第10話『いいことを言った後は……』
「ポール……いいこと言うじゃん」
キーツの言葉にナタルが突っ込んだ。
「キーツ、それはトゥーラのセリフでしょ。盗っちゃダメだよ」
「あ、そうか」
トゥーラはクスッと笑ったが、改めてポールに聞いた。
「じゃあポールはどんなふうにするのが一番いいと思うの?」
ポールはこれまで誰も見たことのないような豊かな笑顔で言った。
「俺に相談してくる人の大半はね、「失敗したらどうしよう」とか「恥をかきたくない」とか、不安と重圧で潰れそうになってるんだ。だから、自由な想像力をはばたかせることなしに、天と繋がる方法はないって断言した。自由でいいんだ。読み手のことを考えて創作するのがプロなら、考えずに好きなように創作するのが芸術家なんだと言いたい」
「うん」
トゥーラの優しい合いの手が入る。
「童話とか伝説とか、カテゴリーはあるけど、その制限の中で創作した方が背筋のしゃんとしたものができるんだ。童話みたいな伝説や伝説みたいな笑話だって構いやしない。天を面白がらせようじゃないかってね。あ、俺偉そう?」
「ううん、素晴らしい心意気だわ」
「ありがと。つまりそういうふうにね、尻込みする人の背中を押したら、そこでもう俺の役割は終わりなんだと思うよ」
「ええっ?」
「終わっちゃったよ」
キーツとナタルがコケる。
「人の創作活動にとやかく言う筋合いじゃないもん、俺」
ポールはぐんと両腕を上に伸ばした。
「それでいいのか?」
タイラーに聞かれて、ポールはうっちゃって言った。
「いいの、いいの。だいたい俺にしたって神懸かりでいいとこ持ってかれたんだからね。もうちょっと遊びたい」
「本音はそれか」
「まぁ、神懸かりというか、躁状態の俺ってそんなノリなんだけどさ。自分の高みを知りたいんだよね」
「はぁ」
全員、ポールのあくなき探求心に釣り込まれた。
「じゃあ、話し合いはご破算だな」
タイラーが前髪を搔き上げながら言うと、ポールは言った。
「ちょっと待ってよ。俺は君らにも言いたい。「これで終わりにするつもりかい? 扉は開いたばかりだよ」」
「えーっ、まだやんの⁈」
「俺の中で一番上等なイメージだったんですけど」
キーツとナタルが騒ぐ。
「じゃあ、一番ふざけたイメージとか、一番変なイメージもあるでしょ。——離しまへんで」
「いっや――っ!!」
二人で抱き合う。
「……仕方ない。ポールに発破かけられながら、生みの苦しみを味わってみるか」
マルクが諦めると、タイラーがげんなりして言った。
「発想が貧しいのがバレちまうな」
「大丈夫、イジメないから。な、ナタル?」
マルクがからかい半分で言った。
「……俺に振らないでくれよ」
ナタルが無意識にタイラーから身体を背けた。
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