第50話 何があるか判らない学園舞踏会場に到着しました
結局、騎士達が慌てて飛んできた時には、私達以外で動いているものはいなかった。
「ちょっとあなた達、少しくらい、私のためにも残しておきなさいよ」
なんかテレシア様が怒っているんだけど、100人くらいいた騎士達は、肌を傷つけられて怒り狂った母と、それを面白がっていた王妃様に殲滅させられたのだった。
騎士団長が平身低頭で護衛につかなかったのを謝っているんだけど、
「ノルディン、後始末さえやってくれれば全然問題ないわ。そもそも、私ら3人が揃っているんだから問題はないのよ。あなたら全員いるよりも強力なんだし」
王妃様がとんでもないことを話されているんだけど、騎士団長も形無しだ。でも、私もその実力の様を見せつけられて、それが事実であるのはよく判った。
母が「傷が、傷が」
と叫んでいるのを
「本当に煩いわね。昔は木登りとかしてよく怪我していたじゃない」
といいながらテレシア様が治療魔術をかけてくれていた。
「ありがとう。テレシア、傷残っていない。残っていたらアントンが悲しむから」
「はいはい、ご馳走様」
そう言うテレシア様も、夫である公爵様が駆けつけてきて、目尻を下げていたし、果ては国王陛下まで駆けつけてきて、どうなることかと思った。
騎士団長が責任持って犯人を探すと宣っていたけれど、伯爵以外に犯人はいるのかしら?
「まあ、うまく行けば明日の舞踏会で犯人は自ら出てくるわよ」
王妃様が笑っておっしゃられたけど、という事は明日の舞踏会も危険なんだろうか?
「まあ、シルフィちゃん、そんな心配そうな顔しなくても大丈夫よ。明日はあなたの横にはうちのヘタレ息子をつけるから。うーん、でも少し心配よね」
少し考えるように王妃様がおっしゃられる。いや、別に王太子殿下に横についてもらいたいとは思わないんですけど。まあ、エスコートの話は約束したけど、そんなだいそれた事はそもそも、遠慮したいのが現実なんです。
「そうね、私達3人が侍女としてあなたの後ろについていて上げるわ」
「ハイ?」
私は王妃様がおっしゃっておられることがよく理解できなかった。
確かに明日のパーティーは保護者が参加するのは認められているし、貴族の令嬢は侍女を連れてくるかもしれない。でも、母は別にして、いや、母も嫌だけど、王妃様と公爵夫人に後ろから侍女として付いてきてもらうって絶対に違うよね。
私の心の声は誰にも届かなかった。
そして、舞踏会当日、私はまず、アル様に散々謝られていた。
「シルフィ、本当に昨日はすまない。あんなことがあるのならば俺が護衛したのに。事件を知った後も慌てた父に王宮の全てを任されて、俺は駆けつけることが出来なかったんだ」
「アーーーラ、アルフォンス、あなたが一人いたって昨日は殆ど役に立たなかったわよ。何しろテレシアも傍観していただけだったんだから」
後ろから侍女姿の王妃様がおっしゃるんだけど。
「煩いですね。母上は楽しんでいらっしゃるだけでしょう」
「あなた、それが婚約者を守ってくれた母親に対して言う言葉なの?」
「いや、あの、王妃様。私はアル様の婚約者ではありませんし」
歯ぎしりして悔しがるアル様に代わって私が言った。アル様も否定してよ。でもアル様はなぜか私の言葉に絶句しているんだけど。
「そうよ。ルイーセ。シルフィには王妃なんて無理よ」
母も言ってくれる。
「そんな事ないわよ。何しろ学園の女王として学園に君臨していたティナの娘なんだから」
「そうよ。隣国の王太子とか、侯爵令息とか、配下にして顎で使っていたじゃない」
王妃様とテレシア様がとんでもないこと言うんだけど。母って学園に君臨していたの? 子息たちに人気があったとはこの前聞いたけど、そこまでは聞いていないんだけど・・・・
「そう思うわよね。顎で使われていた騎士団長も」
騎士団長は青くなって頷いていたんだけど。
ええええ! 騎士団長も母に顎で使われていたの?
