第19話

「む? 勇者か?」


「げっ!? ヘーキチ?」


 思わぬところで、思わぬ人物に会った。まあ、魔王城に向かうのであれば、出会うこともあるか。

 勇者一行は、憎悪の目で私を見ている。しかし、パーティーメンバーが増えたな。しかも、女性ばかりだ。ハーレムと言っても過言ではない。


「なにしに来た! ……てめぇのせいで、聖剣が失われたんたぞ?」


 聖剣……。あれか、私が素手で折った、国宝の剣だったな。


「手合わせだったのだ、武器を失ったといっても、文句を言われる筋合いはない」


 勇者一行は、これ以上ないほどの憎悪の目で私を見て来た。見知らぬ顔も多数だが、話を聞いているのだろう。

 その意気込みを、魔王討伐に生かして貰いたいものだ。


「はん! だがな、新しい聖剣が手に入ったんだ。そして、パーティーメンバーも充実している。今ならば、魔王も倒せる!」


 なんだ、新しい聖剣って……。

 以前のは、国宝の聖剣だったが、聖剣というのは複数あるのか?


「そうか、頑張ってくれ……」


 ――シャキン


 ここで、勇者が剣を向けて来た。神々しい光を放っている。

 玩具としては、一級品かもしれない。

 それと、勇者に呼応するかのように、勇者のパーティーメンバーが隊列を整えた。


『6人、6人、6人……。計18人か? 隠れている者がいなければだが』


 勇者を除く17人が、勇者にバフ効果を付与して行く。


「ほう……。考えたな。多人数によるバフの重ね掛けか。一撃必殺であれば、有効だな。まあ、ネタが割れた時点で終わりだが」


 薩摩示現流を彷彿とさせる、その戦法。

 嫌いではない。

 死を恐れないその覚悟は、賞賛に値するとも言える。


「うるせぇ! 魔王の前に、ヘーキチ! てめえで試してやる!!」


「ふ~、やれやれだぜ……」


 ――ブチ


 勇者がキレたようだ。なんとも挑発しがいがある奴だ。

 私は、武器を地面に置いた。

 私の武器は、金で買える物なんだ。あんな神々しい武器を受け止めたら壊れてしまうかもしれない。前の世界で節制した癖が、いまだに抜けていないな……。兆単位の資金があるというのに。染みついた生活習慣の改善……、まあ徐々に感覚を慣らして行こう。

 戦闘ヘリコプターができれば、感覚も変わるだろうし。


 考えていると、勇者の聖剣が迫っていた。

 私は、ボクシングスタイルをとる。

 そして迎撃だ。


 右ストレートを放つ。

 ここで、勇者が止まった……。

 剣の峰で受けて来たのだ。

 なんだ、薩摩示現流ではなかったのか。さっきの賞賛を返して欲しい。

 私はそのまま拳を振り抜いた。


 ――ビリビリ……、バキン、ベキ……


 聖剣が折れて、勇者の顔面に拳がめり込んだ。それと、ちょっと痺れた。

 だが、勇者は吹き飛ばされない。

 バフの重ね掛けが効いているみたいだ。


「「「なんですって~~~~~~~~~~~~~!?」」」


 む? 勇者のパーティーメンバーの悲鳴が木霊する。

 聖剣には、どんな意味があるのだろうか……。

 まあ、興味がないので聞かないが。

 それと、勇者だ。


「意識があるのか……、凄いな。だが、痛いんじゃないのか?」


 私の一撃を貰って倒れなかったのは、ドラゴンくらいだ。

 勇者は鼻が潰れて、大量の出血が見られる。


「う、うるへぃ……」


 勇者は、見るからにフラフラだ。楽にしてやろう。

 私は、チョッピングライトを放った。地面をバウンドして勇者が浮かび上がる。そこに、ホ〇イト・〇ァングばりの、スマッシュで追撃した。左手の拳で、肝臓を抉る一撃だ。

 勇者は、天高く飛んで、パーティーメンバーのはるか後方に着地した。

 それと……、聖剣の光が失われていた。


「これ、貰ってもいいか?」


 光らない聖剣を拾い上げる。折れた刃先の方もだ。だが、誰も答えてくれない。

 光らなくなったので、興味がないのかな?

 結構硬かったので、使えると思ったのだが。

 形を整えて、短剣二本に変える……か。うむ、後で研ごう。そうしよう。

 私は、折れた聖剣をコッソリとマジックバッグに仕舞った。

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