第10話 次女来襲

「なんか……向こうに凄い数の霊が集まってるんだけど……」


 ミカエラは街に入るなり、俺の実家の方角を指した。この距離で感知できるとは、大したものだ。


「あぁ、五大勇者の霊に祟られてるんだろ。イエラさんの【天の眼】に加えて、ラークさん、オリヴィアさん、ヴィアクさんの霊が常駐してるからな」


 どす黒い瘴気が立ち込めているのが見える。並みの者なら発狂しているだろう。


「なんか、五大勇者のこと、長い付き合いみたいなかんじで呼ぶね……」


 ミカエラは感心しているというより、呆れたように呟いた。


「実際そうだからな。俺が今まで五人の呪いを抑えてきたんだし。それにつられて、五大勇者に討伐された邪神の眷属の霊も集まって来てる。こりゃあ長くもたないな」


「見つけた。ヴェルデ」


「お前は……」


 次女のバルカだった。俺の三つ上で、スキル【アストラル・シンクロナイズ】に覚醒した有望株だ。天体の放つ光を操ることができるレアスキルの持ち主だ。


「何しに来た。俺はもう追放された身なんだが」


「愚昧な弟のせいで国中が迷惑している。あれを何とかしろ」


 バルカはそう言って上を指した。開眼した満月が天上に浮かんでいる。


「俺のせいじゃない。むしろ俺はあれを止めていた側なんだが」


「世迷言を。お前の怨霊云々の話はもう飽きた。どうせイエラと手を組んだのだろう? 死んだふりをしてまで我がアルバレス家を陥れようとは。悪辣な女だ」


 俺の悪口だけならまだしも、イエラまで侮辱するか。恐れ知らずな奴だ。


「言いがかりはやめて……」


「イエラ様を侮辱するなんて! 許せない! 撤回してください!」


 ミカエラの方が先に激怒した。


「あ? なんだ神官服? 私に楯突いてこの国で生きていけるとでも思っているのか?」


「撤回してください、と言いました」


 ミカエラは低い声で警告する。まさか、ここで戦う気か?


「よせミカエラ。こんな奴相手にする必要はない」


「いえ、許しません」


 意外と強情なんだな。


「とんだ無礼だな。ならイエラの首を持ってこい。それで許してやる」


 バルカの方はと言えば、謝るべきはミカエラの方だと思っているようだ。どうしようもない奴だな。


 刹那、乾いた音がした。


 ミカエラがバルカの頬を叩いたのだと、数瞬遅れて気付いた。


「ほう? そんなに死にたいか?」


 口調こそ静かだが、バルカの方も激怒しているのが分かる。こいつをキレさせると厄介なのは、実家の全員が知っている事実だ。


 まずい。奴のスキルが来る。


「【アストラル・シンクロナイズ】」


 天体の光を操るバルカのスキルが発動し、辺りは突然暗くなった。

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