第2話:出来の良い姉 イザベラ




 私の一つ上の姉は、昔から頭が良かった。

 一度話を聞いただけで理解出来てしまう、所謂いわゆる天才というものなのだと思う。


 そして天才にありがちな、出来ない人の事を理解出来ない人でもあった。

 私が邸の図書室で家庭教師に習った事を復習していると、横に来て教科書を取り上げる。


「まぁ、その年齢でまだこんなところをやっているの?こんなの、一度聞けば理解できるでしょうに」


 何度も何度もそんな事をされて、私は、段々と自分は駄目な人間なのだと思うようになった。

 家庭教師は「カーリー様は、充分優秀ですよ」と言ってくれたが、雇われているからお世辞を言っているだけだと思った。



 私が駄目人間だと思い込むようになった一因は、両親にもあった。

 彼奴アイツは、姉を褒め、上げ、「良い子なイザベラにはご褒美をあげよう」と色々プレゼントしていた。


 学校に行ってない幼子の評価など、周りの大人の価値観で決まる。


 姉は頭の良い天才で、私は何をやっても駄目な人間になった。

 そしてその当主の態度は、使用人にも伝染する。



 まるでシルクを撫でるように姉の髪をかすメイドとは比べ物にならない雑さで、私専用のメイドは髪を梳かす。

 力任せに櫛を通すから、髪は切れるし、とても、痛い。

「痛い!」

 悲鳴をあげたら、ドレッサーに櫛を投げ捨てられた。


「では、ご自分でどうぞ」

 まだ5歳にも満たない私に、メイドは自分でやれと言ったのだ。

 ボサボサ頭のまま朝食の席に私が現れても、両親も姉も何も言わなかったし、聞かなかった。


 その日の午後、家庭教師が来て「幼い子供に何て事を!」と、初めて私の為に怒ってくれた。

 そして仕事先に入る前に身嗜みを整える為に持っていた櫛で、優しく髪を梳いてくれた。



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