第18話:回春魔術
神暦2492年、王国暦229年3月1日:王都・ジェネシス視点
「ジェネシス、若い姿に戻らせてくれてありがとう」
「大した事ではありません、母上様。
本当は寿命も取り戻せるようになってから使うつもりだったのです」
「ジェネシス、そのためには魔境の奥深くまで入って、強大な属性竜を狩らなければいけないのでしょうか?
ジェネシスにそのような危険なマネをさせてまで、長生きしたいとは思いません。
こうして若い頃の姿に戻してくれただけで十分ですよ」
母上様にそう言ってもらえると、何としてでも属性竜を狩って延命して差し上げたくなる。
「ジェネシス、余にも噂の回春魔術を使ってくれ。
いや、余だけではなく、正室や側室達にも使ってくれ。
全員若い姿の戻してくれるなら、望みの褒美を与えよう。
欲しいと言うのなら王太子の地位を与えてやろう」
父王のように、色欲を最優先されると拒否したくなる。
王太子を王子の中で誰にするかは、まだ決めてはいなかった。
正室は2人の男子に恵まれたが、1人は3歳で亡くなっている。
1人は流産後に男の子と分かった。
最初に生まれた第1王子は1歳で亡くなっている。
だから最年長で子供までいる第2王子がずっと序列第1位だった。
俺がとても健康で才能豊かだと分かったのは、4年前に過ぎない。
これまで王子王女が何十人も夭折している状態での3歳児だ。
育つか分からない3歳児を王位継承候補だとは誰も考えていなかった。
それがここ2カ月ほどで、父王の中では有力な王位継承候補となった。
だからこそ俺に対して王太子を条件に色々と要求してくるのだろう。
しかし、俺個人に能力があっても、肝心の派閥がないのだ。
王国を運営していくのに必要な貴族や騎士の支持がなかったのだ。
王太子に成るのは強力な派閥を作ってからでなければいけない。
準備が十分でない時に王太子になってしまうと、異母兄達やその支持者達から命を狙われてしまう。
簡単に撃退できるとは思うが、異母兄とはいえ血の繋がった兄弟だ。
できることなら殺し合いなどしたくない。
「そのような地位は不要でございます。
属性竜を狩って若返りの秘薬を作り出せれば、父王陛下の御代は永遠に続きます。
そのような状態で王太子の地位を頂いても何の意味もありません。
それくらいなら、他国への移住を認めていただいた方がありがたいです。
自分の力で国を建ててご覧にいれます」
「ならん、ならん、絶対にならん。
ジェネシスを他国に渡らせるなど、絶対にならん。
王太子の地位で満足できないと言うのなら、譲位してやる。
王位を譲ってやるから、若返りの秘薬を作り余に若返りの魔術をかけるのだ!」
「今そのような事をすれば内乱が起こってしまいます。
ウォーターパーク王国の王子の1人として、国を乱すような事はできません」
「他の王子達を幽閉すればいいのか?
それとも殺せとでも言うのか?」
「そのような事は申しておりません!
父王陛下はまだまだお元気なのですから、もう少し時間を下さい」
「時間だと、何をする気だ?」
「今兄上達の支持者を寝返らせています。
彼らが寝返れば、兄達には何の力もなくなります。
力を無くせば、幽閉する必要もなくなります。
子供のいない貴族家に養子行かせる事もできれば、領地を分けて分家させる事もできます」
「養子と分家か……だがジェネシスの回復再生魔術で子種が手に入るのだろう?
そのような状態で養子を迎えようと言う貴族家があるか?」
「全ての貴族や騎士に回復再生魔術を使う事はありません。
兄達を養子に押し込みたい貴族家には使わなければいいのです。
それに、そのような悪質な手を使わなくても、娘に兄達を迎えて王家の血を入れたい貴族家はたくさんあります」
「ふむ、確かに王家の血を入れたい貴族家は多いだろう。
ましてジェネシスが延命の秘薬と秘術を手に入れるのはほぼ確実だ。
自分が死ななければ王子を婿に迎えても家督を譲る必要がない」
「権力と責任のある当主の座を、息子や婿に譲りたい当主は多いですよ」
父王のような無責任な人間ばかりではないのですよ!
責任感に苦しんでいる当主は以外と多いのです!
能力や良心に欠けていても、責任感がないわけではないのです!
「ふむ、そうなのか、余には分からないな。
だがジェネシスがそう言うのなら、その通りなのだろう。
ではその方法を使うとして、いつ属性竜を狩ってくれるのだ?」
「3年ほどでしょうか」
「3年、3年も待たねばならぬのか?!」
「私の今の権限ではどうしても3年かかります」
「今の権限ではだと?
