第8話 田原さん

 父ちゃんに連絡を取ってもらって、母ちゃんの大学時代の同級生に会いに行く。

 田原さんという女性で、大学を卒業してからずっと東京にいるみたいで、今は普通に会社員として勤めている人だ。

 田原さんは忙しい人のようで、田原さんの都合に合わせて、会社を定時に退社し、指定された場所へ向かう。

 三牙もその日は大丈夫で、駅で待ち合わせをして、2人で会いに行けることになったので心強い。


 田原さんが待ち合わせに指定したのは、田原さんの会社から近い駅だった。

 そこで会って、喫茶店へ移動する。


 3人は飲み物を注文してから本題に入る。


 田原:「すごい、千夏の子がこんなに大きくなって、私に会いに来てくれる日が来るなんて…、びっくりだわー。しかも彼氏と一緒に。でも嬉しい。

 ほんとお母さんの若い頃にそっくり。親子だってすぐ分かるね。

 で、私に聞きたいことって…?」


 麻智:「母もいないのに、2人で押しかけてしまってすみません。知ってるか分かりませんが、実は母が家出をしまして、今どこにいるか分からないんです。

 父が田原さんに聞いて、母の居場所は知らないと仰ってると聞いてますが、どこか母が行きそうな場所に心当たりがないかと思いまして…。

 母は東京に来たとしたら、どこに行きそうか分かりませんか?」


 田原:「やっぱり…そのことだよね。んー…ごめんなさい。本当はあなたのお母さん、千夏には最近会ってるの。ていうかずっと一緒にいたの。

 千夏が、旦那さんには絶対に言わないでって言ったから、あなたのお父さんには知らないって嘘をついてたのよ。最初の電話がかかっできた時も側にいたし。でも、あなたにまで連絡とってないとは思ってなくて…心配してたよね。だからちゃんと本当のこと話します。

 でも千夏、やっぱりまだ家に帰ってなかったし、連絡も取ってなかったんだ…。」


 麻智と三牙は、無駄足覚悟で来たので、思いがけない情報にびっくりして顔を合わせる。


 麻智:「母はいつ田原さんのところへ来たんですか⁉︎何しにここへ⁉︎で、今はどこに⁉︎」

 麻智は急き立てるように質問を畳み掛ける。


 田原:「えっと、ちょっと順番に説明させてね。

 まず、千夏が私に電話で連絡してきたのは、まだ正月の頃で、電話があってからすぐ、その日にこっちに来たの。

 どうしたのか聞いたら、旦那さんとケンカしたって言ってた。

 私いろいろあって、今は1人暮らししてるのね。だから自由にしていいよって言ったら、助かるって言って、一緒に住んでたの。

 それから1ヶ月弱くらい千夏と一緒にいたんだけど、その間に会いたい人がいるって、探してた人がいたんだ。で、その人が見つかったから会いに行くって、出て行ったの。そうね、5日くらい前かな?

 それ以来は会ってないし、私も仕事が忙しくて連絡取れてないの。

 あなたのお父さんからまた連絡があって、あなた達が来ることは千夏にメールで送ったから、気付いたら連絡くると思ったけど、まだ連絡無いんだ。」


 麻智:「探してる人って、誰なんですか?」


 田原:「千夏が大学時代にアルバイトしてたお店で、同じくアルバイトしてた同い年の女性よ。

 その子は私たちとは別の大学だったから、私は何回か会ったことはあるけど、そんなによく知らない子なの。名前は大高おおたか 三知瑠みちるさん。」

 

