第15話 金をよこせ

『うぉおぉ!すっげええ飛んでるぅう!』


 世間が夏休みとやらに入るよりも少し先に、俺とタツヤはドイツへ向けて飛行機に乗った。

 1週間前から母親には匂わせてはいたものの、つい3日前に伝えた時は白目を剥いていた。その後落ち着いて話すと、意外にも承諾、それなりのお金も用意してくれた。


 そして今、メインベルク空港へ降り立つ。着陸の衝撃はなかなかなもので、おそらく実体があったらズボンまで湿っていただろう。

 日本とは意外にも気温差はなく、こちらの方がやや涼しいといった感じだった。


 タツヤが取っていたホテルにチェックイン。そのまま夜を明かして疲れを取る。

 2日目はいよいよ城へ向かう。ホテルより徒歩で行ける距離で、街を散策しながら歩いた。本心を言ってしまえば緊張してすぐには行きたくない。何日か観光してからでもいいじゃないか、と思う。


 歩いていて気づいたことがある。当時のままの、あの柔軟な建物が多いのだ。

 主要道路以外は石レンガで敷き詰められ、一定間隔で置かれた街に馴染む街灯。馬車が通れるくらいの狭い路地に路駐された車。

 色々違う所はあれど、まるで本当に当時に戻ってきたような感覚になった。


「お、これ何?」

『あ!懐かしい!これはだな、豚肉を使った料理で』

「うまそう、買おう。ワンプリーズ」


 人の話を最後まで聞く癖、つけさせよう。


「$%&’&#$%?」

「聞き取れん、なんて言ってるか翻訳して」

『任せな』

「#$%&’&%$#」

『え、ぜんっぜんわかんない。そういや俺の記憶日本語にされてるんだった』


 タツヤはため息をつくとポケットからスマホを取り出して、店主のおじさんの口元に近づける。

「#$%&%$&%?」

「紙何枚付けるかだって」

『はあ、便利だなぁ』


 路地に入って食べることにした。リュックを置いて、暖かい紙をめくっていく。その度に豚肉の焼けた、いい匂いが嗅覚と食欲を刺激する。

「わあ、美味しそう」

『早く食え』


 味覚を共有して味わっていると、何やらフード被った男集団が近づいてきた。

「なにあれ、ドイツのヤンキー?」

「#$%&%$#%&’!!!」


「なにを言っているか分からないけど..」

『なにを言いたいかは分かるな。せーの、』

「『金をよこせ!』」


 男たちは腰からナイフのようなものを取り出し、叫びながら迫ってくる。

「どうする?」

『漫画で読んだろ、足を使うんだ』

「あ、なるほど」

 タツヤは左足に思い切り力を込める。ムキムキが3人、細いのが2人。いずれも武装。よし、これなら。


『走れえええ』

「逃げろぉぉ!」


 普段から鍛えていたのが幸いし、逃げきるのに苦労はしなかった。

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