいるルナレットさんの前に立ち、初めて自分で報告をすることにする。


「グリムドラゴンの討伐依頼完了しました!」


「お疲れ様エルンちゃん。それじゃブロンズの冒険証を預かるから」


「……そのことなんですけど」


 ルナレットさんが首をかしげる。私にはどうしても引っ掛かることがあった。だからこのまま素直にシルバーランクの冒険証を受けとることは出来なかった。


「どうかしたのエルンちゃん?」


「すいません。今回のポイントを彼女にもあげてもらえませんか?」


「ん?私?」


 ミーユはきょとんとしている。グリムドラゴンを討伐できたのは間違いなくミーユのおかげでもある。だからミーユに何もないのは嫌だ。そう思ってしまったから。


「あのさエルン。私は別に構わないよ?最初に言ったと思うけど、実践訓練ができたからそれでいいし。せっかくシルバーランクになれるんだよ?そうしないと、クビになるんだよねエルン?」


「ミーユ。私が嫌なの。このままシルバーランクの冒険証を受けとることは出来ないの!」


 その様子を見ているブレイドさん。何も言わないけど『バカだな』とか思っているかもしれない。だって自らチャンスを棒に振るんだから。


「ごめんねエルンちゃん。それはできないの。状況がどうあれギルドの決めごとでパーティーを組んでいない者はいくら活躍していてもポイントはあげられないの」


 どうしても嫌なんだ。私は確かにシルバーランクに上がればこのギルドからクビになることはないし、その不安もなくなる。それでも……。そんな時ルナレットさんからある提案が出る。


「ふふっエルンちゃん。それならその子をパーティーに入れればいいんじゃない?あいにく私はまだ依頼完了を受理していないし」


「ブレイドさん……あの……」


「……リーダーはお前だろ?」


 私はその言葉を聞いて真っ直ぐミーユの目を見てから頭を下げる。


「ミーユ。私たちとパーティー組まない?私とブレイドさんはギルドでは底辺と呼ばれていてミーユは嫌かもしれないけど、グリムドラゴンを討伐できたのはミーユのおかげだし。お願い!」


「えぇ……みんな見てるんだけどな……強引なんだからエルンは。私の答えはもちろんOKだよ」


「ミーユ!!ありがとう!!」


 周りには人が沢山いたが、私は嬉しさのあまりそんなことはお構いなしにミーユに抱きつく。初めてだから、私から仲間に誘ったのは。本当に嬉しい!


「ちょっと痛いなぁ……」


「だって今まで私の仲間いなかったから……」


「エルン……」


「それじゃ、グリムドラゴン討伐のポイントは分割にするわね?あともう1回依頼頑張ってねエルンちゃん」


 私は依頼完了の報告を済ませて、新たなブロンズランクの依頼書を預かり次の依頼を決めることにする。本当にミーユがパーティーに入ってくれたことが嬉しかった。


「改めてよろしくね。って言うかエルンはいいんだけど、ブレイドは良かったの私がパーティーに入って?」


「ああ?リーダーはエルンだ。エルンが決めたのなら断る理由がないだろう。それにお前は神格スキル持ちだしな。いてくれたほうが作戦の幅が広がる」


「それならいいんだけど、私のこと守ってねおじさん」


「だから、おじさんじゃねぇ」


 私はそのやり取りを見て嬉しくなる。ミーユがパーティーに入ってくれた、私の仲間になってくれた。嬉しさが顔に出てしまう。そんな気分が良い時に聞きたくない声が私のことを呼ぶ。


「依頼成功おめでとう『便利屋』さん?」


「まぐれでも良かったな?クビにならなくて」


 そこには元・パーティーの格闘家のリーナと戦士のグラッドがいた。2人は嫌味を言いながら私を見下してくる。


「はぁ?何あんたたち」


「ミーユ」


 ブレイドさんはそれ以上何も言わなかったがミーユを止めた。これは私の問題だもんね。私が何とかしないと。


「……ありがとう」


「はぁ!?あんた気取ってんじゃないわよ!底辺の『便利屋』の分際で!」


「どうせそこの『死神』に何とかしてもらったんだろう?ずいぶん受付嬢と仲が良いみたいだからな?」


 それって私がルナレットさんに頼んで何とかしてもらったってこと?そんな風に思われているのは許せない。私は椅子から立ち上がると2人に食って掛かる。


「取り消して。私たちはグリムドラゴンを討伐したんだから!私のことはいいけど、ブレイドさんやミーユのことを侮辱するのは許さないから!」


「取り消してですって?あんた……」


 一触即発の雰囲気の中、それを黙って見ていたブレイドさんが口を開く。


「やめろエルン。そんな奴らに構うな。間違ってもお前がそいつらに劣ることはないんだ。早く次の依頼を決めるぞ。時間の無駄だ」


 そのブレイドさんの発言を聞いたリーナは黙ってはいなかった。思い切り机を叩きブレイドさんに言い放つ。


「あのさぁ『死神』さん?私の聞き間違いかなぁ?私たちがこの『便利屋』より下だって言ったように聞こえたんだけど?」


「そう言ったつもりだが?」


「あははははっ!!面白いこと言うじゃない?こいつは底辺の『便利屋』なのよ?なんの力もない冒険者よ?そんなやつと私たちを比べるなんておかしいんじゃない?」


「……なら試してみるか?お前たちはエルンが気にいらないんだろう?エルンは依頼を失敗すれば2度とギルドにはいられなくなる。どうだ、同じ依頼を受けて勝負してみるか?お前たちが逃げなければの話だがな?」


「面白い。その勝負受けるよ」


 そこへ用事を済ませたクロスとロード、そして私と入れ替えでパーティーに加入した杖を持った少女が立っていた。


「『死神』。君にオレの仲間を侮辱されて黙ってはいられない。その勝負乗るよ」


「はぁ?最初にエルンを侮辱したのはあんたたちなんだけど?」


「ミーユ。どうせ言っても無駄だ。クロスお前が依頼を決めて構わない、オレたちが負けることは絶対にない」


「分かった。勝負は1週間後、あとで掲示板を使って伝える。行こうみんな!」


 クロスはそんな捨て台詞を吐いてその場を去っていった。私は何も出来なかった。


「ごめん……私のせいで」


「なんでエルンが謝るの?悪いのはあっちじゃん」


「違うの。私はパーティーのリーダーなのに何も出来なかったから。頼りないリーダーでごめん。ブレイドさんもミーユも言い返してくれていたのに」


 はぁ本当に情けないな。やりすぎかもしれないけど、リーナの胸ぐらくらい掴むべきだったかなぁ。俯いている私の頭に手を置きブレイドさんはこう言った。


「いや。お前は言い返していたよ。オレがあいつらに言ったのは間違っていない。そう思うならお前はあいつらに負けるな。かつてのパーティーにお前を追放したことを見返してやれ」


「ブレイドさん……そうだよね。このまま言われっぱなしは嫌だもんね!私は絶対負けないから!2人とも協力して!」


 こんなに早く見返すチャンスがやってくるなんて。クロスたちのパーティーに負ければ私はギルドをクビになる。もちろんブレイドさんやミーユも。でもそんなことはさせないから!私は一層やる気になるのだった。

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