第1章 04 「? 何を言って――」

しじみ

連絡ありがとう。いつ会いましょうか?

こちらは直近ですと明後日と明々後日しあさってなら空いています


 美術室を後にした後、あるては灯夜から離れて道瑠とやり取りがしたかったため、一人トイレの個室へと入っていた。


あるて

では明後日どうですか?

私も放課後時間があるので時間は合わせます。


 こうあるてが返――既読が付いた。

(はっや)

 思わず心の中でツッコむあるて。

(……でもそろそろ出ないとな)

 しかし長いこと灯夜を待たせることも出来ず、タイムリミットだと感じたあるては返信を気にしつつもトイレを後にした。

「お待たせ。帰ろっか」


 あるてと灯夜は自転車を漕いで帰路を辿る。

「ねえねえ、あれから返事って返ってきたの?」

 道中、灯夜があるてに尋ねる。短いがやり取りをしていたため、あるては一瞬ドキッとする。

「あれからスマホ見る余裕なかったからなあ。最後に見た時はまだだったし、絵に集中してたし」

 それに対しあるては、正直に答えるのも恥ずかしく思いはぐらかす。

「てかそれぴよが気にすること?」

「そりゃ、私も一応年頃の女子高生ですからぁ。友達の色恋沙汰が気にならないワケないよ」

「色恋沙汰……ねえ。有り得んよ、そんなの。第一借りパクは絶対にしたくないし、マフラー返すためにもう1回は会わないといけないんだ。住所教えてもらって送っても良いけど、向こうの家族に気付かれたくないかもだし」

 と、言ったと同時に、

(ああ、そうか……もう1回は会わないといけないのか。しっかしぴよが絡んで面倒なことになったな……)

 あるては心の中でこう思った。

(ま、話した私の自業自得なんだけど)

 そして本当に話して良かったのかどうか。あるては少し後悔した。

「ねえあるちゃん。そのマフラーって洗って返すんだよね?」

「ん、まあ当然ね」

「マフラーって家で洗うの難しいから、クリーニングに出さないといけないねぇ」

「大丈夫、昨日あの後その足で出したから。明後日には引き取れるみたいだから、その後だね」

 あるての言葉に迷いは無い。

「…………あるちゃん」

「ん?」

「会うんだね? 明後日」

「? 何を言って――」

 ふと、先程の自分の発言を思い返すあるて。そして――

「ぁあッ!?」

 事態に気付くと、あるてが自転車をフラつかせてしまう。しかし、事無きを得た。

「わっ! 大丈夫?」

「ああ大丈夫。それよりも謀ったな? ぴよ……」

「待って! 私気になってただ訊いただけ! 今の完全にあるちゃんの自爆だよ、大爆発だよ!」

「うっさい!」

 あるてが自転車を高速で走らせ、

「あっ! 待ってよあるちゃーん!」

 置いてかれた灯夜はあるてを追おうとするも、壊滅的な運動神経故にすぐに諦めてしまう。

「はあ……はぁ……。もー、わっかりやすいなあ……あるちゃんは」

 何処か嬉しそうに灯夜は言い、自分のペースで一人、自転車を走らせた。


(……悪いことしちゃったかな)

 灯夜を置き去りにしてしまったあるての興奮は既に冷めて、平常心と共に申し訳無さも感じ始めていた。

「ま、ぴよなら許してくれるでしょ。後で謝ろ」

 しかしその申し訳無さは、その信頼からすぐに払拭された。

(しかし明後日どうしよう。一度帰って着替えた方がいいかな? 制服でならそのまま行けるけど、特定されちゃうかなあ……)

 そして頭を切り替えて、明後日のことをあれこれ考え始める。

(そう、明後日はマフラーを返すだけ。返すだけ――)

「っと」

 赤信号に捕まり、自転車を停める。ここの赤信号は長めなことを知っているあるては今のうちにとスマートフォンを取り出した。


あるて

さっきはごめん、感情的になって置いてっちゃって。


 こう灯夜に送り、スマートフォンをしまうとそのまま信号が青になるのを待った。

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