第5話 戦争の行方
父が王宮の呼び出しから帰ってきた。父の話から察するに、王家と侯爵家で何らかの取引があったのだと私は推測した。
でなければこんな理不尽な仲裁はあり得ない。
父が呼び出された時点で、王家が仲裁に入るだろうとは思っていたが、王家がどちら側の立場で仲裁するのか見極める事が出来た。
ゼンベル侯爵を打倒出来ればそれで良いと考えていたが、私は今回の一件で権力が如何に重要なのかと再認識させられたのだ。
王家の簒奪。
フェルミト家の方針は固まる。ゼンベル侯爵との戦争ついでに王家も潰す事になった。
我が家の正当性を主張できる今が絶好のチャンスだ。フェルミト家の戦力を見せつけ、他の貴族家を取り込んで国を乗っ取ってしまえば、あんな嫌な思いをする事ももう二度とない。
(あの足りてない男に感謝しないとね…。お父様を王に据え、私が宰相をやれば国の運営に支障は出ないでしょうし。)
そしてとうとう予定されていた日が来た。ゼンベル侯爵家との戦争の日。
侯爵家の軍には一級魔法士が5人いるとの情報を掴んだ。
父が王宮へ呼び出された後、王家から接触は特になかった。何の咎もなく事が進むとは思っていなかったが、間違いなくこれが王家からの返答なのだろう。
「一級魔法士とは言え、たったの五人。我がフェルミト家に勝てると思っているのか?」
「王家もゼンベル侯爵家も、こちらの戦力を知らないでしょうし、お父様も言わなかったでしょう?」
フェルミト家の戦力が相手に把握されてしまえば、王家が戦争に参戦してこなくなってしまう。だから敢えてこちら側の戦力を告げず、王家から手を出しやすいよう仕向けた。
しかし、あくまでも仕向けただけであって、積極的に煽った訳ではない。
王が侯爵家と取引などせず、常識的な対応をしていれば避けられた事態なのだ。
(王は自身の欲により権威を失墜する。自業自得ね。)
戦争は領地の境目にあたる平野にて行われた。
両家は隣り合った領地に住んでいた為、戦争するにもどこかの貴族に迷惑を掛ける事もない。
特にフェルミト家にとっては、どこに気兼ねする事もなく魔法を撃ち放題。
両軍は配置に付き、戦場で向かい合っていた。
侯爵家は兵士5000名に王家から借り受けた一級魔法士5名。
対するフェルミト家は兵士500名と一級魔法士の父、一級レベルの無資格魔法士15名に加え、特級魔法の使えるルディアがいる。
数の差だけなら侯爵家と10倍の開きがある。
だが実際の戦力は、フェルミト家が10倍以上の大差で圧倒していた。
戦端は開かれた。侯爵軍は一級魔法士5人を抱える自分達が有利だと思っているようで、全力で突撃してくる。
こちらの撃つ魔法を防いで数で押し潰してしまうつもりなのだろう。
(そう簡単にはいきませんけどね…。)
私は侯爵邸で披露した特級魔法。轟雷を手加減無しに放つ。
空からは轟音とともに幾柱もの雷が降り注ぎ、たった一撃の魔法でおよそ半数もの侯爵軍兵士は吹き飛ばされてしまった。
ギリギリで敵軍魔法士の防御魔法が発動していたようで、本来ならこの一撃で全滅するはずの攻撃を半数の犠牲で済ませたのだ。
相手方は流石一級の魔法士達である。
(防ぎきれてはいないようですが…。)
「敵は既に半数。相手魔法士も今の防御で魔力の大半を消費しています。残りを平らげなさい!」
私の号令に従い、自軍の兵と魔法士が残党狩りと言わんばかりに突撃し、次々と一級魔法を放っていく。
「何だこれは!? 特級魔法士がいるだなんて聞いてないぞ!」
「一級魔法士が3人しかいないと言ったのはどこのバカだ! どう見ても10人以上いるだろ!」
王家から派遣されてきた魔法士達は口々に文句を言う。
フェルミト家に特級魔法士がいるという情報は当然誰も知らない。大将のゼンベル侯爵さえも知らないのだから…。
「そんな事より撤退だ!」
撤退命令を出すのが遅かった。
本来なら特級魔法が放たれた時点で撤退しなければいけなかったのだ。
フェルミト家の魔法士達により撃たれた魔法で、侯爵軍の兵は既に100名を残すところとなり、王家の魔法士に至っては全滅していた。
「完全勝利ね。」
「追撃はしないのですか?」
副官が尋ねる。
「今大将を捕らえてしまっては戦争が終わるわ。ワザと逃がして後日領地へ侵攻をかけます。」
「了解しました。」
勝利した子爵軍は、王家から派遣された一級魔法士達の遺体を検める。元々自分達の勝利を疑っていなかった彼らは王家の紋章付のマントを身に着けており、王家が侯爵軍に力添えをしたという決定的な証拠として残ってしまった。
(これを切り口に王家を糾弾できますね…。)
証拠なんてものを期待はしていなかったが、思わぬ収穫だ。
貴族同士の戦争に王が首を突っ込み片方へ肩入れしたとなれば、貴族たちからの反感を大いに買うだろう。
(王がどんな言い訳をするのか楽しみです。)
ふふっ…と思わず笑みがこぼれてしまった。
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