雪月との出会い-2
まずは、僕の本を読んでみますか。
そう誘われて雪月の家を訪れた。古くて小さな長屋の家で、風通しが良いと言えば聞こえはいいが、冬は寒かろう。
「照れますね、女性を家にお招きするのは」
そういって雪月は口元に笑みを湛え、どうぞ、と玄関を開けた。部屋に上がると、書きかけの原稿用紙や資料と思われる書物が散らばっていた。
「あの、先生……。お顔色があまり良くなくお見受けしますが……、お食事……などは、どうされていますか……?」
華乃子が遠慮気味に問うと、雪月は、食事、ですか……、と返事を躊躇った。その様子に、雪月の返事の内容が分かった華乃子は、若干雪月を問い詰めるような声を発してしまった
「まさか……、召し上がってらっしゃらないとは……、おっしゃいませんよね……?」
「ああ、そういうことはないのですが、何と申しましょうか、あまりお腹が減らないので」
そういって雪月は遠慮気味に微笑む。
やはり。こんなことに見事命中したくはないが、食欲がないからと言って、食事を抜いては駄目だ。雪月の白い顔や身体は、やはり食生活が不十分だったからだったのだ。
「先生……。ご執筆に精力的なのは良いことだと思うのですが、体あってのご執筆だと思うのです……。夕食だけでも……、きちんとしたものを召し上がってくださいませんか……?」
華乃子の言葉に雪月先生は、困ったように、そうですねえ……、と煮え切らない様子だ。手間のことを考えているのであれば、新しい職場で早速華乃子の仕事が決まる。
「あの……、も、もし……ご迷惑でなければ、……私が、お作りしましょうか……?」
「え、いやそんな。そこまでしていただくわけには」
雪月は丁寧に華乃子の申し出を拒絶しようとしたが、それでも家事に慣れない男の人が下女もなく、毎日食事を作るのは大変だ。華乃子は子爵の長女でありながら、父や継母からの蔑視の結果、居を別宅に移されてはなゑと一緒に家事をしていたので、はなゑに教えを乞うたこともあり家事全般一通りできる。給料のいくらかには余裕があるし、それを雪月の食費に回せないこともない。
「あの……、私もまだ先生の担当になったばかりで、何がお役に立てるか分かっていないのです……。ですので、出来ることから、させてください……」
畳に手をつき頭を下げて、華乃子は、そう、雪月に懇願した。雪月は困ったように笑っていた。
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