世界最強の闇(病)みの社畜】異世界へと転移し最強の闇(病み)魔法が発現。〜俺の抱える闇が最強の魔法になるって本当ですか?心優しい社畜は破壊神と化し、闇の王となった~

カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画

第1話 社畜、異世界へ。


――揺れる景色と、熱気。


朝。


駆け込んだ満員電車には汗の匂いが充満し、圧し潰される体とベタつく肌。

乗った直後にも関わらず、俺は早くも帰宅したくなる。


俺、黒崎(くろさき) 冥(めい)(32)は毎度の事ながら、この通勤ラッシュに辟易としていた。

そして、これから向かう会社の事を考えてしまう。


(...どうせ、居てもいなくても同じだ)


そんな事を思いながらスーツからハンカチを取り出す。


...そう、ただただ金を稼ぎに出社し、時折罵倒され、帰るだけ。


簡単な仕事すら満足にこなせず、今や社内では白い目でみられまくる毎日。

...と言うよりも見せしめ係といったほうが正しいか。



――あれは四年前。入社して間もない頃。


その簡単な仕事は文字通り簡単だった訳で、俺は何も問題なくこなせていたはずだった。


しかし、「心がこもっていない」というよくわからない理由でその日、一日中PCに向かい同じ内容の文面を打ち込み続けた。


何度も上司へ送るメール。突き返されるやり直しのメール。


どうすれば良いかと教えを乞うても自分で考えないとと言われるだけだった。


確かに俺は無愛想で無口だ。だから文面に気持ちがこもっていないと思われたのだろう。


その時はそう思っていた。


しかし、その理由がそんな生易しい物ではない事をトイレで知ることになった。

ある日のこと。俺が大で用を足している事を知らずに、トイレにやってきた上司と同期が俺の話を始めた。


「いやあ、あの黒田とかいう陰キャ中々辞めないですね?」

「辞められたら困るだろ...今度は誰をイジメればいいんだ」

「あー、まあ確かにそうですね」

「彼には我々のストレスの捌け口になって貰わないとだろ」

「必要弱者って感じですか」

「そうそう、社内で交友関係も無いし。 貴重なサンドバッグだ! はっはっは」


(...いや陰キャて。まあ、陰キャだが。つーかお前らの顔面になら心を込めて拳をぶち込める自信はあるぞ...しないけど)


しかし、これが適材適所というやつか。俺には助けを求められる人間も無く、無口で愛想もない。...イジメの標的に丁度良かったのだろう。


なにも言わない、抵抗しない。


俺にも問題があるのだろうが、この就職難の中、彼らに逆らってこれ以上の辛い思いをすれば...もう本当に辞めたくなる。


(...ここを辞めたら、俺は...どうなるんだ?怖い、怖い...せっかく何社も巡ってやっと辿り着いたんだ...辞めたくない。ここで辞めたらもう、俺は...俺の存在は無意味なものになる)


手に持つトイレットペーパーに、ポツリと雨のように滲む跡。


現代人の溜め込まれたストレスは計り知れず、底なし沼より底がない。

だからそいつが命を捨てるまで追い詰めたり出来るのだろう。



――ふと、記憶の底から現実に引き戻された。


(...ああ、ヤバい。 マジで会社行きたくなくなってきた)


このまま適当な停車駅で降りて、仕事をサボってしまおうか。適当なファミレスでビールを胃に流し込み、窓ガラスの向こう忙しく歩く人々を眺める。


(あー...もうすぐか)


この際コンビニでもいい。買ったばかりの缶ビールを片手に見慣れない街を歩く...重責から開放され、自由を肴に飲む酒はきっと格別に美味いはずだ。


(...なんて。思うだけなら、現実逃避くらいは許されるよな。多分)




その時、耳元で声がした。


『――英雄様...我が呼びかけに応じ、この世界へおいでください...!』




「え?」


隣から声がしたような気がして、そちらを見ると女子高生がいた。彼女は怪訝な顔をしてこちらを見かえしている。

この反応...今の声は彼女じゃ無いのか?


「...?」

「あ、すみません」


条件反射によりノータイムで謝る俺。


...過労とストレスで幻聴が?



