途切れた恋の便り⑪
「まさか、本当に・・・」
カインは宛先であるエマの住所まで辿り着いたが、そこにエマは住んでいなかった。 かけられている表札からしてもエマの家でなくなったというのも本当なのだろう。 ただ諦めるにはまだ早い。
涙の浮かんだ眦を拭き上げその家を訪ねてみた。
「はいはい、今出ますー」
「こんにちは」
「お貴族様!?」
「そんなにかしこまらなくても大丈夫だ。 ちょっと尋ねたいことがあるんだが」
「は、はぁ・・・」
「エマはここにはいないのか?」
「・・・! 会ったことはありません。 私たちが越してくる前に住まわれていたようです」
「ここへはいつ?」
「越してきて5年程になります」
―――5年・・・。
―――エマの連絡が途絶えた頃と丁度重なるな。
―――行方不明になったと同時にこの家も引き払ったということか?
おそらくはエマが行方不明になったことが、貴族であるカインの怒りにでも触れマズいことになったのだと考えたのだろう。
薄情な気もするが、人一人どこかへ消してしまうような相手と思われたのであれば理解できなくもない。
「以前住んでいた方の行き先は分からないか?」
「すみません。 全く分からないです」
「そうか。 ・・・ありがとう」
しかしそうすると手がかりは潰えてしまう。 行方不明のエマもその家族の行き先も分からなければどうしようもない。 残念ではあるが、全てを諦め婚約者との縁談のため屋敷へ戻ろうかと考えた時だった。
「あの・・・」
話しかけてきたのはエマが元住んでいた家の先程の女性だ。 どうやら追いかけてきてくれたようで、何か大きな袋を持っている。
「お貴族様は手紙を取りに来たのではないでしょうか・・・?」
「・・・ッ!?まさか!」
渡された袋には自分がエマに送ったはずの手紙が大量に詰まっていた。
「これは!?」
「毎週月曜日にウチに手紙が届くんです。 それがどうも庶民には到底手が届かないような質の便箋で、もしかしたらお貴族様からのものなんじゃないかと思っていました」
「確かにこれは僕が送ったものだ」
「そうでしたか。 自分で送ったものならあまり意味はなかったのでしょうか・・・」
「・・・いや、助かった。 感謝する」
「いえいえ。 あまりお役に立てず申し訳ありません・・・」
袋を受け取ると女性は家に帰ろうとした。 それを見てカインも背を向けたのだが、女性に再度声をかけられる。
「あの」
「まだ何か?」
「・・・いえ、何でもありません」
今度こそ女性は家に帰っていった。
―――何だったんだ?
―――それよりも5年前にいなくなったというのが真実なのは分かったな。
―――それまでの手紙はちゃんと届いていたんだろうか。
―――5年間行方不明だなんて、希望を持てという方が難しいじゃないか・・・。
途方に暮れながらもカインは腰を下ろせるベンチを探し袋の中を見始めた。 何か手掛かりでもあるのかもしれない。 そう思い何枚か開けて見てみたが、全て自分が送ったはずの手紙だった。
「エマの手紙は僕に届いておらず、僕の手紙もエマに届いていなかったんだ」
そう思うとこの5年間何をやっていたんだとやるせない気持ちになる。 もちろんエマが行方不明になったことは気になる。 しかしそれが自分に関係しているのかそれとも全く関係ないのかも分からないのだ。
―――まぁ家族が引っ越していることを考えれば、僕に関係している可能性が高いんだろうが。
カインはエマがいなくなった5年前、自分がどんな手紙を送ったのかと最も古い手紙を探そうと考えた。
「・・・ん?」
最も古い手紙を見つけたものの、日付が三年前になっていて時系列が合わない。 よくよく考えてみれば5年間送った手紙にしては量も少ない気がした。
単純に捨ててしまったのかもしれないが、そこに何か意味があるような気がしたのだ。
「度々すまない」
そう思った時には先程の彼女の元実家を再訪していた。
「手紙の日付が三年前になっているんだが、それ以前のものは捨ててしまったのか?」
「あ、ごめんなさい、最初は越してきてからお貴族様からの手紙が届いた時怖くなって捨ててしまったんです・・・。 何度捨てても届き続けるのが怖くて」
「そうか。 確かに知らない貴族から手紙が届き続けるのは恐怖だな」
「あ、違うんです!」
女性の様子がどこか先程とは違うような気がした。
「およそ二年間届いた手紙を捨て続けていました。 だけどだんだんその捨てるという行為そのものも怖くなってきて引っ越そうかとも考えたんです。
もしかしたら手紙を捨てた罪を問われるかもしれないって・・・」
「僕はそんなことはしない。 だが人によってはその可能性もあるかもしれないな」
「ただそんな時です。 一人の女性がウチを訪れて手紙を取っておいてほしいとお願いされました」
「・・・え? 一人の女性?」
「手紙を取っておいてもし見知らぬ男性が訪ねてくることがあれば渡してほしい、と。 だからその女性が手紙をウチへ送っていたんだろうと考えていたんですが・・・」
「それでどうしたんだ!?」
「その女性はもう一つ言いました。 もし手紙の話がそれで終わるのならそれを渡して終わりにしてほしいと。 ただもし日付のことを聞かれることがあればこれを渡してほしいと言われて受け取りました」
言いながら女性は手作りの木製ロケットのようなものを手渡してきた。
「お貴族様がもし日付のことに気付かなくても私は渡そうかとも思いました。 だけどその時の女性の真剣な顔を思い出して思い留まったんです。 二人の関係が何であるかを私は知りません。
だけどその女性はお貴族様のことをずっとずっと待っていたんだと思います」
カインはロケットを操作し中を開いてみた。 そこにはずっと会いたいと思っていたエマの写真と共に一枚の紙切れが入っていたのだ。
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