仇 002



 闇ギルド「グール」が、ミアの親父さんの会社を潰した。

 そんな衝撃的な事実を、当事者であるテスラは半笑いで語る。


「どっかの企業から依頼されたんだが、結構手こずったもんだぜ。それまでは殺人か強盗くらいしかやってこなかったからさ……商品の仕入れのルートを絶ったり、魔物に店を襲わせたり、細かいことをいろいろやったもんだ。いやー、懐かしい。俺たちにとっても初の大口の仕事でよ、マスターもかなり乗り気だったな」


 アインズベル商会を潰したということは。

 その事象が示すことは。

 つまり。


「当時の『賊』は無名に近かったんだが、あれをきっかけに名前も売れるようになっていったのよ……まあ、俺的には面白味のねえ仕事だったがな。裏でこそこそ工作するのは趣味じゃねーし」


 如何にも退屈だったと言わんばかりに、テスラはため息をついた。


「とにかく、思い出せてすっきりしたぜ。喉に刺さった小骨が抜けた感じ? 歯に挟まった繊維質が取れたとか? つーかさ、爪楊枝って歯の間を掃除するには太過ぎねぇ?」

「……」


 飄々とふざけたことを言い続けるテスラとは対照的に、ミアは暗く顔を伏せる。

 彼女は今、何を思っているのだろうか。


「……クーラ・アインズベルは、私の父よ」


 俯いたまま、ミアは呟く。


「あなたたちの所為で会社は倒産して、お父さんは自殺したわ」


 感情を殺した平坦な声色。

 だが、きっと。

 彼女の心の中は、熱く燃えている。

 いくらお父さんのことを嫌っていたとしても、その仇となる存在が目の前に現れて、何も感じないはずがない。

 怒りなのか。

 悲しみなのか。

 復讐心なのか。

 僕には、わからないが。


「へー、そいつはすげえ偶然だな。奇縁ってやつか……まあ、ご愁傷様」


 テスラは形だけ合掌する。

 ミアの話に心底興味がないのだろう。

 あいつは、自分が楽しむことしか頭にない。

 面白いかどうかで物事を判断している。

 ミアの父親を間接的に殺しておいて。

 何も、感じていない。


「――っ」


 ふと、顔を上げたミアに目線をやれば。


 彼女は――泣いていた。


 金色の瞳から流れ出た透明な線が、頬を伝う。


 仲間が。


 僕の仲間が、泣いている。


 それは。



 怒りを覚えるのに、充分足る事実だった。



「……おい、テスラ」

「どうした、にーちゃん」

「申し訳ないけど、ここで死んでくれ」


 ミアを泣かせる奴のことを。

 仲間を悲しませる奴のことを。

 僕は、許せない。


「……かははははははっ‼ いいぜ、イチカ! 存分に殺し合おう!」


 テスラは今日一番の高笑いをして、懐から例の箱を取り出した。

 【収集箱】……箱に収まるサイズの物なら、無制限に出し入れができるスキル。

 そこから、無数のコアが飛び出してくる。


「……っ」


 先程とは比較できない量のコア。

 だが、どれだけ頭数を増やしても僕のスキルで……いや、待て。

 確かあいつは、もうペットは使わないと言っていなかったか?

 ならばあのコアたちには、別の使い道が……


「さあ、本気の遊びをしよう! 【継ぎ接ぎフランケン】‼」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る