第5話 初討伐
木々が薙ぎ倒され、地面が抉られる轟音が近づいてくる。
だが、不思議と恐怖は感じない。難なく対応できる気しかしない。
眼前の木が倒れて視界が開け、黒い大猿が姿を現した。
何やら大声で吼えているが、別に驚かない。亡者の声を何人分も聞かされてきたので、耳が慣れているのだろうか。
俺が大猿を見据えると、相手はぎょっとして狼狽えたように見えた。
ステータスを見ると、霊力:50/499。大したことないな。ビビられて当然か。
とはいえ筋力では向こうが大きく勝る。油断はできない。
視認不可能な速さで剛腕が飛んでくるが、無意識の動作で避けた。
紙一重だったが、なぜだか避けられたことが当然のように感じる。昔から当たり前のようにできていた芸当のように思えた。
これも、レギアさんに俺の中の霊力を活性化してもらったからだろうか?
俺は近くに落ちていた木の枝を掴み、構える。剣の類いはほとんど握ったことがない。よって実家からも剣は買い与えられていないからだ。
だが、さっき流れ込んできた知識のおかげか、木の枝が長年使い込んできた馴染みの武器のように感じられた。
俺はゆっくり息を吸い込み、枝を横に薙ぐ。
「剣技【グローム】」
なんの魔力も纏っていない弱い一撃が、相手の脇腹に当たる。避けるまでもないと判断されたのだろう。簡単に命中した。
だが、大猿の全身を衝撃が駆け巡るのが分かった。手応え十分だ。
魔物は白目を剥いて昏倒した。
「これが……霊力による攻撃ですか」
「そうだ。これこそが肉体を破壊せず、魂に直接作用する力。生き物にも通用すると、分かってもらえたか?」
レギアさんは得意気だ。
「はい、そして、もう少しできる気がします!」
「? なんのことだ?」
俺は、木の枝を聖剣に見立て、魔力を集束させる。
やはりか。
レギアさんから聖剣の扱い方に関する記憶も受け継いだことで、聖剣にしか宿らないはずの能力も使える。
それこそ魔力集束。
これなら物理的ダメージも与えられる。
俺は木の枝を思い切り縦に振り抜こうとしたが、できなかった。
木の枝は既に、高負荷に耐えきれず霧消していた。
「さすがだな。ここまで技を盗まれるとは思っていなかった。だが、まだお前には早いようだ」
レギアさんにそう諭されると、急に強い疲労感に襲われ、俺の意識は遠のいていった。
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