第32話:凱旋パレード四度
神暦2492年、王国暦229年8月26日:王都・ジェネシス視点
「「「「「ウォオオオオ」」」」」
「火属性竜だ、本当に火属性竜を狩られたんだ!」
「水属性竜に続いて火属性竜まで狩られたんだ!」
「すごい、すごい、凄い、ジェネシス王子凄すぎる」
「ジェネシス王子が、たったお独りで火属性竜を狩られたぞ」
「「「「「ウォオオオオ」」」」」
「首が刎ねられてるぞ、あの恐ろしい火属性竜の首を刎ねられたんだ!」
「もうこれで火属性竜も怖くない、大魔山の火属性竜だって必ず狩ってくださる!」
「ジェネシス王子万歳!」
「「「「「ジェネシス王子万歳!」」」」」
まだ全く慣れる事ができずとても恥かしいが、凱旋パレードをするしかなかった。
人々が心から恐れていた、火属性竜を斃した証を示すしかなかった。
「はっはっはっはっは、これでもう300年長生きできるのだな?
でかしたぞ、ジェネシス」
ご機嫌で火属性竜に跨る父王の姿は前回と同じだ。
前回ほど腹が立たないのは諦めの境地に達したからかもしれない。
とは言っても、全く腹が立たない訳ではない。
「父王陛下、今延命の秘術を使っても効果はありません。
300年過ぎて、また齢をとり始めてから使わなければ効果がありません」
「そうなのか、だったらジェネシスにも長生きしてもらわなければならない。
もう危険な属性竜狩りは止めてもらわなければならぬ」
「そんな事を言われたら、謀殺されてしまいますよ。
私としても、建国王陛下の名誉を穢すような父王陛下をかばう気にはなれません」
「だが次の相手は大魔境の火属性竜であろう?
大魔境のボスだけあって、リーズ魔山のボスよりも強いのではないのか?
そのような強い属性竜を無理に斃す必要などない。
火山灰や火砕流で国が亡ぶ事はない。
不足した食糧はジェネシスが狩った高レベル魔獣を売って買えばよい。
ジェネシスが穀物輸入に動いている事くらい知っているぞ」
これだから父王は油断できないのだ。
色情狂で怠け者で利己的だが、バカではないのだ。
何をすべきか理解しているくせに、色と欲を優先してすべきことをしなだけだ。
「父王陛下は俺を追い込む気ですか?」
「ふん、ジェネシスが人殺しを嫌っている事くらい分かっているぞ。
よほどの事がない限り、余を弑逆して王位を簒奪したりはしない。
それに、とても慎重で、できるだけ危険は避ける性格だ。
だからこそ、大魔山の火属性竜を無理に狩りたいわけではないだろう?」
「そうですね、父王陛下の申される通り、少しでも危険な事はしたくないです。
ですが、大魔山の火属性竜程度なら何の危険もありません。
ジャマをされるようなら、俺も覚悟を決めるしかありません」
「ほう、ジェネシスにそこまでの自信があるのなら、止められないか?」
「はい、自信があるので止めないでください。
俺も父殺しの汚名を着るのは嫌です。
それでなくても、祖父が正当な王太子殿下を弑逆して父王陛下を王位につけた、下劣で恥知らずな血統なのですから」
「黙れ!
そのような証拠はどこにもない!」
「父王陛下がどれほど否定しようと、事実は変えられませんよ。
祖父が亡くなり、大逆者の孫である私の耳にすら入ってきているのです。
弑逆の事実は、この国はもちろん大陸にまで広まっていますよ」
「ダマレ、だまれ、だまれ、黙れ!
誰が何と言うおうとそのような事実はない!」
「ですが父王陛下。
私が陛下を弑逆しなければいけない状態になれば、現実が証拠になります。
否定したければ、今のような怠惰で利己的な生活は止めてください。
どうしても働くのが嫌なら、もう2度と後宮から出てこないでください」
「……分かった、ジェネシスがそこまで言うのなら、後宮にこもる。
だが王位は渡さぬ。
王位を渡してしまったら、300年後に延命してもらえないかもしれないからな」
俺は父王との駆け引きに何とか勝った。
武力的には俺の方が圧倒的勝者なのだが、父王に性格的な弱点を知られているので、タフな駆け引きをしなければ自分のやりたい事もできない。
だが勝った分だけやらなければいけない事ができる。
父王の大臣達に俺の命令を聞かせる下準備が必要だ。
王太子には成ったが、摂政にまでなったわけではない。
「父王陛下はもう表に出て来られない。
300年後、俺に延命の秘術を受ける必要がでるまで後宮にこもられる。
今日からは、俺か俺の大臣がお前達に命令を下す」
「王太子殿下の命令に従う事には何の異論もございません。
ですが、殿下の大臣からの命令に従う訳にはいきません。
それでは王国の仕組みが瓦解してしまいます」
「そうだな、確かに父王陛下が任命された大臣が、俺の大臣の命令に従うと言うのは制度上おかしな話だ。
だが、父王陛下の大臣が全員病死してしまったら、次官しかいない王国政府は、俺の大臣が治めるしかないだろう?
