第3話 強いぞフェルミト家! 対するバカ息子とバカ親。

 例の件があって以来、ゼンベル侯爵家からの使者が三度訪れたが全て追い返した。


 きちんとした謝罪と婚約破棄を受け入れるなら戦争回避もあり得たのだが…。


 一度目の使者は当初の予定通りの結婚をして欲しいと言った。


 そして二度目の使者からは、壊した庭の修繕費用は求めないと言われ…


 最後には、侯爵家がこれ程譲歩しているのだから受け入れろ、と数々のふざけたお言葉を頂いたので、我が家は既に戦争一択で意見が統一された。


 我がフェルミト家は代々特別優秀な魔法士の家系だ。それでも爵位が低いのは、他家の貴族からの嫉妬故。


 優秀な魔法士ばかり輩出する我が家を妬んで横やりが入り、魔法一辺倒で政治が苦手なフェルミト家はなかなか昇爵出来なかった。


 しかし、他家から侮られたり直接的に危害を加えられるような事はない。


 それもそのはず、フェルミト家と戦争したい貴族家等どこにもいないからだ。


 我が家の血縁者は子供以外全員が一級魔法士レベル。そして成人した血縁者は23人。


 内訳として…資格を持つ者は3人、無資格が20人。


 一級魔法士は小国なら一人でも相手取れる程の強者である。公式には一級魔法士が3人も所属する家だ。3人だとしても、一貴族家が相手に出来る戦力ではない。


 そして資格は取得出来ていないが、私は特級魔法士レベル。一級魔法士50人が集まっても勝てるかどうかという戦力である。


 余程のバカでない限りはフェルミト家と戦争なんて起こすはずもない。


 ないのだが…ゼンベル侯爵家は余程のバカなのか…爵位が上だから最後にはこちらが譲歩すると思っているのか…


 どちらにせよ、戦争開始までは一週間を切った。


 ゼンベル家がどんな手段を用いてもこちらの勝ちは揺るがない。






時は少し遡り、ゼンベル侯爵邸では…


「馬鹿者!」


「ひっ!?」


「何が真実の愛だ! せっかく上手くいっていた婚約を台無しにしおって!」


 ゼンベル侯爵が息子のキルトに怒鳴り散らす。


「で…ですが…。本当に俺はマリアンヌを愛しているのです!」


「それがどうした? どうやって貴族家最大の戦力を有するフェルミト家と戦争をするのだ?」


「分かりません…。」



 この場面で分かりませんときた。


 ここに至っては子供でも通用しない返答に侯爵は眩暈がした。



「よりにもよって、第二夫人だと!? そんな馬鹿げた話を呑む奴なんてどこいる!!」


「ル…ルディアは5年も婚約者だったのです! 長い付き合いなのだから、呑んでくれても良いではないですか!」


 ゼンベル侯爵は実の息子を溺愛していたが、流石に今回ばかりはほとほと愛想が尽きた。


「……お前は暫く自室で謹慎だ。取り敢えず私が何とか許してもらうよう使者を立てよう。」


「謹慎は嫌です! マリアンヌに会えなくなるじゃないですか!」


 キルトの発言に頭を抱える侯爵。


 もう良いと言って、頭の足りない自分の息子―キルトを見張り付きで謹慎させた。



 侯爵家にはもう一人子供がいる。


 娘であった為に侯爵家を継がせる事はしないと思っていたのだが、婿を取らせ娘に家を継いでもらう事を本気で考え始めていた。


 その場合、キルトはどこへ婿入りさせるのかという事が悩みの種ではあるが……。


 いかに自分の息子が可愛くとも、自由にさせず昔からしっかりと手綱を握っておく必要があったのだ。


 これからの事を考え頭を悩ませる侯爵は、こうしてはいられないと急いで手紙を書き、使いの者をフェルミト家へと送り出した。


 そうして侯爵は使者を出したのだが…使者は全て追い返された。


「何故だ!? こちらがどれだけ譲歩し謝罪したと思っている!!」


 侯爵は良くも悪くも古いタイプの貴族だ。家格が下の者へは自分が譲歩するだけで、丁寧な謝罪が成立したと思っている。


「クソっ! 相手は一級魔法士3人…。まともにやり合えば確実にこちらが不利だ……。」


 一人で小国と戦争が出来る一級魔法士が3人だ。たかだか一貴族の侯爵など相手にもならない。


(暗殺…?―返り討ちにされるのが関の山だ。 では、他家を巻き込むか?―どこに掛け合っても断られるだろうな。)


 考えが纏まらず焦りだけが募っていく。


「王家でも介入してくれれば……。」


(いや……王家を介入させる方法が一つだけあるな…。)


「王家に仲裁してもらうか…。」


 ゼンベル侯爵領では金山を保有している。領地収入の実に35%を占める正に金のなる木。


 それを王家に献上する事で、仲裁してもらおうと彼は考えたのだ。


(流石のフェルミト家と言えども王家には逆らえまい。一級魔法士5人を抱える王家の介入を奴らは跳ねのける事など出来ぬ。)


 彼は、収入の1/3にもなる程の金山を差し出す事で、身を切ってこの状況を切り抜けようとしていた。


 計算自体は正しかった。


 単純な算数…一級魔法士が5人と3人ではどちらが有利なのか。


 子供でも分かる簡単な事だ。


 だが彼は、その計算を根本的な部分から間違えていた。


 フェルミト家に一級レベルの無資格魔法士が居る事など考えていない。


 それは当然だ。侯爵はそんな事を知らないのだ。


 知っていれば…無資格魔法士を勘定に入れていれば…絶対勝てない戦いだという事にはすぐに気が付くのだから……。

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