1 『終わったはずの××』

 スピーカーから流れ出す、Nobody's Love。

 あの日終わったはずの恋に、嵐が吹き荒れるなんて想像もしていなかった。


「だーかーらー」

 出窓でまどの部分に腰かけ、浜辺を見下ろす優人。隣では元恋人の結愛が説明をしている。

 もし半年後に彼氏がいなくて、自分と付き合いたいと思うのであれば、会ってあげると優人が言ったらしい。


──俺はそんなことを言ったのか?

 本当に?


 あの時は、泣きじゃくる結愛をなだめすかすのに必死だった。

 けれども、このままでは良くないと思ったのだ。

 恋人が出来ても、優人と比べる。

 その事が原因で上手くいかなくなり、優人に泣きつく。

『なら、より戻す?』

と聞いても彼女はうんとは言わない。


 こんなことを続けていても、結愛は幸せにはならない。

 だったらいっそ、二度と会わない。

 自分のことは忘れろと言ったはずなのに。

 

──俺だって忘れる努力はしたはずだ。

 やっと前に進めると思ったのに、これは一体?


「結愛、いっぱい考えたの」

 その足りない頭でか?

「優人がいの」

「俺は嫌。お前、束縛激しいし」

 自分の膝の上に肩ひじをつき、頬杖をついていた優人は、突然抱き着かれてバランスを崩す。

「なんだよ、危ないだろ?」

「お膝抱っこ」

 胸が頬に当たり、色気で何とかしようとしているのか? と思いながらも、

「あー、はいはい」

といって要望を叶えてやる。


「で?」

 正直、以前のように振り回されるのはごめんだ。

「優人は彼女いるの?」

 もじもじしながら聞く彼女に、恋人がいてこんなことしてたら殴られるぞ?  

と思いつつ、

「今はいない」

と答える。

「ならいいでしょ?」

「何がだ」


「相変わらず、仲がよろしいことで」

とキッチンにいた平田がリビングのテーブルの上に、飲み物とお菓子を置いていく。

「どこがだよ」

と優人が嫌そうに言うと、

「もう、つきあっちゃえばいいのに」

と爆弾を投下する。

「助けるという選択肢はないのか?」

「俺が元カノちゃんとつきあっても良いけど、優人キレるでしょ」

 そう言われてしまうと、返す言葉もない。


──ん?

 付き合う?


 平田の言葉を反芻し、結愛が何と言っていたのか思い出す。

”『もし半年後に彼氏がいなくて、自分と付き合いたいと思うのであれば、会ってあげる』と優人が言ったから来たの”


「はあ?!」

 現状をやっと把握し、素っ頓狂な声をあげる優人。

「どうしたの? 急に大きな声出して」

と結愛。

「な、なに。お前、俺と付き合いたいの?」

 あまりに動揺し、上手く言葉が発せなかった優人に対し、

「だから、初めからそう言っている」

と結愛。

「ちょ……ちょっと待て」


 意外な展開に思考が追い付かない優人であった。

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