第6話『人類の行方』

 またある時、ナタルがマルクに尋ねた。

「それで改めて質問なんだけど……生命の樹が俺たち人類をレベル毎に振り分けるんだよね。どういう風にしていくわけ? いろいろな事情があるだろう。それを一つの意思で振り分けるってかなり難しいと思うんだけど」

 ポールも改めてそう思った。

「そうだよね……例えばさ、ある家族がいて親父がどうしようもない呑んべぇで、妻子に暴力ふるって荒れてたとする。この親父は俺が判断するに因果界往きね。でもさ、妻子はそれを免れるけど、この親父に依存心を持ってたら? それでも引き離されちゃうのかな」

「うーん」

 マルクも唸ってしまった。

「普通に考えて……引き離された方が妻子のためだよね」

 キーツが言うと、アロンは疑問視した。

「その場合、あとのフォローは誰がするわけ?」

「——周りにいる人間でしょうね」

 ランスが成り行きを考えて言うと、ポールがまとめた。

「ね? そう考えていくと、混乱がどんどんどんどん水増ししてくのよ。振り分けるまではいいよ、問題はその後さ」

「あ、俺も思いついた。戦争で兵士になった人たちね。心ならずも人を殺してしまったとするだろ。でも、本質的にその人は善なんだよ。後悔したり悩んで苦しんだり、人がもういいよ、って考えるよりも深く傷ついて……そういう人たちは? 法律では罪を問われることもあるし、問われないこともある。生命の樹はどう判断するんだろう」

 ナタルの疑問に、ランスが答えた。

「きっとそういう人たちには深い癒しが必要ですから、みんなと一緒に虹球界に往けるんじゃないでしょうか。彼らには戦争という者の愚かさ虚しさを後世に伝えるという役割を担ってもらったらどうでしょう。二度と戦争を起こさないために、新しい世界をどう導くか。その布石をお願いできたらいいと思いませんか」

「もういいじゃないかって言ってあげられる判断があったら素晴らしいですよね」

 ルイスも大いに賛同した。

 

 アロンも思いついたようだ。

「あとさ、精神的に心を病んでいる人って、どう振り分けるんだろうね。少し間違えば、判断が狂えば自傷することもあるだろ。因果界往きでは気の毒だし、かと言って真央界に残って万世の秘法を正しく理解することも難しいだろうし」

 これにはタイラーが答えた。

「それはだな、俺が思うに因果界往きはないと思う。言ってみればまま子みたいなもんで、万世の秘法の理解よりも健康で暮らせることの方が重要だから、別枠を設けるような形になると思うぜ」

「そうか――そういうことになるのか」

 メモを取りながら、合いの手を入れているのはナタルである。

「でもさ、今の時点で真央界では病気扱いだけど、因果界では正常だって例はごまんとあるじゃない。一概には言えないと思うな……」

 キーツが言うと、ポールはさらに付け加えた。

「そんなこと言ったら呪界法信奉者はどうなるわけ? 負エネルギーの土地にいるから異常だって扱いでしょ。ある意味障害ある人よりわかりやすいんじゃないの」

 ランスがなだめる。

「その場合、呪界法信奉者は負エネルギーを利用し、世界に混乱をもたらす悪ですから。自発的な分だけ選択肢が一つしかないということでは?」

「ああ、なるほど」

「じゃあこれは? 自殺して亡くなった人。神様からいただいた命を投げ捨てたってことで、一部には人間にしばらく生まれ変われないって処断もある。その法則は虹球界でも適用されるのかな」

 キーツの意見に、タイラーがおぼつかなげに言った。

「そう……じゃないか。新しい世界には往けるが、輪廻はやり直しってことで」

 アロンは納得しながら言った。

「ということは、これまでの法則が大体生きてるんだね。生命の樹の判断っていうのは、あくまでも神の法の中でのことなんだ」

「新しい世界には往けます。ただし因縁は考慮されます、ということですね」 

 ランスがまとめると、ナタルがふーっと息を吐いてから言った。

「ほんのちょっとしたきっかけで道を外れてしまった人もいるのに、常に良心を問われてるんだね」

 キーツも頷くと言った。

「今、こうしている間にも選択はなされてるんだよね。事実を知ってる僕らはともかく、知らない人には不公平かも」

 ランスも続いた。

「きっと目に見えない高き存在が、必死に働きかけてるんでしょうね。少しでも多くの人が虹球界へ往けるように」

 アロンが締めくくる。

「たぶん、俺たちの想像が及ばないくらいにね」















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