4 平民と貴族
錆びた剣をトレスに預けた俺たちは、町の酒場で夕食をとる事にした。ゴキゲンさが行動に出るのか、普段は滅多に座る事などないオープンテラス席に座ったりなんかしている。
「ドス、好きなもん食っていいぞ。俺の奢りだ」
「ホントですか?じゃあミノタウロスのステーキ定食とコカトリスの唐揚げとサハギンのミソ煮と……」
ダンジョン攻略で体力を使ったとはいえ、頼みすぎである。エルフは本来菜食傾向の強い種族だと聞いていたが、ドスの頼んだ料理はほぼ肉だ。シティエルフは街に住むうちに食性が変わっちまったのか?
「ウノさん、あの魔剣ほんとに売っちゃうんですか?」
最初に運ばれてきた前菜・マンドラゴラの浅漬けをかじりながら、ドスが問う。
「おう。その金を元手に新しく商売を始めて俺もブルジョアの仲間入りさ!」
「……じゃあ、もう冒険者は廃業ですか?」
「そうだな。店と家を構えて落ち着くつもりだよ」
物心付いた時からダンジョンに潜ってはそこで得た宝を売って旅する、明日も見えない暮らしを続けてきたし、そんな暮らしをして死んでく冒険者を何人も見てきたんだ。こんな人生から脱出する為に、俺は宝を求めてきたんだからな。
「私、もっとウノさんと冒険したかったな……なんてね」
柄にもなく寂しそうな顔をしたドス。知り合って日も浅いが、こいつとはやけに気も合うし、今まで老若男女種族問わずいろんな仲間と組んできたが、このシティエルフの女だけはどうにもビジネスだけの間柄にはなれなかったのも確かだ。
「なぁドス、お前さえ良ければ……」
俺の人生の相棒になってくれないか……と、言おうとしてやめた。とんだ邪魔が入りやがったからだ。馬の蹄が石畳を踏み鳴らし、銀の鎧がカシャカシャと音を立てて向かってくる。
「おお!騎士団の巡回だ!!」
「きゃー!ブランカ様一っ!!」
白馬に跨り、白銀の鍵を輝かせながら通りを進むそいつらはヘスパニョラ王国騎士団ご 一行だった。 騎士団は憲兵─わかりやすく言えば『お巡りさん』の役目も兼任しており、街の治安を乱す者に対し目を光らせている。彼らのお陰でヘスパニョラが平和なのは確かなのだが…
「へっ、気に入らねえ」
と、悪態をつく俺にドスは不思議そうな眼差しを向ける。
「騎士団が嫌いなんですか?」
「というより、貴族が嫌いなんだよ。産まれた時から奴らはいい人生が約束されてるからな」
アラパイムの国々は、程度の差こそあれ、身分により貧富の差がある。貴族と平民の間には決して超える事も破る事も出来ない絶対の壁がある。奴ら貴族は産まれた家柄で、いい人生が約束されているが、俺達…それも根無し草の冒険者は生きる為に毎日死に物狂いだ。
「俺が剣を売る一番の理由、わかる?」
と、ドスに問うたが彼女は首を横に振る。それは何といっても金だ。貴族と平民の壁 は超えられなくても、金さえあれば壁の隣に並ぶ事は出来る。 冒険者が冒険するのは、一攫千金の宝を得て、この暮らしから抜け出すためだ。中にはモンスターの研究や修行の為だけに冒険に一生を捧げる物好きもいろけどな。
「お金って大事なんですねぇ」
ドスは代金が馬鹿にならないほどの食事を取りながら言う。 こいつみたいにマイペースな人生も羨ましいや。
「きゃーっ!ブランカ様ー!!」
「こっちを向いてー!」
道に沿って騎士団を見送る民衆の中で、女たちの嬌声がとくに目立つ様になった。
「あの騎士さん、 綺麗な顔ですね」
ドスがフォークで指したのは騎士団長のレイ・ブランカだ。白馬に跨り手を振るそいつはエルフの様に整った顔をしているが、俺と同じ只人(サピエント)らしい。 歳だって俺とそう離れちゃいない。
「見るからにお坊ちゃんって感じだな」
「お金持ちで美男子なんて、そりゃ女の子にモテますよ」
年頃は同じでも、奴には俺に持っていないものが多すぎる。
「でも、私は美味しいものを沢山一緒に食べてくれる男性が一番好きですよ」
と、飯を食いながら幸せそうなドス。魔剣を売って巨万の富を得たら、俺はレストランでも開こうかな……
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