第3話 両片想いな幼馴染

「その『ブラック天使』ってなんだよ?」

「そんなの知らないよ~! 私だって初めて見たんだから~!」


 翌日、俺が渡したマシュマロを頬張りながら、ムーンは昨日見た女性の記憶のことを俺に話して聞かせた。


「それよりもサンくん! この間警察呼ばれそうになったんだって?」

「な、なんでそれを!?」

「破滅屋の中で話題になってたよ~! マジでウケる~!」

「……ったく。アイツら両想いなのに、余計なお世話なんだってよ!」

「その男の子はなんで恋を叶えたくないの?」

「別れが来た時に気まずくなるのが嫌なんだってさ!」

「ハハッ! まぁ確かに、幼馴染だった頃の仲に戻れる人は稀かもね~」


 ムーンは残りのマシュマロを全て口に詰め込みながら喋り続ける。


「でもさぁ、その女の子も男の子を好きなんでしょ? 男の子の意見だけで決めていいの? 女の子の気持ちはどうなるの?」

「……お前、破滅屋だろ? 恋の応援なんかしていいのかよ」

「まっ、将来私のお客様になるかもだし~?」

「アイツらのことは俺が責任もって見守るし!」

「まっ、くれぐれも通報されないよう頑張ってね~」


 頭にきて一度は見放したが、やはり成就屋としては叶う恋をそのままにはしたくない。俺はまたあのベランダに降り立った。


「おいっ、お前」

「うわっ! また来た!」

「天使に向かって『うわっ!』とはなんだ!」

「確か俺、『ほっといてください』って言いましたよね?」

「まっそうなんだけどさ、俺も仕事だし? それに相手の気持ちを考えたら、お前の意見だけで決めるわけにはいかないし?」

「ユウナの気持ち?」

「そう、そのユウナって子がお前のこと好きだったらどうするんだよ? お前の考えだけで相手を失恋させるつもりか?」

「ハハッ、それはないな。ユウナは俺のこと ‟ただの幼馴染” としか思ってないから」


 幼馴染の両片想い。ただでさえ厄介な恋なのに、ここまで意固地になられると長期戦を覚悟しなければならない。


「そんなこと言って、他の男に取られてもいいんだな~?」


 またもや俺を追い出そうとするハヤトにそんなイジワルを言いながら俺は飛び去った。

 


 その数日後、のんびりと街を見下ろしていると、見慣れた制服姿に視線が止まった。ハヤトかと思って近づいてみると別の男子だった。男子二人組は自転車を道の脇に止め談笑している。


「お前さ、新しい彼女できたって? 確か "ユウナ" って子だっけ?」


 ん!? 何だって!?  今『ユウナ』って言ったよな!?

 ハヤトではないことが分かり、その場を離れようとした俺は思わず羽根を止めた。


「そっ! ダメ元で告ったらオッケーもらえたんだよ!」


 なんであの二人の間に別のヤツが入り込めてるんだ? 

 成就屋は、恋人同士でなくても、すでに両想いな二人を邪魔する恋を叶えてはいけないルールになっている。


 あの二人両想いじゃなかったのか? いや、ユウナからもハヤトに恋する匂いがしていたから両想いに違いはないはずだ……。じゃあ誰がこんなことを?

 

 ……ま、まさか? 


 嫌な予感がした俺は、急いでユウナのもとへと向かった。

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