 麻智:「なぜその大高さんを探してたんですか?」


 田原:「それは何回聞いても教えてくれなかったわ。」


 麻智:「それで、大高さんは見つかったんですか?」


 田原:「うん…ちょっと病院にね、入院してるって。」


 麻智:「どこの、何ていう病院ですか?」


 田原:「千葉県M市だって。でもごめんなさい、病院の名前までは教えてもらってないの。」


 麻智:「一緒に暮らしてる間、母はどうしてたんですか?何か言ってませんでした?それから様子はどうでしたか?元気あるとか無いとか。」


 田原:「正直、こっちに来た時はね、怒ってるというか、青ざめてるというか、夫婦喧嘩のヤバいやつって感じだったよ。

 でもすぐ落ち着いて、私と久しぶりに会って、大学時代に戻った気分で楽しくしてたの。買い物とか、飲みにも出たりして。

 まあ、その間も本当に元気なわけではなくて、ため息もいっぱいついてた。

 子どもも大きくなって東京や福岡に行ってしまって、帰ってこなくて寂しいとも言ってたよ。そんなに寂しいなら、今回も連絡とってちゃんと会えばいいのにね。

 昼間はその大高さんを探しに昔のアルバイト先に行ったりしてたみたいだけど、私は仕事で一緒にいたわけではないから、よく分からないわ。

 それからちょっと前に誰かに会いに行ったみたいで、その後はちょっと、かなり変だった。なんかブツブツ独りごと言ったりして。」


 麻智:「それは誰だったんですか?ちょっと前って、何日の話ですか?」


 田原:「誰かは分からないの、本当ごめんなさい。ああ、そういえば、その人のかは分からないけど、“オフ会”っていうワードはよく言ってた。

 それから、んー確か、会いに行ってたのは1月の最後の日曜日で、夜遅くなって帰ってきたのを覚えてる。」


 その日といえば、[まいうい]さんの事件があった日だ。やっぱり母ちゃんは何か関係しているのだろうか…?

 麻智の心がザワザワする。


 実はフリーライターの中森が訪ねてきて、SNSの写真を見て、父ちゃんは「妻じゃない」と言っていたけど、中森が帰った後に、

「[キシャル]くんには“違う”って言ったけど、あの写真、もしかしたら母ちゃんかもしれん。

 今はあんまり目立たない地味な服しか着てないけど、若い頃はああいう花柄とか派手目の服をよく着よったんよ。後ろ姿も、ワシには母ちゃんに見えたんだ。」

と言っていたのだ。


 麻智と三牙は丁寧にお礼を言って、田原さんと別れ、帰宅する。

 帰りの電車の中では麻智は無言だった。


 家に帰ってから、やっと口を開き、今日聞いたことを整理する。


 つまりー


 まず、母ちゃんは[みけりす]のことで父ちゃんと喧嘩になり、家出をして田原さんの家に行く。

 田原さんの家で一ヶ月過ごしながら、大高さんという人を探す。

 1月の最後の日曜日に[まいうい]さんの事件があって、その日に誰かと会い、遅く帰って来た。

 大高さんが見つかって、5日ほど前に田原さんの家を出て、千葉県のM市へ行った。

 それ以降はまた消息不明。


ということだ。


 母ちゃんが探しているのはなぜ大高さんなのか?大高さんが[みけりす]に関係しているということだろうか?


 麻智:「写真で見た限り、[みけりす]って大高さんの娘とか?」

 三牙:「そうだね。その可能性しか今のところ思いつかないなぁ。」

 麻智:「じゃあやっぱりさ、[まいうい]さんて全く関係無くない?まさか[まいうい]さんが大高さんなワケないよね?[まいうい]さんて公表年齢24歳だし。

 あ!めっちゃ年齢詐称とか?母ちゃんの同い年なら今46歳。無理か…。」

 三牙:「無理だな。超美魔女でも、24歳ってどうかな?」

 麻智:「それなら最高に羨ましいけどね。」

 三牙:「どう考えても、[まいうい]さんは麻智の母ちゃんとは関係無いよ、うん。」

 麻智:「だね。突き落とす理由が無い。

 もうさー、いくらなんでも帰って来てほしい!てか、連絡くらいしてよね!」


 麻智は、子どもすら無視する母ちゃんに腹が立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る