世界最強の女子高生になりました ~なぜか幼馴染が放してくれません~

粉雪

Game Start

 広大なお屋敷の庭園ていえんで、若い男女が2人で対峙たいじする。


 落ち着いた雰囲気のある洋館で、庭にはたくさんの花が咲き乱れている。

 踏みしめる芝生は綺麗に刈り揃えられており、庭師の力量の高さとセンスの良さがうかがえた。

 少し離れたところには有名なオーケストラが控えており、調律をしながら演奏の開始を待っている。

 野外オペラの公演ようだが、そんなに優雅なものだったらどれだけよかっただろうか……ストリートファイトと呼ばれる路上でのルール無しの格闘技。それをどことも知れない怪しい団体が主催して試合形式にしたという気の狂ったようなもよおしが今まさに行われようとしていた。

 

「こんな衣装いつの間に用意した!」

 オレ、朝霧あさぎり 結月ゆずきは頭を抱えそうになった。どんな総合格闘技も真っ青なルール無しの試合をするのに、着ている服は純白のウェディングドレス。

 プリンセスラインと呼ばれる腰の締まった可愛いドレスで、スカートはロングトレーンなので手入れの行き届いた芝生を広範囲に覆っている。

 お姫様のような綺麗な衣装だ。少しテンションが上がりそうになった。でもそれを必死に抑えて抗議の声を上げる。決して、照れ隠しではない、ないはず。


「それは私が着るはずのドレスでしょ!」

 観客の中で一際ひときわ目立つ女性が乗り出してきて、お屋敷の屈強な警備員に止められた。

 ああ、そうだ、思い出した。この衣装ってゲームでのサブ主人公の恋人、グラビアアイドルをしている女忍者が着ていたドレスじゃないか。


「結月、よく似合っている。綺麗だ」

「うわっ!」

 油断していたら、さっきまで対峙していた相手がいつのまにか目の前に迫っていた。対戦相手はこの屋敷の主でグローバル企業の社長を務めるリック ウォード。高校の同級生だけどオレと違ってIQ150を超える天才事業家にして格闘技もこなすスーパーマン。

 イギリス系のアメリカ人で、180センチ近い長身が黒のタキシードをビシッと着こなしているからとても絵になる。

 

「約束は覚えているよね、婚約者殿」

「あ、あんなのは無効だ……ひゃっ」

 腰に手を回し抱き寄せられ、思わず変な声がでた。細身だがさすがはストリートファイトの出場者、力強くてとても抜け出せそうにない。

 幼い頃に親同士がオレ達の婚約話をしていたようだが、格闘家の親同士が練習後に酒の席で交わした約束なんて、どう考えても酔っ払いの戯言たわごとだ。

 事業家でよくテレビに出るリックは誰もが認める有名人。女性の人気もすごいからか、こんな結婚式のような演出に観客がざわついている。

 

 リックは騒ぎを気にする様子もなく、更にオレを抱き寄せた。

 高校生ながら色気のある綺麗な顔立ちが上から覆い被さり、オレのひたいに口づけをする。女性の観客からきゃあ! と奇声きせいが上がった。先ほど騒いでいた女忍者なんかは卒倒している。


 「な、な、な、何しやがる!」

 オレはリックを突き飛ばすと、ウェディングドレスを投げ捨てた。このドレスはあくまで戦闘前のイベント用だ。紙で出来たドレスなので簡単に破り捨てることができる。

 一張羅いっちょうらの白い道着と青袴あおはかま姿になると、息を整えて構えを取る。

 リックは驚いたようだが、同じようにタキシードを破り捨てるといつものジーンズにジャケット姿になった。二人がファイティングポーズを取ると、それに合わせるようにオーケストラが荘厳そうごんな曲をかなで始める。


「Round One Fight !」

 

 試合開始の合図。リックを睨みつけると、少し笑ってウィンクされた。なんでこんな気障きざな仕草も絵になるんだろうこの男は。

 頬が赤くなっているのはきっと気のせいだ。気のせいだったら気のせい……本当にどうしてこんなことに……

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