第19話 光莉ちゃんのお父さん?
「じゃあ、テレビに柳井田運送が映った時の話は?光莉ちゃんに、“この人がお父さん”て言ったの?」
「えー…そんなことあったっけ?あったかー?そうそう、随分昔の話ね、光莉とテレビ見てて…
思い出した!あーそれね、違う、言ってない。
“初恋の人”っていうのは言った。でも“お父さん”とは言ってない。」
「でも、含み笑いのようだったって。」
「それは全く光莉の勘違い。
私は違う事を思ってた。絶対柳井田さんがお父さんっていうつもりで笑ったんじゃないの。
でもまだ小さい時だったし、そんなこと覚えてるなんて…。」
「多分、自分のルーツがすごく気になってたんだよね。」
「そうだよね…。でもさ、“ついやっちゃって出来た子”とは口が裂けても言えないし。
どう話したらいいか分からないのもあって、全然話してあげてなかったなー。気を遣ってるのか、光莉から聞いてくることもほとんどなかったし。
そのテレビ見た時、珍しく聞いてきたから、やっぱり知りたいかな?って思ったんだった。」
「ちゃんと好きな人なんだったら、普通にそれでいいと思うけどね。」
「うん、私が考え過ぎてたんだね。
で、それを確かめに横川さんは私に会いに来たんだね?光莉とは山口で出会ったの?」
「光莉ちゃんから聞いてないの?」
「ゲームのオフ会で、友達と山口に行ってきたって、帰ってから聞いたの。
山口かー、わざわざそんな所行くんだって不思議ではあったの。
で、私の病気が見つかって、入院して、もうすぐ手術っていう時に、私に会いたいっていう人がいるって言われて、それが横川さんで。
何で横川さんを知ってるか聞いたら、『アパートまで訪ねてきた』とは言ってたけど、山口被りのタイミングが近いから、もしかして山口で会ってるか、何かあったのかな?と思って。」
「山口で会ったのは私じゃなくて、旦那の方。そのゲームのオフ会に参加してたの。
光莉ちゃんが酔い潰れて、ホテルに一緒に泊まったっていうものだから、まさか…と思って。
知らないとはいえ、自分の娘とそういうことしちゃってたとしたら…って想像したら、もう、怖くなっちゃって。
どうしても本当のことが知りたかったの。」
「そうだったの⁉︎やだ、知らなかった!」
「光莉ちゃんがね、“父親だと思って柳井田と会ったから、そういうことは絶対してない”って言ってた。」
「それでかぁ。いろいろ繋がった。
光莉に聞いても全然話してくれないし。
柳井田さんがいること知っててそのオフ会とやらに行って会ってきたんだ。」
「あ、そういえばその時ね、柳井田には、『結婚詐欺に会った』って話したらしいの。本当?」
「え…知らない…。そうなの?
ちょっと光莉ここに呼んでもいいかな?」
「うん、私はもう全然。聞きたいこと全部聞いてスッキリしたし。」
私が光莉ちゃんを探して、この場所まで来てもらった。
「ねえ光莉、あなた結婚詐欺にあったの?」
「え?あ、あー、あれね。
ごめんなさい…作り話。柳井田さんがお母さんにしたのは結婚詐欺に近いことなんじゃないかって想像したの。違ってた?
まーせっかく会えたから、2人で話できないかなって思って、飲み会の間に考えついたやつ。」
「そう、良かったー。いや、良くないけど。
そんな嘘ついて迷惑かけて!
でもごめんね、今までお父さんの話してなくて。でも、柳井田さんは私の初恋なんだけど、光莉のお父さんではないの。私が紛らしい反応したせいみたいで誤解させたと思うけど、別の好きだった人なの。
ちょっと行き違いがあって連絡が取れなくなって、その人は光莉が生まれたことも知らないの。なかなか説明しづらくて今までちゃんと話せなかったけど、決して人に言えない恋とか、取った取られたとか、そういう変な関係ではないんだよ。」
「本当に?違うの?
柳井田さんは私のお父さんなんじゃないの?」
「本当に違う。」
「え⁉︎じゃあ私、何のために…。」
光莉ちゃんは堪えきれない涙を溢れさせ、自分の膝に顔を伏せて泣き出した。
大高さんは、ごめんねと言いながら、光莉ちゃんの背中をさする。
「横川さん、私のせいでこんなに心配とご迷惑おかけしてしまって、本当にすみませんでした。
もう、どうお詫びしたらよいか…。」
「いいえ、私も、あの頃ちゃんとはっきり大高さんに聞いておけば良かった。噂を小耳に挟んだ時、まさか?と思ってスルーしてしまってたから。
会えて良かった。これでスッキリした。」
光莉ちゃんも泣き止んで、これで一件落着。
「ねえ、そういえば、大高さんと行きたいお店があるの!ここからそんなに遠くないから、退院祝いにどうかしら?
すごく素敵なお店、見つけたんだ。」
「へえ、どんなお店かしら?楽しみ!」
和気藹々とした雰囲気でタクシーに乗り、野内さんのお店へ向かう。
サプライズを狙って野内さんのお店だとは内緒にしてるけど、なんか同窓会みたいだと、私ひとり違うワクワク感を楽しむ。
ブーランジェリーはすでにオープンしてるけど、ランチはまだ開始になっていない。でも、イートインとは別の、カフェスペースのオープンを待つ人が列を作っている。
私達はその列の後ろに並ぶ。
「へーなんか、美味しそうなパンが並んでるね。」
「でしょ!この前ランチ食べたんだけど、ランチもすごく美味しいの!ぜひ大高さんにも食べてほしいと思って。」
「え?もう食べたのなら私は別にいいよ。わざわざ並ぶとか大変じゃない?
パン買って帰るのでいいよ。」
「ダメダメ!せっかく来たんだから、ランチ食べてこ!私山口帰ったらもう食べられないし。帰る前にもう一度食べたいの。だから付き合って!」
「えーそんなに?じゃあすごく楽しみだわ!」
「あ、今さらだけど、何食べても大丈夫なの?」
「うん。消化器系ではないからね。って本当は油っこいのとかダメらしいけど、まあ大丈夫よ!」
「具合悪くなったらすぐ言ってね!」
「ありがとう。こんなオシャレで高そうなお店のランチなんて、食べたことないの。だから本当は嬉しい。」
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