第5話
「金貨三十枚のマジックバッグを入手完了……。もう少し値切れたかもしれないが、資金は十分にある。ギルドで換金していると思えば、まあいいだろう……」
「あニョ~」
隣のミルキーを見る。なにか言いたそうだな。
「性能を試したいのか?」
「そうじゃニャくて……、金貨三十枚なんて返せません二ャ」
別な心配事なんだな。驕る金額ではないということか?
後から返して貰えれば、私としては文句もないんだが。
私は、手入れされていない庭の朽ちた立木を鷲掴みにして、一本引っこ抜いた。
長さは、5メートルくらいだろう。
ミルキーに渡す。
「マジックバッグに入れてみろ」
「は、はいニャ!?」
ミルキーは、バタバタしたけど立木を全てマジックバッグに入れた。
「凄いのニャ。本物なのニャ……」
問題なさそうだ。
事前検証も済んだので、ミルキーの表情も和らいだようだ。
「次に行くぞ。時間は有限だ」
「は、はいニャ!?」
これから買う物が、たくさんある。私達は、店を回った。
◇
順番に買い物ができた。
まず、街中で売っている、水筒を全て買い取った。一般庶民が使う竹を素材とした物から、百リットルくらい入りそうな樽まで。ここで気が付いた。店の主人は在庫を売る気はないんだな……。店の裏に、在庫が見えたのだ。
『買占めは良くないかもしれない。必要だとはいえ、買占めない程度に留めて置くか』
「準備できたのニャ」
ミルキーは、全てをマジックバッグに入れたみたいだ。
「……これだけあれば、二人で一ヵ月は生きて行けるか……。今は秋で、森に実りも多い。時期的にベストと言えるな」
ミルキーは、顔が真っ青だな。これから過酷なキャンプを想像したのかもしれない。
まあ、一ヵ月後には、この街でも五指に入る冒険者になっているだろう。
人は命の危機に瀕すれば、才能を開花する。私はそれを知っている。教えも受けて、そうやって育って来た。そして……、人も育てた。
鍛えがいがあるな。
ミルキーが、この街で勇名を馳せる……。
そんな楽しい未来を想像しながら、私は次の雑貨店に向かった。
◇
「一通り揃ったな」
「……家一軒分の物資を、『一通り』とは言わないのニャ」
緊張も解れて来たらしい。いい突っ込みだ。
今は、川で水汲みをしている。
「いくらマジックバッグに時間停止機能があるからって、こんなに水筒を買って使い切れるのかニャ~?」
ミルキー……、気を抜くのはいいが、心の声が駄々洩れだぞ?
「次の目的地は、火山帯だ。まあ、多過ぎて困ることはない」
ミルキーが、驚愕の表情で私を見る。
「……はっ? 何しに行くんですかニャ?」
「熊退治と思ったが、予定変更だ。サラマンダーの群れが住み着いて、活性化している火山は見えるか? あの火山だ」
私は、東を向いた。今は夜中だけど、噴煙が輝いて見えるほどの噴火が起きている。
「え~と。あの火山に向かうのですかニャ……。サラマンダーが群れで住み着いているのニャ」
「だからだ。誰も行こうとしない。このまま行くと、サラマンダーのボスが『異次元の扉』を作り出すんだそうだ。破壊しに行こうと思う」
ギルドからの情報だった。この一ヵ月間、火山に魔力反応があったそうだが、誰も確認しに行かなかった。そこで今回は、私とミルキーでの調査だ。
「……何人ですかニャ?」
「ん? 二人だが?」
ミルキーが倒れてしまった。
おいおい、ここは川だぞ?
流されるなよ。
私は、ため息を吐いて、流されているミルキーを追いかけた。
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