第2話

 結果から言う。

 見た映画は、面白くなかった。

 とんでもなく、つまらなかった。

 こんなにハズレな映画を見ることなんて、一生ないと思っていた。


 出て来た時には、ジュースもほとんどなくなった。(私はいつも、ジュースの減り具合でその映画が面白かったかどうかを判断する。)

 

「じゃあ、カフェ行くか。」

 映画館を出てすぐ、かなりサラッと言われて、驚いた。

 まさかのまさかだ。

「えっ」

 私が固まってしまったからか分からないが、メガネくんは慌てて「別に、自由参加だから。いや、いっつも妹とこの流れだからつい。」と言った。

 誤解だ誤解

「いや、別に嫌とかそう言うことじゃなくて。ただ、メガネくんからそんな言葉が出てくると思わなくて。ほんとそれだけ。」

 ねっ?分かってよ。

「はっ?お前バカにしてんのか!」

 あー怒らせた。

「違うって、驚いただけ。てか、正直嬉しいし」

 言っちゃった。今までで一番驚いた顔してるじゃん。


「えっ?????」

「何でもない。早く行こ。」

 メガネくんの焦ってる姿を見て、こっちは恥ずかしくなった。早足で映画館を出て行くと、後ろから足音と共に「おい、エスカレーター逆だぞ。」という、笑いを含んだ声が聞こえてきた。


「うるさい!」





 映画館の入っているショッピングモールから10分のところにあるカフェ

 別に、ショッピングモールにもカフェはあるのだが、同級生に見つかる可能性がとても高いので、やめておいた。それに比べてこのカフェは、結構穴場で勉強しに来ることもある。

 

 黒い壁に、磨き上げられた大きな窓、中へ入るとウッド調の壁と本棚に並ぶたくさんの本、暖かいオレンジ色の照明が非日常を作り出している。


「二名様ですね。こちらへどうぞ。」

 時々会う、笑顔の素敵な店員のカナさん。大学生だったはずだ。

 通されたのは、大きな本棚の奥にある、正面からは見えない席だった。

 粋な気遣いに感謝した。

 二人で席について、お冷を飲みながらたくさんの美味しそうなメニューと睨めっこした。

(あー、キャラメルホットミルクは決まってんだけど、どうしよう。初めてのアップルパイにしようか、それとも安定のチーズケーキにしようか・・・)


「俺は、カフェオレとチーズケーキ」

「私は、キャラメルホットミルクとアップルパイをおねがいします。」

「かしこまりました。」

 正直、カフェオレが飲めるメガネを羨ましく思った。

 私は、コーヒーもコーヒー牛乳も紅茶もミルクティーも飲めない。父からは、「そんなんじゃ、世の中生きていけない」と言われた。一理あるが、いつか克服するつもりなので、あまり気にしない。


「映画、面白かった?」

 伺うような目でそう尋ねられても・・・かわいいなぁ。あの、地味でダサい学校で見せている姿は、何だったんだ。

「正直なこと言ってもいい?」

「どうぞどうぞ」

 感情的になってはダメだと自制心が咎めたが、私は正直になってしまう人間なのだ。

「ま・じ・で、面白くなかった。」


 そういうと、メガネくんは一瞬にしてホッとした顔になって、

「よかったー俺だけ感情バグったかと思ったー」

 と言ったので、お互いにほっとした。

 それから、映画の話をし、好きな本の話をし、途中で飲み物とケーキが運ばれて来た。

 

 キャラメルホットミルクは置いておいて、先にアップルパイを口に運ぶ。メガネくんも、チーズケーキの外側のカリカリしたところから食べ始める。独特だなぁ

「うまっ」

「おいしっ。今まで食べたアップルパイの中でダントツ一位だわ。」

 パイ生地が、外はパリッパリで中はフィリングの汁が染みてジュワッと。りんごはとろっとしたところと、りんごのシャキシャキした部分が残るところがあって甘味も絶妙でとても美味しい。

「うまそうに食べやがって。俺も一口もーらい。」

 手を伸ばして、アップルパイを少し取っていった。

「あー」

「別に、いいだろ。じゃあ、俺のチーズケーキも一口やるよ。」

 あっなんか優しいぞ。

「おっ、あざっす。」

 一瞬、「間接キス」というワードが頭をよぎったが、ちょっと違うなと思った。

「うまっアップルパイ久しぶりに食べた。」

「最初の反応、全部一緒なんだね。」

 笑っていってやると、すぐに反論される。

「うまいものをうまいと言う。正しいからいいじゃねぇか。」

「はいはいそうですか。」


 私もメガネにならってチーズケーキを少し掬って口に運んだ。

「おいしっ!!2度目だけど、やっぱり美味しい。」

 チーズケーキはクリームが濃厚で、それなのにレモンでさっぱりしている。

「お前も反応一緒じゃねーかよ。」

 頬杖をつきながらこちらをみて言うので、私も少しふざけて

「覚えてなーい。」

 と言ってやった。

「おまえなぁ」

 また、映画や本の話に戻って、会話が弾んだ。


「あの作家の本は、ストーリーって言うよりか、心情描写だよな。あれを映画化するのは、結構きついと思う。」

「確かにねぇ。でも、結構映画化されると進化することも多いし、狙いとしては、あのなんとかって言うバンドの音楽と、この物語を組み合わせた映画だから、いい感じになる気がする。」

「そっかー・・・なんとかって随分とアバウトだな。」

「別に、そこまで気にしてないくせに。」

 最後の方はメガネくんも笑っていたので、こっちも笑ってしまう。

「よくご存知で。」




 小1時間ほどカフェに滞在し、映画館同様、割り勘で会計を済ませた。

 カフェからまたショッピングモールの方へ歩いて行くと、バス停があるのでそこで私はお別れだ。

「今日はありがと。映画はあんまだったけど、メガネくんと語り合えて楽しかった。じゃあ、また学校でね。」

 私は、今日一番の笑顔でそう言った。

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