(...つーか、恥ず)


オフィスに鳴り響く、上司の怒号。


「――馬鹿野郎!!お前はそんな事もできないのか!?」

「...すみません」


何千回聞いたかわからないそのセリフ。そしてその返答。


「すみませんじゃないよ!普通わかんだろーが!このミスは人としておかしいまであるぞ!?頭ついてんのか、お前は!!」

「は、はい」

「はい!?はいじゃねえよ!!」


こちらが反撃しないのをいい事に、勢いづく上司。

時折俺の頭を平手で叩き、その度オフィスに居る人々は笑いを零した。


もう彼らに怒りの類の感情は沸かない。最初の頃は、それこそ悔しい気持ちや、何故自分を助けてくれないのか?等の思いが渦巻いていたが、今ではもう諦めがついた。


これが俗に言う負け犬と言うやつだろう。


(早く...終わってくれ)


その後も幾つかの粗を探され、突かれ、嗤われる。

これは誰しもが思うことだろうが、苦しい惨めな時間ほど長いような気がする。

事、この説教においてそれは顕著に感じられる。


こうして人生の貴重な時間を削られ続け、気がつけば終わりを迎える。


...だったら、死ぬまで続くのか。


この、苦しみは。



......嫌だな。





◆◇◆◇◆◇




すっかり暗くなったオフィス。


退社時刻を回り、静まり返るこの場所で、ひとつのデスクだけが明かりを灯していた。


そこは、ただ一人俺の座る席。


PCを打つ音と時計の針が鳴る空間に、ため息がおちる。


ふと見た時計は21時21...9分と表示され、まだまだ終わらない打ち込み仕事を前にうなだれた。


(なんで、俺だけ...)


皆に割り振れば難なく終わる仕事なのに。


(俺いがい誰も残業なんてしていない...それどころか、彼らは帰り際に談笑する余裕すらあった)


どんどんと湧いていく黒い想い。


ギリギリとまた胃が痛みだした。


悲鳴をあげる俺の中の何かが、胸を締め付ける。


(...こんな事、してて良いのか...)


この人生が、命が無価値に思えてならない。


ただ、ひたすら頭の中が騒がしく、苦しく、痛む。


いつものように何度も行われる自問自答。


何のためにここに居る?そんなこと決まっている...会社の歯車だ。それも、使い捨ての。

きっと俺がこの世から消えても、彼らはそれをネタに笑うに違いない。

後悔など決してしないだろう...。そして俺という存在は時と共に薄れ、消され、終わりを迎える。


それを想像すると、胸の奥に暗く広がる闇を感じ、また気分が落ちていく。


(...疲れたな)



虚ろな心のまま、また俺は時計を確認した。


...もう、帰りの電車が無くなる。せめて自分の部屋で...ベッドで寝たい。


「...帰ろう...」



◆◇◆◇◆◇




赤から青へ。


駅へと歩みを進める俺は、疲れた体を引きずり横断歩道を渡る。

闇の中に光る青の信号。


疲労がのしかかる重い足取り。ゆっくりと進む町中では楽しげに歩くカップル、飲み会帰りの会社員がぞろぞろと練り歩いている。


(...あそこに向かう道はあったのかな。俺にも)


そんな事を考えながら、自身の半生を振り返ろうとしたその時。

微かな女性の声が聞こえた。


そこは暗く光のとどかない裏路地。かろうじて二人居ることが確認できた。

そのうち一人がこちらに気がついたのか手を向けてきた。


「...た、助けて」


心臓が跳ねる音がした。


その女性は今朝、満員電車で見かけた女子高生。こんな時間にどうしてこんな所に?と疑問が頭を過ぎるが、しかしその疑問を掻き消すように、彼女の腫れた顔が目に入った。


「...ッ!?」


女性の髪を鷲掴みにした男が低い声で俺に警告する。


「おい...さっさと失せろ」


殺気のこもったその声に脚が震えだす。


「...す、すみま、せ」


震えた声が情け無くこぼれ出た。見てはいけないものを見てしまった。


(ひ、人を...警察を呼ばないと!)


そう思い、帰路へ戻ろうとしたとき。微かに見えた彼女の怪我が過ぎる。

この場を離れている間に殺されるんじゃないか?


(...結構な出血だぞ...早く助けないとヤバいんじゃないのか)


しかしすぐに首をふり否定する。


(...いや、無理...無理無理、無理だ!俺には出来ない!)


ただの冴えないオッサンだぞ?そんな正義の味方みたいな...無理だろ。脚震えてるし。

それに、ほら...ニュースとかでさ、ああ言うのに関わって殺されちゃう奴、ね?あるだろ。


ましてや見ず知らずの人間の為に...無理だ。


命は大切にしないと...










いや、まて


俺の命って、そんなに大切か?




