第二話くちん🍡🐶🐵……
男の子は「桃太郎」と名付けられ、すくすくと成長しました。そしてある日、仏壇の前で神妙な顔をしていた桃太郎はさっと立ち上がっておばあさんの前に来ました。かまどに薪を入れていたおばあさんは、
「どうしたのかい?」
と言いました。
「おじいさんの仇を打つ。おじいさんは疫病にかかって死んじゃったんでしょ? 病気なのを隠して僕を桃から解放したんだ」
「そうですけど。仇を打つって?」
「鬼が島に行くのさ」
「鬼が島?」
「そうだよ、疫病の病原菌をばらまいたんじゃないかって噂が立ってたでしょ。鬼たちは否定してるけどおかしいじゃないか。鬼以外はあれから島に入れなくなった。絶対何か隠してるに決まってる」
「そうかねえ」
桃太郎がここまで感情をあらわにしたのは初めてでした。桃の神様のおかげか、超人的なパワーを身に着けていた桃太郎は、村の子どもたちに恐れられ、のけ者にされて最近は心を閉ざしていたのです。おばあさんは違和感を感じたものの、桃太郎の気力に圧倒され、きびだんごとウェットティッシュ、それに布マスクを渡すことにしました。
「行ってまいります」
「気をつけて、ちゃんと消毒して。絶対に帰ってくるんだよ」
「わかってる」
盛大なフラグを立てて、桃太郎は鬼が島へ向かいました。
「わんわん! お兄さんひま? 近くにドッグランができたんだけどいかない?」
道中、こんなご時世だというのによだれを垂らしながら一匹の犬が話しかけてきました。
「すまない。先を急いでるんでね。あとそこのドッグランはガイドラインに則ってないみたいだよ」
「え? そうなのわん?」
犬は仁王立ちになりました。
「あれ、お兄さんきびだんご持ってるじゃん。くれよ」
「いやこれは鬼ヶ島に行くためのだな」
「お兄さん鬼ヶ島行くの?」
「そうだよ」
めんどくさそうに桃太郎は答えました。
「鬼ヶ島は水際対策が世界一厳しいんだよ? 行くにはねえ、いんせいしょうめいってのがいるんだよ」
「マジか」
なかなか有益な情報を教えてくれる犬に桃太郎は興味を持ちました。桃太郎は犬を仲間にしました。
「このだんご、うまうま~」
犬は粉になるまでだんごをかみ砕き、飲み込みました。
「ウキウキ~! お兄さん、わくちん打ちやせんか?」
いんせいしょうめいが取れるという港に向かう途中、猿が出てきました。
「今忙しいんだ」
相変わらずめんどくさそうな桃太郎とは違って犬は、
「なんだそれ?」
と尋ねました。
「わくちんはねえ、疫病に効くんですよ。これを打つとぶわーっと熱が出て病気につよーい体になるんですぜ?」
猿は途端にやたらと9を値段に並べたがる商人みたいな調子になりました。
「本当か?」
桃太郎はびっくりしました。
「ちょうどいい。我々はこれから鬼ヶ島に行くんだ。疫病の真相を探るのに、疫病にやられてしまってはいけない。よし、打とう」
「ありがとうございやーっす!」
猿は飛び上がって喜びました。
「代金1000石になりまーす!」
「え、金とるのか?」
「そりゃそうでしょう、旦那。あれ?」
露骨に嫌な顔をする桃太郎を尻目に、猿がお腰につけたきびだんごを指さした。
「それでも別にいいですぜ?」
「これでいいのか?」
桃太郎は猿にだんごを渡しました。
猿はぱくっと食べました。
「このだんご、うめー」
わくちんを打ち、なぜか猿もついてきて一行はいんせいしょうめいが取れる港まで来ました。
「ケーケン! こちらではぴいしいあーる検査を行っておりますぅ」
「検査?」
「そうですぅ」
受付のきじは羽根をパタパタやりました。
「ぴいしいあーるで陰性が出ますといんせいしょうめいが出せますぅ。ではお口をあーんしてくださぃ」
桃太郎が口を開けると綿棒をくわえたきじが迫ってきました。新しい扉が開かれるのかと目をつぶっているときじが離れていきました。
「では次犬さぁん」
そして犬も猿もドキドキしながら検査を受けましたが特になにも起こりませんでした。
翌日、検査の結果が出ました。全員陰性でした。
「よかったですねぇ」
きじが羽根でぱたぱた拍手しました。
「ちなみにどこに向かわれるんですかぁ?」
「鬼ヶ島だよー!」
すっかりきじのとりこになった犬がしっぽをぶんぶん揺らして答えました。
「鬼ヶ島?」
それを聞いたきじの様子が一変しました。
「鬼ヶ島に行くのは大変ですよ。いんせいしょうめいが出たとしても観光程度の目的では――」
「いや、僕たちは」
桃太郎は猿と犬を見やりました。猿は敬礼しました。
「仇を打ちにいくんですよ」
疫病でつがいを失ったきじも鬼が島に不信感を抱く一羽でした。桃太郎の話を聞くなり、ぜひ同行させてほしいと仕事を放棄してまでついてきました。どうやら秘策があるようです。
「あといくつあるんだ?」
「4つです!」
「よおし、出港には間に合うな!」
残りのたるが鬼の船の奥底にある倉庫に運び込まれました。船が港を出るやいなや、たるから話声が聞こえ始めました。
「ここまでするならいんせいしょうめいする必要あったのかな?」
犬がぼやきました。案の定正攻法ではいんせいしょうめいを提示しても鬼は船に乗せてくれませんでした。そこできじの秘策でたるの中に潜むことになったのです。
「まあいいじゃないか。やっと真相にたどり着けるのだから」
桃太郎はたるの中でおじいさんのことを思いました。絶対に仇をうつからね。
船は鬼が島につきました。鬼に運ばれている間、隙間から島の全体像が見えてきました。島は岩だらけで人通りはほとんどありません。建物も活気が無く、廃墟のようです。いったいどうしたというのでしょう。島の景色に見とれるのに夢中になっている桃太郎一同、ここで重要な問題が発生していることに気づきませんでした。このたるが向かっている先はどこなのでしょう?
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