桜木さんとイケメンさん 完
朝香るか
1.友人に恋愛相談
吹っ切ろうと決意した日、友人に相談していた。
職場の先輩を忘れたいから、だれか紹介してと。
その3日後、既婚者の友人は早くも動いてくれた。
「ドレスコードありってこんなに背中開いていて大丈夫なのかなぁ?
もっと背伸びしない無難なこっちのドレスのほうが」
押し問答しているのは友人宅のドレッサー前。
「そんなこと気にしない。色気出さずにイケメンなんてゲットできるか」
私、桜木香を𠮟責しているのは、イケメン男性を紹介してくれるという
杏奈からドレスを借りようとしているのだが、用意されていたのは妖艶なドレス。
小柄な私には合いそうにない。
丈は引きずらずに済むが自分のイメージにあわないのだ。
「なに言っているの。自信もって」
「本当にギリギリだよ。これで料理とかいけるのかなぁ」
胸元はOK。でも腰のあたりがギリギリ。きちんと返せることを祈るのみ。
「いってらっしゃーい」
杏奈に見送られてレストランへ行くことになった。
職場の恋愛をしないように友達に紹介してもらって
大手企業勤務のイケメンと噂の男性と会ってみることに。
高級イタリアンレストラン。ドレスなんて初めて着る。
背中がぱっくり空いた深紅のドレス。
せっかく友人が用意してくれたドレスだが、
派手すぎるので桜色のストールでかくしている。
「こんばんは」
「初めまして。こんばんは」
声も低くて、身長も185センチくらいありそうだ。
正直言ってかっこいい。
「仕事帰りの服装で申し訳ない。
「お誘いありがとうございます。
レストランでの所作もスマートだ。本当に外見はパーフェクト。
後は性格。彼は質問をぶつけてきた。
「独身と聞きましたが、本当ですか? こんなに可愛らしいのに」
「とんでもない。仕事するのに手いっぱいで」
「そうでしたか」
緊張する。
ほめられたのっていつぶりだろう。
ずっと職場の先輩の目にとまりたくって、残業して成績残してきた。
オシャレを捨ててきた部分は正直、あるかもしれない。
ネイルはキーボードを叩きにくくなるからしていない。
プロポーションはキープしてきたけれど、
どこか化粧で素顔を誤魔化してきた気がする。
何年片思いをしていたんだろう。
肌ケア大丈夫だったよね。でも唇は荒れ気味かも。
「で、仕事の結果ほめられること多くなってきていて」
「面白い。しかし仕事のことに根を詰めすぎなのではないですか?」
「ですね。一人暮らしするぞってずーっと気を張っていた気がします」
勤務地はそこそこ都会だ。
夜道は危ないが、仕事もしたい。
だからできるだけ職場と自宅を近くして移動距離を減らすわけだが、
そうなると家賃だって馬鹿にならない。
家賃手当はあったが、手当を使っても足りない。
お弁当だって作りたいし。
節約して仕事に打ち込むのは精神的につらかった。
親には都会なんていかないで見合いしろと言われてきたから。
絶対に頼りたくなかった。
その部分でも安心なんて程遠かったような気がする。
友人もいる。仕事も住む場所もある。
だけど負けられない緊張感がずっとあった。
失恋した。
はなから恋ではなかったのかもしれないけれど、
勝ち目なんてこれぽっちもなかった。
誰かに頼りたい。
想いが涙になって流れ出る。
「ごめんなさい。」
慌ててハンカチで拭う。重いオンナだと思われただろうか?
「いいえ。頑張ってきたことは進藤さんからも聞いていますから」
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