俺も大魔山に火属性竜を討伐に行っている間の事がとても心配だ。
これまで父王陛下やジョサイアに媚び諂い、王家王国を蝕んでいた連中に任せるくらいなら、非常手段を使いたくなる」
「私達を殺すと言われるのですか?!」
「叩けば色々と埃がでる身ではないのか?
お前達が私利私欲に使っていた密偵部隊は、全員俺に忠誠を誓っているぞ。
賄賂を要求された貴族や騎士も、俺が聞けば直ぐに全て白状する。
俺の大臣の命令に従うのか、王国財産を横領した罪や王国の政治を私して貴族達から賄賂をむしり取った罪で、一族ことごとく処刑されるのか、好きな方を選べ」
「分かりました、王太子殿下の大臣の指示に従わせていただきます。
しかしながら、後々悪しき前例になるかもしれません」
「ああ、そうだな、大臣でもない父王の寵臣に媚び諂い、賄賂を受け取った糞虫のような大臣が、寵臣の命令通りに政治を行っていたという悪しき前例がすでにある。
同格の大臣同士が、どちらの方が偉いかを争うくらいささいな事だ。
今更俺がその程度の優劣をつけたくらいで大した影響はない。
さぞかしお前達の家族や子孫は肩身の狭い思いをするだろう。
何なら家の恥にならないように、俺の代わりに思い切った事をしてくれるかもな」
俺の脅迫がよほど効いたのだろう。
父王陛下の大臣が全員辞任届を出してきた。
俺はそれを受理したが、後宮にいる父王には知らせなかった。
父王は過去何度も政務宮からの報告を後宮にいるからと受け取りを拒否している。
ならば無理に知らせる必要などない。
後宮にいる女官達は、以前父王が出した『政務宮の報告は受け取るな』という命令の従ってくれる。
父王の命令に従っているように見せて、俺の指示に従ってくれる。
俺は筆頭大臣兼財務大臣にセバスチャンを任命した。
次席大臣兼経済産業開発大臣にマッケンジーを任命した。
アンゲリカは……引き続き俺の護衛隊長を務めてもらう。
そんな事をしている間に日数が過ぎてしまっていた。
俺の家臣や王国騎士団は、王都に1番近いメニフィーのダコタ魔境や、駐屯地の近くの魔境に入って訓練を続けている。
なのに、俺は王城で雑務をこなさなければいけなかった。
後顧の憂いなく、安心して大魔境の属性竜を討伐するには、苦手で嫌な事でもキッチリとやっておかなければいけなかった。
そう言う事を全てやっているうちに1カ月くらい直ぐに経ってしまう。
その間に多くの情報が多方面に流れてしまったのだろう。
「ジェネシス王太子殿下、このような建白書が届いております」
セバスチャンが先に目を通した建白書を渡してくれた。
これも俺が急いで始めた改革策の1つだ。
これまでは月に1度各大臣が陳情を受けていた。
だがそれでは、王家が大臣に賄賂を要求する機会を与えているようなものだ。
王が本当に信頼できる忠臣を大臣に選んでいるなら何の問題もないが、現実は大臣が私利私欲を満たすために陳情を受けている。
「セバスチャンとマッケンジーはどう思う?」
「由々しき事態だと思います。
ジェネシス王太子の成敗を逃れた易都の商人達が、王太子の歓心を買おうとわざわざ知らせてきたのですから、間違いない事でしょう」
「絶対に許せないです。
貴重な亜竜素材や属性竜素材を大陸に奪われるなど、絶対に認められません!」
延命の秘薬と秘術は、大陸に対する強い交渉材料になると思っていた。
秘薬だけで延命できるのなら、大陸の皇帝はなりふり構わず我が国に攻めて来るが、失われた秘術まで必要なら金での交渉を持ちかけると思っていたのだが……
「大陸の皇帝や側近は恐ろしいほどバカなのか?」
「はい、バカ以外の何者でもないと思われます。
属性竜を斃される王太子に勝てると思っているのですから。
万が一勝てたとしても、王太子を殺してしまったら秘術が失われます。
その程度の事も分かっていないのですから」
信じられないから確かめてみたが、間違いないようだ。
そんなバカでも絶対的な権力を持っているから、皇帝の大臣達も諫言する事なく唯々諾々とバカな命令に従っているのだろう。
「だったらしかたがない。
全貴族と騎士に大陸が攻め込んで来るかもしれないと通達してくれ。
属性竜災害の時と同じように、民を城や砦に収容して守るようにと」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます