第17話 大高さんと再会

 [まいうい]ちゃんが大変な状況になっているので、これ以上は何もしないことにした。そして、まだ2回しか会っていないけど、大高さんの娘である光莉ちゃんを信じることにする。

 何となく、真実だと肌で感じた。


 その後すぐに大高さんの検査の結果が出たと、光莉ちゃんから連絡が入る。

 病気は早期のもので、早く手術をすれば大丈夫だろうけど、少し難しい手術になるからということで転院することになったそうだ。


 それから光莉ちゃんが、お母さんである三知瑠さんの様子を見て大丈夫そうだと判断して、私のことを伝えてくれた。そしたら「久しぶりに会いたい。」と言ってくれたそうだ。


 転院してすぐに手術となり、術後の経過も良く、いよいよ会っても大丈夫だと連絡が入る。

 転院した先は田原の家からは遠く、私は病院の近くのホテルに泊まることにして移動する。

 1カ月近く過ごして、我が家のように居心地が良かったので離れ難かったけど、田原の家を後にした。

 

 家を出てからさっそく病院へ向かう。一階の受付の待合で待ってくれていた光莉ちゃんと一緒に大高さんの病室へ行く。

 4人部屋なのでカーテンが閉まっているけど、込み入った話は難しいかもしれないなあ…と思いながら、カーテン越しに声をかける。


「どうぞ。」

 と言われてカーテンを開けると、懐かしい顔が見えた。

 大高さんは24年間の歳をとったけど、スッキリして若々しく見える。

 術後なので、グッタリしてるかもと思っていたけど、すごく元気そうだ。


「お久しぶりです。横川です。こんな大変な時に病院にまで来てしまってごめんなさい。」


「ううん久しぶり!私のことを覚えていてくれて、そしてこんなところまで会いに来てくれて嬉しい。元気だった?」


「うん、元気だったよ。でも大高さんが手術するって聞いて、びっくりしたよ。すごく心配してた。」


「そうなの、私もびっくりでね。でも手術も終わって、先生からは大丈夫だって言われたの。しばらくは経過観察だけどね。」


「無事で良かった。ホッとした。」


「で、どうしたの?私に用事があるんだよね?」


「うん…でも、ここじゃあちょっと…。」


「?なんか、ヤバい話とか?場所変えようか?談話室とか。」


「歩けるの?ベッドから起きて大丈夫なの?」

 

「今どきはね、術後は動けって言われるの。癒着防止なんだって。痛いのに、容赦無いんだよー。」


「そうなんだ。すごいね…。」


 私達は談話室へと移動する。“術後は歩け”とはいえ、やっぱり傷には響くらしく、ゆっくりと歩いた。

 談話室に着いてみると結構人がいてザワザワしている。

 隣の席も人がいて、とても込み入った話をする雰囲気ではない。


「せっかくここまで歩いてもらったんだけど、やっぱり退院してから少しゆっくりと話したいんだけど、大丈夫かな?」


「そう?そんなにヤバい話かな?えー気になるー。」


 ちょっとだけ食い下がられたけど、順調なら3日後に退院で自宅に戻るとのことなので、やっぱり退院後に会うことにした。

 連絡先を交換し、またねと挨拶して近くのホテルへ行く。

 することもないし、田原の家から出るんじゃなかったなぁと後悔したけど、戻るのも悪いのでホテルに連泊する。


 その間、話が出来そうな場所はないかと、ブラブラと街歩きする。

 ファミレス、レストラン、カフェ…どれも良さそうだけど、人がいっぱい。

 ふっと目に入ったのがネットカフェだ。


 そうだ、ネットカフェには雑誌があるはず。ここをブラブラ歩いたり、携帯で検索するより、雑誌の方が効率的だと思った。


 どうせ暇だし…。


 中に入ってさっそく地元のタウン誌を読む。

 ラーメン、カレー、お寿司、フレンチ、イタリアン、カフェ。

 どれもすごく美味しそう。

 流石は関東、素敵なお店が沢山ある。

 でも…その店がどこにあるのか、どう行けばいいのかさっぱり分からない。

 やっぱりネットで周辺検索が一番良さそうかな?と思いながら、せっかくなので雑誌を隅々までよく見る。


 ん?


 このお店…⁉︎


 気になる店が目に飛び込んできた。


 『千葉県初出店!

 ブーランジェリーカフェ アビアント オープン!』


 すっごく好みのパンがいっぱい。

 いいなー全部食べたい!


 『オーナー:野内 大輔』


 え?え?え⁉︎


 確か、“野内”って書いて“やない”って読む、ヤナイ君⁉︎

 この顔…間違いない!

 うわー!すごい!

 こんな立派なお店作ったんだー!


 野内やない君は、私が大学時代にアルバイトしてたお店で、調理場で同じくアルバイトしてた男の子だ。

 あのレストランは大手ではなく個人経営のファミレスだったけど、料理はかなり本格的で若い料理人の卵達に割と人気のお店だった。

 野内君も調理の専門学校に通いながら、修行も兼ねてアルバイトしていたのだ。


 ネットで地図を検索すると、路線バスで行かなきゃいけないけど、ここから割と近い所にあると分かった。


 まあヒマなので、多少遠くても行くけどね。

 

 次の日、野内君のお店へ向かう。バス停を探してしばらく歩き、ちょっと待ってたらすぐバスが来る。

 田舎のバスは1時間に1本、あるかないかの世界だから、都会のバスの早いのはすごくありがたい。

 5つ目のバス停で降りて、少し歩いたらすぐ着いた。


 今日は平日だけど、沢山のお客さんで賑わっている。

 ブーランジェリーなので、テイクアウトが基本だけど、カフェなのでイートインもできる。そしてランチメニューもある。

 お客さんはたくさんいるけど、ランチタイムには遅い時間なので、空席があり、すぐに座れた。


 キッチンはセミオープンで、カフェの席からはチラチラと中の様子が見える。

 野内君いないかなーと顔を左右に振ったり横にしたり、体を捻ったりして様子を伺う。

 さりげなくしてるつもりだけど、きっと側から見たら変な人だと思われるだろうなと思った。

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