第3話『ぶつけられた心』

(強がってるけど、本当は傷ついているんだね) 

(まだ生々しい過去なんだろうなぁ)

 リーダーの中では情緒的なオリーブとキーツが同じ意見に至った。

「それで別々の養父母のところに引き取られて、音信不通になってました。童話の里で再会した時は、すごく見直したのに。成人しても人との関わり方がちっとも変ってなくて、うんざりです」

「人はそう簡単に変われるものじゃないんですよ」

(ナイスフォロー! グッジョブ!)

(ちょっとポール、あーたも参加したらどうなのよ!)

 オリーブが傍観者なだけのポールに発破をかける。

「それだけじゃなくて、何度も話しかけようとしたのに、自分の殻に閉じこもって出てこないんですよ。そんなに施設出身なのが恥ずかしいの⁈」

 コノミは目を強ばらせて、激しく首を振った。

 ユチカは苛立ちのあまり泣いてしまった。

(あーあー、もうどうするよ?)

 何の手も打てないポールと違って、ランスはコノミに囁いた。

「いい機会です。誤解は解いておきましょう」

 コノミは慎重に頷いた。

 本を胸に抱いたまま、靴を履いてユチカのところまで歩を進める。

 すうっと息を吸って、静かに伝える。

「ごめんね、ユチカちゃん。私も話したかったけど、ユチカちゃんが別人みたいにみんなと楽しくお話してるから、邪魔したくなかったの」

「ふざけんな!」

(あたーっ)

 ポールの乾いた声が響く。

 ユチカはなおも言う。

「この愚図! だったら自分も変わればいいじゃない。約束したでしょ、いつか自然を守る仕事をしようって。せっかく……せっかく夢が叶ったのにつまんない! あんた見てると私までなんにもできない子どものままみたいでしょ‼」

「はいはいはいはい、スト――ップ! ユチカちゃんの言うことはもっともだから、ちゃんと二人の言い分を聞くから、とにかく落ち着こうよ」

 硬直してしまったコノミに、実力行使しようとしたユチカの手首を掴んで止めるポール。 

(ポールさん、タッチ)

(へ?)

 ポールがランスの方を振り返ると、親指をぐっと立てていた。

(いい仕事、期待してますから)

(……)

 バトンはポールに渡された。こうなっては仕方ない。自分の領分で解決に持っていくしかない。

 よし、見てろ。

 ポールはユチカとコノミを椅子に座らせて、間に立った。

「まずは甘い飲み物でもいかが?」

 そう言って、自分の家からポットにマグカップ、ティースプーンにココア缶をテレポートさせた。

 効果は絶大で、まるで魔法のようなファンタジーに、コノミもユチカもびっくりうっとりしている。

 ポールは慣れた手つきで、あっという間にマグカップにココアをたっぷり入れてかき混ぜ、2人に差し出した。

「さぁ、熱いうちにどうぞ」

「……いただきます」

「……」

 ぶすっとしていたユチカだったが、目はキラキラしていた。

 コノミはおっかなびっくりではあったが、両手でマグカップを包んで一口飲んだ。

 首尾が上々なのは、2人の間の空気が和らいだことで明白だった。

「よっと」

 ポールは2人の脇に椅子を持ってきて座った。

「さてさて、ほっこりしたところで、話しようか」

 そう切り出して、気楽な調子で語りかける。

「コノミちゃんが持ってる本って、『妖精と仕事するには』じゃない? 愛読書なの?」

 コノミがこくこくと二度頷いた。期待されている。

「俺もね、この童話好きなんだ。

”妖精と仕事するには、誠実さが必要です。

汗水流して働いて、分け前をちょっぴり恵んでくれる。

そんな人には妖精も、とっておきの魔法でお礼してくれます……。”

こういう始まり方するんだよね」

 コノミの目が輝いた。ポールはユチカにも聞く。

「ユチカちゃんは知ってる?」

「はい! だって、自然を守る仕事がしたいって思ったのは、その本がきっかけだから」

「へぇ、やっぱり! 俺もこの童話読んで、願わくば妖精と一緒に仕事してみたいと思ったんだよね、うん」

(本当かよ)

(黙らっしゃい)

 タイラーの疑いを蹴散らすポール。

「俺はここんとこが一番好きなんだよね……」

 二人の心を掴むため、ポールの舌がかくも滑らかになる。  
























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