途切れた恋の便り⑨




エマ視点



「ここまで乗せてくださってありがとうございます」


エマはヒッチハイクに成功し馬車で移動していた。 お金をあまり持っていないエマに馬車を雇うのは難しかったし、歩くは流石に遠過ぎる。 野菜を運ぶ荷台でも貴重な体験と思えば少し楽しかった。


「いいっていいって。 だけど随分と汚れてしまったね」

「これくらい払えば取れますよ」

「そうかい。 でももう降りて大丈夫なの? 行き先はまだ遠いんでしょ?」

「まだ遠いですけど、ここから行き先は分かれてしまうとのことなので。 本当にありがとうございました」


礼を言ってエマは歩き始めた。


―――ここを真っすぐに行ったら大きな街へ出るのよね?

―――そう言えばカインと初めて会ったあの時の帰りも寄って帰ったっけ。

―――セーヌ川の豊かな水となだらかな平地に栄えた街。

―――川を跨ぐ大きな橋が街中にあるのが特徴なんだよね。

―――にしてもお腹空いたなぁ・・・。

―――朝ご飯を食べずに出てきちゃったんだっけ。

―――少しのお金なら持ってきたしお昼でも買って休もうかな。


そういうことで街へと辿り着いた。


「えっと、何を食べよう・・・。 あ、そうだ!」


エマは前に家族でここへ来て食べた時のことを思い出した。


―――この街で一番人気のチキンバゲッドを買ってみんなで食べたんだよね。

―――あれ凄く美味しかったしあれを買おう!


そう思い店を探してみる。 人気店でありやはりというか列が既にできている。 チキン屋は他にもあるが、ここだけ格別に美味しいということのため仕方がない。

行列に並ぶのは問題ないのだが他のことで問題が発生した。


「・・・って、高ッ!!」


値段の高さに驚いたのだ。 


―――お小遣いしか持ってきていないし、これじゃあ買えないよ・・・。

―――もう我慢だなぁ。

―――また家族とここへ来ることがあったらおねだりしよう。

―――でもこんなにも高かったんだ・・・。


落ち込みながら他の店を探すことにした。


―――というかこれだけのお小遣いじゃ果物くらいしか買えないんじゃない・・・?


そういうことで果物屋を目指す。 果物屋の間に馬専用の店がありどこか違和感がある。 まるで馬と同じものを食べることになるような気分だ。


「あの、林檎を二つください」

「毎度ありッ!」


果物を受け取り噴水の前に腰を下ろした。 林檎は綺麗でおそらく質の良し悪しで馬の餌と分けているのだろう。


「いただきます」


果物に噛り付きながら辺りを見渡す。


―――ここの噴水って綺麗だけどどこか窮屈に感じるのよね。

―――噴水の周りにあるよく分からない置物のせいかな?

―――何か勿体ない・・・。


「お嬢ちゃん、一人かい? 珍しいね」


ふとおじいさんに声をかけられた。 果物を外でそのまま噛り付く人なんて周りを見る限りでは一人もいないためだろう。


「あ、お行儀悪くてすみません・・・」

「いやいや、大丈夫だよ。 お嬢ちゃんはここの子じゃないのかい?」

「はい。 少し先にある街から来ました」

「歩きで?」

「はい」

「それはまたどうして? 家出かい?」

「そんなわけないですので安心してください。 これです」


持っていたカインから届いた手紙を見せた。


「この住所を目指しているんです」

「そこは貴族の住む街じゃないか。 何か色々と訳がありそうだね」

「本当は文通していたんですが私のせいで連絡を途絶えさせてしまったんです」

「それはまぁ・・・」

「だから直接謝りにいきたくて。 凄く心配もしているだろうし」

「若いうちはいいな。 動けるうちに自分のやりたいようにやっていきなさい」

「ありがとうございます」

「私ももう先は短いが生きているうちにやっておきたいことがあるんだよ」

「まだお若いように見えますが」

「ありがとう。 でも、まぁ、自分のことは自分が一番分かる」

「そうですか・・・」

「おっと、すまない。 お嬢ちゃんは噴水の周りの像をどう思うかい?」

「あ、えぇと・・・」

「遠慮せず思ったことを言ってくれればいい」

「そうですね。 植え込みだったら綺麗かなって思いました」

「そうだろう? 折角豊かな水があるのにあんなものを飾っておくのは勿体ない。 意味も分からんしな」


確かに像は何だかよく分からない形であり、想像してもそれが何か分からないくらいに不思議なものだ。


「すまないな、年寄りの話に付き合わせて。 今度お嬢ちゃんが来る頃には綺麗な花を咲かせられているといいな」

「期待していますね」


世間話はここら辺にして移動を再開した。 街を出れば山が続いていて歩くには少し大変そうに思える。 ただ馬車となれば整備された道を通らなければならず、歩きだと少しばかり近道ができそうだった。 拾ってくれる可能性があるかないかも分からない馬車に期待するなら近道を行った方がいい。 そんな判断が自身に不幸を招くとも知らずに。


―――もう少し距離はありそう。

―――また拾ってくれそうな馬車が通りそうな道までは頑張って歩こう、っと・・・!?


細い道を歩いていたからか、エマは足を滑らせ崖から転落してしまったのだ。



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