第1章 27 「んー、悪くない話だと思うけど……こう話すってことは嫌ってことだよね?」
「しっかし、うーん。コーヒーの香りがちゃんとするけど、やっぱりホットミルクにしか見えない」
「こっちもなかなか……って、今思ったけど砂糖って普通浮かばないよね?」
あるての頼んだ救済の白いカフェラテはカフェラテとは思えない程に白く、道瑠の頼んだ暗礁スペシャルはメニューにあった通り、ブラックコーヒーに楕円形の小麦色の塊が雑に浮いていた。
「あ、私聞いたことがある。砂糖でコーティングしたあられで水に入れると浮かんでくるお菓子があるって。それはもっとカラフルで綺麗なんだけど」
「てことは同じ原理で作られたってことかな? 取り敢えず、いただきます」
恐る恐る、2人はそれぞれ頼んだ飲み物を飲んでみる。
「……どう?」
「あっま。でもちゃんとカフェラテの味がして美味しい。そっちは?」
「こっちも美味しい。砂糖の甘さが絶妙に溶けてて、あられの食感も楽しめるし」
「でも何だろ、この美味しさにちょっと悔しさを感じるんだよね」
「あるても? うん、僕もなんだ。多分だけど、あの兄さんが勧めてくれたからかな……?」
「あー……」
ここで会話が途切れ、無言でコーヒーを嗜む。
………………。
(楽しい……)
会話があっても無くても、あるてと道瑠は同じことを思っていた。しかしその余韻も束の間、道瑠が新しく話を切り出す。それはあるてが絵の悩みを打ち明けてくれたことと、この感じた楽しさに道瑠自身の中でゴーサインが出たからだ。
「あの、もし良かったら聞いて欲しい話があって。あるてに直接関係無い話だから、聞いてくれるだけで良いんだけど」
「ん? 何だろ?」
「僕の父さんさ、大学を卒業してまだ独身だった頃に社会人の演劇グループを立ち上げて、今もまだその活動をしてるんだ」
「社会人の演劇グループ……。うんうん」
「そこでメンバーの一人だった母さんと結婚して、生まれた兄さんと僕もその
「んー、悪くない話だと思うけど……こう話すってことは嫌ってことだよね?」
「社会人演劇って本来の仕事と両立しながらやるからさ、仕事と演劇以外……いや、演劇に割ける時間ですら余裕があるわけじゃ無いんだよ」
「時間……。えっ、つまりそれって……」
「そう、家族の時間が犠牲になってね。小学生になって色んなこと感じるようになってく内にそれが堪らなく嫌になって辞めたんだ」
「そうなんだ。家族の時間って欲しいよね。特にそのくらいの歳となると」
「兄さんは当時から要領が良かったから別ですんなり辞めたんだけど、母さんもそんな僕のために一緒に辞めて、それでも父さんは……団長ってこともあるのかもだけど残り続けて。演技をすることすら嫌いになっちゃったからか、そんな父さんの姿は本当に嫌だったな」
「そ、そんなにか……」
道瑠の話を聞き、あるては彼の家族事情、そして感受した気持ちに掛ける言葉が見つからなかった。しかし、代わりにとあることに気付く。
「あれ? でも声優になりたいんだよね? そのために時々なりきりのようなこともしてるし。演技が嫌いになったんじゃ……」
「当時、一時期ね。でもさ、一度投げ出したことって
「あー、うん。絵とかゲームとか、そう言うのあるね」
「それと同じ。何だかんだで僕は、演じることが好きなんだなーって。でも、もう二度と父さんの劇団ではやりたくないってのが本音」
「……ねえ。もし良かったら今朝の話の内容、もう少し詳しく聞かせてくれない? 嫌だったら良いんだけど」
「えっ? まあそれは良いけど。でも面白くないよ?」
「大丈夫。道瑠の嫌な気持ちをもっと理解出来たらなって思って」
「…………。有難う。じゃあ、話すよ」
道瑠が暗礁スペシャルを一口飲み、一息入れると今朝の巳代雄とのやり取りを語り始めた。
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