第48話 山姥の配下を悪魔の三つ子が殲滅しました

「貴様ら。一歩でも動いてみろ。この女を切り裂いてやるぞ」

母を捕まえた男が大声で話した。


母は驚きのあまり声も出ないみたいだ。いつも気丈夫で何事にも動じない母も、流石にナイフの前に恐怖で震えているみたいだ。


「ふふふふ、貴様ら、手も足も出まい」

伯爵がニヤリと笑って、王妃様とテレシア様を見た。


「大人しくしていたら、命だけは助けてやっても良いぞ。まあ、その方らもまだ、多少は見栄えはする。姥桜として隣国の娼館に送りつけてやるわ」

伯爵が馬鹿笑いをした。それに合わせて家来共も笑う。


王妃様とテレシア様は何も言わなかった。でも、これは絶対にやばいやつだ。私は王妃様を見て思った。なんか、目つきが鋭くなっている。特に姥桜と言われた時にギロリと目が剥いたのだ。


この伯爵は馬鹿だ。絶対にまずい。王妃様が人質のことなんて考えるはずがないじゃないか。全て自分優先だ。でも、ここは母の命がかかっているのだ。王妃様には自重してもらいたい。


でも、王妃様が自重なんてしてくれるのか。絶対にありえない。


私がそう結論付けた時だ。



「誰が、姥桜だって」

そう言うや、一瞬で雷撃を伯爵に叩きつけていたのだ。


「ギャーーーーー」

伯爵は黒焦げになって叫ぶとゆっくりと倒れた。


「誰が姥桜よ。私はまだ見た目は20でも十分通用するわよ。お前もそう思うわよね」

黒焦げになり倒れ込んでピクピク震えている伯爵の隣の男を見て王妃様は言われた。


「と、当然です」

隣の男は震えながら頷いた。


「何言っているのよ。20なんて無理よ。あんたもう40超えているのよ」

テレシア様が呆れて言う。いや、今そんな事にこだわっている時ではないのでは。私は母にナイフを突きつけている男をちらりと見て思った。男はあまりのことに驚きのあまり唖然として金縛りのように固まっていた。


「あなたね。忘れている年のことを思い出させないで」

ムツとして王妃様がおっしゃるんだけど。




「き、貴様ら、この女がどうなってもいいのか」

やっと金縛りが解けた男が再度叫んだ。その顔は怒りのあまり目が吊り上がっていた。

「この女の体。グサグサに切り裂いてやっても良いのだぞ」

男はナイフを母に更に突きつけた。

「ヒィィィィ」

母が悲鳴を上げた。


「ちょっと王妃様、母が、母の命が」

私が思わず声に出して母の命がかかっている旨を口に出した。


「シルフィちゃん。何言っているのよ。あんたのお母さんはカマトトぶっているのよ」

「えっ」

私はこんな時に王妃様が何を仰っていらっしゃるのか判らなかった。


「あんたのお母さんは私達の中でも最強なのよ。後ろの男なんて瞬殺できるわよ」

「いや、でも」

「娘のあんたの前で、か弱い女を演じているだけよ」

王妃様は呆れたように言われるんだけど、どう見ても母はそうは見えない。このままでは母は殺されてしまうのでは。私の心配が当たった。



「ええい、貴様ら、何言っていやがる。この女の肌を切り刻むぞ」

男は母の首筋にナイフを少しきつめに当てた。


ブスッと音がして


血がたらーーーりと垂れてきた。


「あ、あんた、勇気があるわ」

テレシア様が男を呆然と見ていた。何故だ? 私にはテレシア様がおっしゃることがよく判らなかった。このままでは母が殺されてしまう。思わず私は母の方に向かおうとした。



ドン

「グッ」

次の瞬間、母の肘鉄が男の鳩尾に決まって男はナイフを取り落としていた。


「あんた、よくも私のきれいな肌に傷つけてくれたわね」

そこには山姥もかくやと言うほどの目を釣り上がらせピンクの髪を逆立てた母が立っていたのだ。


「ひ、ヒィィィィィィィ」

男は腕をひねられて悲鳴を上げていた。


「このきれいな肌を傷つけた貴様は、あの世でその事を侘びな」

その母の一言と共に、男は爆裂魔術で一瞬で後ろにいた男どもを道連れに爆発していた。


「えっ」

そこには恐怖で震えている母はどこにもいなかった。怒り狂った鬼がいたのだ。

兵士たちも唖然としている。


「ああああ、ティナを怒らせちゃった。もう知らないわよ」

テレシア様が呆れて言う。



「おのれ、貴様らも同罪よ」

プッツン切れた母は片っ端から爆裂魔術を残った兵士たちに浴びせていた。

兵士たちは抵抗する間もなく次々に爆発の中に巻き込まれていった。



爆裂魔術はオンボロ屋敷にも命中。大きな屋敷が一瞬で炎に包まれる。



「に、逃げろ」

やっと正気に返った兵士たちは慌てて逃げようとするが、


「逃がすわけ無いでしょう」

逃げようとした兵士たちは王妃様の雷撃を受けて一瞬で黒焦げになってしまっていた。



「ちょっとあなた達、何殲滅しているのよ。一人くらい残していないと誰が黒幕かわからないじゃない」

テレシア様が言った時はもう立っている兵士たちは誰ひとり残っていなかった。


そこには怒り狂って仁王立ちしている母と、面白がっている王妃様と、呆れ果てた感じのテレシア様と呆然としている私しかいなかった。


悪魔の三つ子って怖い!!!

私は母も含めてこの3人には絶対に逆らわないようにしようと心に誓ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る