...。




俺の人生は...この先、多分明るくはない。

きっとあの会社で消耗され尽くすか、自分で見切りをつけて...この世を去る。


だったら


今、使ってもいいんじゃないか?


彼女のあの怪我...襲われているのは間違いない。理由はわからない。

でも、助けてと言った。



このまま見過ごせば、多分、死ぬまで後悔すんじゃないか。多分、俺はこのことを忘れることは無いだろう。




どうせ無価値の命だろ。



潰されるくらいなら、ここで潰すか。



...いや、違う。



『誰かのために』ここで、使う。




男は俺がこの場所から動かない事に苛つき、声を荒げた。


「おい!てめえ、早く消えろ!殺されてえのか?」


「...あ、い、いえ」


変わらず震える声。しかしそれとは反対に固まる拳。


...そうだ、彼女を逃す。それだけ...なら、奇襲をかけるのが一番現実的だ...そこらに転がる空瓶や木材など武器はあるが、それを使えば警戒される。


(...だったら、一発殴って...怯んだその隙に彼女を逃がす)


もしかしたら俺は傷害で捕まるかもしれない。けれど、彼女を見捨てた時の後悔を考えれば、どうということはないように思える。


距離はこの場所からダッシュすれば数秒もなく一発入れれるだろう。

...大丈夫だ。心臓はうるさいが、不思議なことに頭は冷静でいられている。




――よし、いくか。



「おい!お前...」


そう怒鳴りかけた途中。俺はその言葉の続きを拳で遮った。


思い切り殴った。初めて、人を。


衝撃によろめく男。女子高生を奴から引き剥がすことに成功した。


「逃げろ!!」

「あ、え...あ」


「早くッ!!」


我ながらビビった。こんな張った声が自分からでるなんて。


ふらつきながら走り出した彼女。その時、拳に痛みが走った。


(...いってえ!な、なんだこれ...!?手が倍くらいに腫れ上がっている...!?も、もしかして、骨折れてる...のか?)


その痛みが激痛へと変わり始めたその時、後ろから声がした。


「死にてえみてえだなァ? オッサン」


――ドン


後ろから体当たりされ、衝撃でよろけた。


やべ、俺も逃げないと。そう走り出そうとしたとき、異変に気がついた。



...あ。


背に刺さるナイフ。


「イキってんじゃねえぞ、中年オヤジが!ばーか!はははっ、しねや」


(いったい!!痛い痛い痛い痛い!?熱い!熱くて痛い!!)


信じられない程の激痛に、呼吸がままならない。いや、もしかするとナイフが肺にまで達しているのかもしれない。


...まさか本当に死ぬのか?ぼこぼこにされて、社会的に死ぬとか...そういう事をイメージしてたが...これはリアルに死ぬかもしらん。


足をつたい落ちる大量の血液。


(あああ...やべえ、動けない...)


よろよろとするだけで前へ進めない俺を男は殴り罵声を浴びせる。


「残念だったな!ゴミ野郎!!お前死ぬぜ?見ろよ、ほらほら...この血の量!!お前はあの世行きだ!!はははは、ウケる!!」




月明かりに照らされたその姿に、驚く。




こいつも学生服...まだ...子供。



(何やってんだよ...クソ)



まあ、俺...もう死ぬし、最期に一踏ん張りするか。




「なあなあ!悔しいかあ、オッサン?あははは!!」


「...ああ、そうだ、な」


バキィッ!!


俺は男の顔面へ折れた拳をもう一度叩き込んだ。



「俺は...まだ、32だクソガキ」



...更生、出来んのかな...こいつ。




ドサッ




...あの...女子高生は...も...だ...かな



...なに...みえな...























――暗い。




これが、死。




『...やっと捉えました!今度こそ召喚に応じてください!!』



召喚?何を言ってるんだ...




...?



なんだ、光が...明るい?







「...ん...?」


目を開くと、そこは。



――生い茂る木々と。



「...は?え?」



――響き渡る、鳥の鳴き声。



「ここ...どこだ?...ていうか俺、あれ?死んだ...よな?」


刺されたはずの所を触れてみても、ナイフはおろか傷口すらない。

そして、折れた筈の拳も...。


「手、折れてない...痛く、ない」



そしてふと自分のいる場所が陰になっていることに気がつき、後ろへ振り返った。


そこには大きな碑石があった。それには謎の文字が彫られており、知らないはずの文字だが不思議と内容が理解できた。


「...空間転移...召喚碑?」



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