第26話 三牙の話

 俺は隅田すみだ 三牙さんが。山口県出身。

 自分で言うのもアレだけど、イケメンのモテ男だ。身長がもう少し高ければ、モデルにだってなれたかも。

 父は証券会社を退職し、ファイナンシャルアドバイザーとして独立し、そこそこ成功していた。

 母は父と同じ証券会社で出会い職場結婚。その後は父の仕事を手伝っている。


 何の生活不安も無く育ってきた俺は、このままずっと変わらないだろうと思っていた。


 しかし、山口県の高校を卒業し、東京の大学へ進学して、その後大学院への進学が決まった時、俺の父が事件に巻き込まれる。


 母の話ではこうだー


 我啼がなくという東京の会社から、投資セミナーの講師をしてほしいという依頼が来た。

 東京の会社だけど、今後中国地方や九州へ事業展開をしていくにあたり、継続的にセミナーを開催していくというものだった。


 我啼はちょっと名の知れた会社で、提携事業先に芸能事務所もあるところだ。

 そのセミナーのアシスタントとして間川 歌欄が派遣されてきた。


 父は真面目にセミナーの内容を考え、豊富な経験と知識、長けた話術で毎回好評だった。


 ところがある時から、父の投資セミナーが詐欺を働いているという噂が流れ始めた。

 母も話の内容を確認していたが、どこもおかしな所も無く、何故そんな噂になるのか全然分からなかった。

 主催者である我啼も、もちろんそんな事実は無いと言う。

 嫌な噂ではあったが、最初はそんなに気にするほどのことではない程度だったので、契約のこともあったし、その後もセミナーの講師をしていたのだけど、噂のせいなのかセミナーの参加者も減り、自分の顧客も離れていくという事態になってしまった。


 いよいよ警察も動き出して取り調べを受け、話を持ってきた東京の会社からも責任を追及され、セミナー自体も無くなり、顧客もどんどんいなくなって、とうとう活動休止に追い込まれてしまった。

 警察の方では一応、詐欺とは関係無しと判断されたのだけど、疑われたという事実で父の信用は地に落ちてしまったのだ。

 

 父と母の貯金で、俺は予定通り大学院に進学する。

 こんな家が大変な時に…という葛藤はあったけど、家族でしっかり話し合い、まとまったお金を先に俺が貰い、そのお金が底をついた時点で自分でその先を判断するという条件で進学させてくれた。

 

 その後しばらくして父が失踪してしまい、連絡が取れなくなった。

 

 母は父のことを心配しながらも、俺の学費を出してくれたせいで貯金も無くなったのだろう、他の会社でパートで働くことになった。


 最初に貰ったお金とバイトで何とかやりくりしていたのだけど、やっぱりとうとう無理だということになり、俺は一旦休学して学費を稼ぐことに専念することにした。短期なら学生寮にそのままいれるのだけど、長期になると退寮しなければいけない。

 もうそろそろ退寮か…と考えていたタイミングで、ちょうど麻智のお母さんが失踪した。


 俺は麻智を心配するフリをして、麻智のアパートへ転がり込んだ。

 いや、少し語弊があるな、ちゃんと心配はしていた。


 もちろん本当のことを話して、麻智の了解の上で一緒に住むのが一番なのだけど、俺にすごく憧れていたオーラを出す麻智に、どうしてもカッコ悪い所を知られたくない。

 付き合ってすぐなのに、実家に一緒に来てと誘われるくらいだから、多分結婚も考えてる程なんだろう。

 だけど全然付き合いも浅いので、信頼関係はまだ構築できてない。

 だから、バレるまで黙っていようと思った。お母さんが見つかっても、「このままずっと一緒にいたい」と言うつもりだった。


 あの麻智が主催したオフ会に行けなくなったのも、研究室のトラブルではなく本当は急なバイトの呼び出しだった。



 間川 歌蘭の事件の少し前、ある人から「間川と連絡が取れた。」という連絡があった。


 そう、俺は間川を探していた。


 父のセミナーの詐欺の噂を調べていた時、どうやら出所は間川らしいと行き当たる。

 間川と連絡の取れた知り合いと一緒に、直接事情を聞きに行くことになる。


 あの日、俺は間川が指定した場所へ行く。待ち合わせの時間になっても来ないので、“ある人”に連絡してみるけど、“ある人”にも連絡が取れない。

 俺と間川と“ある人”の3人で合う予定だったけど、その誰とも会えないし連絡も取れないので、俺は近くを探す。

 探している時、救急車の音が聞こえてきて、なんかザワザワした雰囲気になっている所があった。

 気になって近づいてみると人だかりになっていて、そこから少し離れたところで“ある人”と会った。

 “ある人”は青ざめた様子で、

「なんか、女の人が階段の下で倒れてた。通りすがりのような人が確認したけど動いてなくて、辺りは血が流れてて…。

 よく見たら、歌蘭ラちゃんみたいで…。

 待ち合わせしてたから救急の人に事情を説明しようかと思ったんだけど、絶対疑われる気がしたから、そっと目立たないように逃げてきた。」と言う。


 俺達はその場所から立ち去った。


 麻智のお父さんから連絡があって、その事件をニュースで見た時、さすがに心臓がバクバクしたけど、つい悟られないように隠してしまった。


 その後も普通に生活して、お母さんを心配する麻智に寄り添って、とてもいい彼氏になっていた。

 麻智のお母さんが帰ってきたと連絡があった時、気が緩んですごく笑顔になった麻智を見て、俺もホッとした。


 でも、これで俺が麻智の部屋にいる理由も無くなるのか…。

 そう思ってた矢先に刑事が尋ねてきた。


「間川さんがあの日会う予定だったっていうのはあなただと言ってるんですが、それは間違いないですか?」

そう刑事に聞かれたけど、麻智に一つも話してないので、とっても話辛い。


 事情を説明するのに、全部話さないといけないけど、麻智には聞かれたくない。

 だから、本当は警察なんて行かなくてもよかったんだろうけど、行くことにした。


 でも警察に着いたら、

「任意同行してくれてよかったよ。」と言われたので、ああやっぱり結構疑われてるんだと思った。

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