もっと強い権限があれば短くできるのか?」
「属性竜討伐司令官として、全貴族や騎士に動員令をかけられ、無役の騎士で新たな騎士団を設立できるのなら、半年は短くできます。
王都の外に住んでいる貧民達を私の民にできれば、更に半年は短くできます」
「その程度の事で1年も短縮できるのか?
ならば自由にするがいい。
騎士団も無役騎士も貧民も、ジェネシスの自由に使うがいい」
父王の死にたくない本能と色情狂を利用して、有利な条件を手に入れた。
王権を振りかざされて強制されていたら、血みどろの争いになっていた。
血みどろとは言っても、俺が一方的に父王達を殺すか大陸に逃げるかだが。
俺としては、王という重い責任など背負わず大陸で自由に暮らしたい。
無理に狩りなどせず、牧場と農園を作ってのんびり暮らせればいい。
肉さえ諦めれば、命を奪わずともチーズやバターで美味しい料理が作れる。
それに、俺が進んで殺そうと思わなくても肉は手に入る。
本能的に人間を襲わずにはおれない魔獣がいてくれる。
魔境から出てくる魔獣を狩れば肉は手に入る。
「では、私が能力を認めた騎士で新たな騎士団を設立させていただきます。
難民は、私個人の民として賄領と魔境の砦に住まわせます」
「ジェネシスの好きにするがいい。
その代わり、回春の魔術は余と正室と側室に今直ぐ使うのだ。
ジェネシスが持っている精力剤は全て置いていくのだ!」
あきれてため息しかでない父王の条件を飲んだ。
父王はもちろん、父王の正室と側室達にも回春魔術を使った。
「「「「「きゃあああああ!」」」」」
「すごい、すごい、凄いですわ、ジェネシス王子!」
「きゃああああ、昔のような若さを取り戻せましたわ!」
「はだが、肌がつやつやと光り輝いています」
「きゃああああ、しみが、しみが無くなりました!」
「しわが、あれほど深かったしわが全くないですわ!」
まだ7歳とはいえ、男の俺が母以外の女性と後宮で会う訳にはいかない。
父王と一緒なら問題はないと思うが、後で誰が難癖をつけてくるか分からない。
父王と俺の考えが一致している限り、難癖をつける奴など簡単につぶせるのだが、いつ父王と考えが違ってしまうか分からないので、慎重に行く事にした。
後宮の人間が、厳しく制限させた男性と会う事のできる唯一の宮殿、家族宮で父王立ち合いの下、正室と多くの側室達に回春魔術を使った。
その結果が絶賛の嵐だった。
改めて女性の美と若さに対する執着を思い知った。
同時にその執着を使えば、危険を大きく減らせる事ができると分かった。
「私が大陸に渡りたいと思うような事がない限り、貴女達に若さを与えられます。
属性竜を狩れるだけの権力があれば、貴女達に最低でも300年の寿命と若さを与えられます」
「最低でも300年というのはどういう意味ですの?」
「先史文明時代の資料では、属性竜の秘薬と若返りの秘術で、300年は寿命が延びると書いてあるのです。
更にもう300年の寿命と若さが欲しいのなら、違う属性の竜を狩れと書いてあったので、1種の属性竜で得られる寿命は300年だと思われます」
「では、今噂に聞く火属性竜をジェネシス王子が狩られたら、わたくし達は300年の寿命と若さを手に入れられるのですね!?」
父王の正室がそうはっきりと聞いた事で、その場の緊張が一気に高まった。
誰も彼もが死にたくないという本能と美と若さに対する執着を持っている。
激しい権力闘争がある後宮だが、基本命まで狙われるのは王子だけで、側室まで殺される事はない
幽閉同然の生活ではあるが、衣食住は満たされている。
自分から死にたくなるような生活ではない。
それに、父王が王位を退けば、ある程度の自由も許されるようになる。
次期国王と友好な関係を結んでいれば、王が死んだ方が好き勝手に生きられる。
王宮に残る事もできれば、空屋敷をもらって自由を手に入れる事も可能だ。
父王や次期王が許可すれば、再婚だって不可能ではない。
政略と父王の色欲によって後宮に閉じ込められたが、許可さえもらえれば、愛する人と人生をやり直す事もできるのだ。
「はい、最低でも300年の寿命と美と若さを保証しましょう。
この国に住んでいることが分かっている、水属性竜と土属性竜も狩る事ができれば、合計900年の寿命と美と若さを手に入れられます。
私がこの国から大陸に渡りたいと思わなければですが」
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