第60話 アル様に訳の判らない間に婚姻の申込みをされてキスされていました・・・・

翌朝の寝覚めは最悪だった。殆ど寝れなかったのだ。


顔が腫れているし、目に隈が出来ている。


もう最悪だ。でも、なんとか着替えてダイニングに歩いていった。


「姉さんどうしたの?」

休みの日に起きてきた私を見て弟が驚いた顔をした。


私がムッとして黙っていると


「寝れなかったんだ。姉さんが悩んでねれないなんて天変地異の前兆じゃない?」

「ちょっとそれどういう意味よ」

「そうよ。どこかにお出かけの前にはしゃぎすぎて寝れなかったというのはよくあるわよ」

母までとんでもないことを言ってくれる。


私は一体何なのよ。


この脳天気な二人を私は睨みつけた。


「で、王太子殿下を諦める決心は付いたの?」

このボケ母は、それしかないのか。


私はそうしなければならないとは思いつつ、決心はつかなかったのだ。


だって、アル様とタチアナとクンラートと一緒にいて楽しいし、パウラさんとかは私がアル様と親しいから親しくしてくれるだけで、親しくなくなったらどうなるか判らない。ボッチの学園生活は嫌だ・・・・



私は母を無視して目の前にある朝食を食べた。

でも、あんまり食欲はない。


「え! 姉さんどうしたの? あんまり進んでいないよ。姉さん大丈夫? お腹を壊したの?」

ええい、弟め。私も食欲が無いときもあるわ。人を食い意地だけの怪物みたいに言うな!


そこへ、ノックの音が響いた。母が出る。


「こ、これは王太子殿下」

驚いた母の声がする。私は慌てた。どうしよう。まだ考えがまとまっていない。


「えっ、これを私にいただけるのですか?」

扉の方から母の嬉しそうな声がする。


「シルフィですね。少しお待ち下さい。少し時間がかかるので中に入ってお待ちいただけますか」

おいおい、この格好でいるのに、中に入れるな!


私は慌てて自分の部屋に飛び込んだ。


「少し、お待ち下さいね」

母がわたしの部屋に強引に入ってきた。


「ちょっとシルフィ、すぐに準備して」

「ちょっと母さん」

なんか、母の態度がガラリと変わっていた。何かアル様からもらったみたいだ。

後で見たら部屋に白いバラの花束が置かれていた。母はなんて単純なんだろう。呆れたのは言うまでもない。


母が強引に目の隈を化粧で誤魔化してくれた。


「急に来て申し訳ない」

アル様が謝ってくれたが、そのまま外に、連れ出された。


アル様が連れて行ってくれたのは中庭のバラ園だった。

きれいな色とりどりの薔薇が咲き乱れている。さすが王宮のバラ園だ。遠くに庭師とか次女らが作業しているのが目についた。



「はいっ」

そして、アル様から赤いバラの花束を渡されたのだ。赤いバラが1ダースくらい束ねられている。なんか意味が有ったようなきがするんだけど・・・・。


「えっ、これは?」

「シルフィへのプレゼント。受け取って欲しいんだけど」

「えっ。ありがとうございます」

花束なんて他人からもらったことなかったので、私は喜んでもらってしまったのだ。この花束の意味を知らなかったのだ。


「いい匂い」

私はその香りをかいだ。


なんか遠くで、侍女たちが目を見開いてこちらを見ているんだけど・・・・何でだろう?


王太子殿下に花束なんてもらっても良かったのだろうか。


赤いバラが12本? あれっ、これって・・・・



いきなり、そこでアル様が跪かれたのだ。


ウッソーーーー、ここで結婚の申込みを受けるの? こんな目立つところで・・・・


遠くで作業している人たちも全員手を止めて私達を見ているんだけど。

 

「シルフィア・バース。僕の申し出を受けてくれてありがとう」

「えっ?」

私はアル様が何を言っているか判らなかった。普通は跪いて相手からキミが好きだとか結婚してくれとか言われるんじゃないの? 申込みを受けてくれてありがとうとか何言っているの?

私なんか受けたの?


そんな驚く私達を見て遠くにどんどん人が集まって来るんだけど。

皆キャーキャー騒いでいる。


この王宮で王太子に跪かせているのがまずいというのはよく判った。


「いや、アル様、跪くのは止めて下さい」

「シルフィがこの手を取ってくれるまでは止めない」

「えっ、いや、その、手を取ればいいんですね」

「そう」

私はパニクっていたし、何も考えていなかったのだ。

私がその手を取るとアル様にいきなり抱きしめられたんだけど・・・・。


ええええ! これどうなっているの?


「騙したようになってしまって御免。好きだよシルフィ」

そう言うとアル様の唇が私の唇に重なったのだった。


嘘! あるさまとキスしている・・・・。


私のファーストキスが奪われた瞬間だった。


そう、知らない間に、私はアル様との婚姻の申込みに了解したことになってしまったのだった。

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