「そんな事ないわよね。ドリース」
母がキツとして騎士団長を睨みつけるんだけど。それも名前呼びだ。確か騎士団長は今は伯爵様ではないのか?
「は、はい」
「うーわ、酷い、騎士団長まで脅迫しているわ」
テレシア様がとんでもないことを言っている。
「じゃあ、シルフィ、俺の馬車で」
母たちが言い争っている間に、アル様が私を連れて行ってくれようとした。
「何言っているのよ。アルフォンス、あなたは一人で行きなさい。また、何かが襲ってくるかもしれないし、シルフィちゃんは私達3人で守るわ」
王妃様がアル様に命じているんだけど。
「あの、守るならば3人でアル様を守られたほうが良いのではないかと」
「いや、そう言う問題じゃないだろう。シルフィ。俺はシルフィと一緒に行きたいだけなのに」
アル様が何か言われるんだけど、そらあ、私も怖い3人のおばさまと一緒に行くよりも、アル様と一緒に行く方が気が楽なんだけど。
「シルフィちゃん。息子と一緒に行きたい理由はわかるけど、昨日みたいなことがあるかもしれないから私達と一緒にいらっしゃい」
そう王妃様に言われて、強引に馬車に乗せられてしまった。
いや、絶対に守らなければいけないのは平民の私ではなくてアル様の方だと思うのだけど。もっとも母親3人に守られるアル様というのもなんか変だけど・・・・。
結局、アル様は一人で寂しく前の馬車に乗って、私達4人は後ろの馬車で、10騎の近衛騎士に守られて出発した。王妃様等によると騎士らは飾りでいざとなったら役に立たないとの事だったが・・・・。
学園の馬車止まりは人と馬車で込みあっていた。しかし、流石に王家の馬車だけあってあっという間に、馬車も避けてくれて、一等地に到着した。
前の馬車からアル様が飛び降りて、こちらにかけてきた。
なんか正装した王子様が駆けてくるって目立つんですけど。
「さっ、シルフィ」
そして、馬車の扉を開けて笑顔で私に手を差し出してくる。
「いや、あの、王妃様から」
「何言っているの、今日の主役はあなただから」
「そうだよ、母は今日は侍女だから放っておいていいんだよ」
王妃様の言葉にかぶせてアル様が発言されたんだけど、その言葉に王妃様は少しムツとされるんだけど、いいんだろうか?
なんか二人の間で火花が散ったように感じたのは私だけだろうか?
「さ、シルフィちゃん」
テレシア様にまで促されたので私はアル様に手を借りて降り立つ。
「これはアル様、バース、ようこそ学園に」
バルテリンク先生が私達に声をかける。
「ご苦労さまです」
「こんにちわ」
私達が挨拶すると
「凄いな。今日のバースは侍女まで連れてきているんだ」
先生が感心して言うんだけど、違うって。私が訂正しようとした時だ。
「ちょっと、そこの執事さん。手を貸していただけないかしら」
アル様が無視して降りるのを助けなかったので、王妃様がバルテリンク先生に言われた。
「あのう、すいません。今日入れるのは保護者の方だけなんですが、侍女の方はご遠慮・・・・・」
バルテリンク先生が言われる。
「何言っているのよ。バルテリンク」
「げっ、ルイーセ」
バルテリンク先生は固まってしまった。まさか、王妃様が侍女の格好をしているとは思ってもいなかったのだ。
「私は呼ばれているわよ」
「さっさとしなさい」
その後ろのテレシア様の声に更にバルテリンク先生はぎょっとした。
「その格好は」
「良いのよ。服装は自由でしょう。今日はやることがあるから」
バルテリンク先生に手を貸してもらって馬車から降りながら、王妃様は話されるんだけど。なんか王妃様はやる気満々なのだ。何やるつもりなんだろう?
どうやら今日の舞踏会もまともには行かないみたいだ。
私はため息交じりのアル様と思わず顔を見合わせてしまった。
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