第6話『思案』
「ところでその名のない力がなんなのか、って話なんだが」
ある日、マルクが例によって切り出した。
「そうそう、なんなわけ?」
ポールが表情をぐにゃりとさせて聞き返す。
「万世の策士、ドギュスト部長によると、そのまんま世界の大変革を促すエネルギー塊なんだそうな」
「だってさ、いきなり名のない力が衝突しますったって、予測が効かない変なもん、調べようがないじゃんか。あのウェンデス様だって予見できない現象をどうやって説明すんの?」
ポールの言葉に頷きながら、疑問を口にするアロン。
「そうだよな……世界の構造そのものは割と知られてるけど、それって第七層虹球界辺りの理でやってくるものなのか?」
ランスも問う。
「もう30世紀近くになりますけど、今回のようなことがあったとは記録があるんでしょうか」
「一つずつ答えるとですね。ポールの質問は、説明にならない部分はあるが、わかっていることはあるってことだ。アロンの質問はノーで、名のない力は第六層以下の世界で無軌道に巡ってるものらしい。ランスさんの質問はイエスで、どうやら2回ほどニアミスがあったようなんだな」
「ニアミス?」
ランスが聞き返すと、マルクは続けた。
「1回目が創世紀のカプリチオ女王が在位していた時で、2回目が1500年ぐらいのことだっていうんだが。これにも伝説の人物が関わってるみたいだぞ」
「誰だ?」
タイラーが問う。
「フローラ・フラメン。パラティヌスを侵略者から守った伝説の聖女。あの内宮様の前世だってさ」
「へぇーっ」
ポールとキーツが驚く。アロンも興味深げに言った。
「因縁めいてるなぁ。カプリチオ女王もフローラ・フラメンも、それにレンナちゃんも含めて、パラティヌスの関係者じゃないか」
「そうなんだよなぁ……血縁ってこともあるかもしれないな。一族の」
マルクが推し量って言うと、キーツが苦笑した。
「どうでもいいけど、全員女だね」
「男って何? ですよね」
ルイスも受け合う。
「ニアミスがあったということは、当時は名のない力を予見する人間がいなかったんでしょうか?」
ランスの問いに、マルクが答える。
「どうもそうらしいですよ。でも、当時は大変だったらしくて、天窓の鍵みたいな神の道具も下賜されてなかったから、文字通り衝突しかけて、あわや大惨事という記録が残っているそうだ」
ポールが背筋に冷たいものを感じながら言った。
「じゃあ、相当ヤバいんだ、その力。でも何で今回はその辺りの事情がスルーされてるんだろうね」
「天窓の鍵があるのと――もう一つはこの世界がレベルアップしたせいじゃないですか」
ランスが言うと、アロンも続く。
「うん、俺もそう思います。万世の魔女、レンナちゃんばかりがクローズアップされがちだけど、世界の切り札が彼女の登場で用意できたってことなんだよね。ひいては万世の秘法が神々や偉大な師に認められた、ということじゃないかな」
ポールが人差し指を立てて言った。
「やっててよかった、万世の秘法、ってなもんだ」
「はっはっは」
全員が笑った。
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