過去に囚われた女性②

 上手く斬れた。制服を斬ったのだ。斬られたセーラー服がすとんと女性の足元に落ちる。残ったのは疲れた二十代後半の女性。

「夢の核を潰してもよろしいでしょうか」

「……そうだね。もう、お別れしなくちゃ。私は卒業生だから……」

 つう、と女性の頬を雫が伝う。涙。自分はそれを流せるのだろうか。夢斬りは滑り落ちる涙を見つめた。

「うん、お願いします」

「……わかりました」

 この夢の核は大きい。けれど彼女がこの夢を終わらせると決めたなら、核も脆くなっているはずだ。深く、息を吸う。両の手で刀をしっかり握る。大きく腕を振り上げる。校舎の柱に、刀を振り下ろした。

 大きな音を立てて崩れ、そして消えていく校舎。後ろから小さな声がした。

「……ばいばい」

 何もなくなった白い空間。振り切った刀が宙で止まっている。

「私は、あなたを救えましたか」

「え?」

「この夢はあなたにとって幸せなものだったのではありませんか。私はあなたから幸せを奪ってしまったのではありませんか。私がしたことは、救いだったんでしょうか」

 自ら幸せを壊してくれと女性が言った理由がわからない。自分が彼女の幸せを奪ってしまったのなら、自分はなんのために生まれてきたのだろう。

「……これで、いいの。私が幸せを見出すべき場所は他にあるから。この夢を壊さなきゃ私はどこにも進めない。私はあなたのお陰で救われたよ、本当に」

「なら、よいのですが」

 女性の目は赤みがかっていて、それでも真っ直ぐに前を見ている。これは幸せを奪われた人の目じゃない、希望を持った人の目だ、と夢斬りは思った。

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