6 魔剣復活

ー鍛冶屋ラ・マヒストラル



 入り口の前で、俺は妙な違和感に襲われた。中から人の気配……というより活気が感じられない。 しかし、俺はトレスから剣を受け取る約束をしているのだ。


「おうトレス!剣は出来たか〜?」


 勢いよくドアを開ける。いつもなら、ここでトレスの「うるせぞコノヤロウ!」という挨拶代わりの一言が聞こえてきそうなものだが、 何も返ってこない。おまけにハンマーを打つ作業音すら聞こえてこないじゃないか。


「トレスさ〜ん……?」


 ドスも恐る恐る声を掛けながら入る。


「……ウノ!」


 レイが何かを察し、俺に声を掛ける。それの正体には俺も気付いたところだ。


「血の匂いだ!」


 俺とレイはカウンターの奥へと駆ける。


「!!!」


 カウンターの向こうにある作業場で、俺が目にしたのは変わり果てたトレスの姿だった。


「トレス!」


 ドワーフ特有のがっしりした体躯は、全身の体液や血液が抜かれた様にカサカサでガリガリになり、その腹には妖しく光る真紅の大剣が深々と突き刺さっている。刀身には昨日も見たあの古代文字が刻まれている事から、それが魔剣ヌル・アハトである事は間違いなかった。


「何で……誰がこんな事を!」


「……ウノ、店の中に争ったり金品を物色した形跡は無い。おそらくこのドワーフは、その魔剣に殺されたのだ」


 トレスを殺った?何言ってやがる。剣は人に使われて初めて人の命を誓うものだろうが。


「錆が取れ、現代に蘇ると同時にそいつは力を取り戻したのさ。持つ者に力と死をもたらす呪いの力を魔剣ヌル・アハトはそういう武器……いや、それはもう呪物だ!やはりそんな危険なものを野放しには出来ん。それはドワーフの死体ごと持ち帰り、城の地下で厳重に管理する。クァトロ、シンコ、セス、シェンテ、オチョ! 運び出せ。剣には絶対に触れるなよ?」


 レイは部下達に命じる。やめろ……そいつは俺のもんだ。俺からそいつを奪うんじゃねえ!


 気が付くと、俺は騎士団の奴らがトレスの遺体に近づく前に、魔剣を引き抜いていた。


「ウノ、やめるんだ!それに触れるんじゃない!!」


 レイが俺に対し警告する。


「団長の言う通りだ。さっさと手を放せ!」


 クァトロが俺の肩を掴む。 俺は振り返ると同時に、剣を横薙ぎに振っていた。その一撃で、クァトロの胴は切断され、上下に分かれた。驚く騎士たち、ドス、そして俺。大男の胴体を鎧ごと、野菜を切るように容易く両断するなど、鬼族オーガの戦士でも難しい事を非力な盗賊である俺がやってのけたのだから。


 どすんと音を立て、クァトロの上半身が床に転がると、騎士達は我に返り、各々が携えた武器の柄を握る。


「おのれぇーーっ!!!!!」


 騎士達はは抜刀し、俺に向き直る。 殺人…それも騎士であり貴族を平民が殺めたとなれば、それはもはや重罪だ。勢いに任せたとはいえ初めて人を殺めてしまった事により俺は動揺していた。騎士も、貴族も、クァトロの犬野郎もムカついたとはいえ殺す気など無かったのに。


「……ウノ・サルビンは変死事件の証拠品横領並びに公務妨害及び殺人の罪人である!捕らえよ。殺しても構わん!!」


 レイが持っていた片刃の剣を俺に向けると、 騎士達は一斉に飛び掛かってきた。やらなければ、やられる……その時だった。


「眩き光、闇を照らし一遇をもたらさん!……グラネイデル!!」


 俺の背後から、まるで小さな太陽でもあるかの如く光が放たれた。ドスが魔法で目くらましの光を放ったのだ。


「ぐわっ」


「目が!」


 ドスに背を向けていた俺は何ともなかったが、騎士団の奴らは全員一時的に視界を奪われた。


「ウノさん!逃げましょう!!」


 ドスは俺の手を取り、店の外へと走り出す。俺は言われるがままにドスとともにその場から逃げ出した。突如、望まぬ形で人を殺め、罪人となり、処刑されかける……そんな気分も整理出来ない状況でありながらも、俺の左手は魔剣の柄を握って放さなかった。

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