第17話 E2坑道
「マレック様、Eランクの坑道にいるのはどんな魔獣なのですか?」
E2坑道の入り口のブースで、手荷物のチェックを受けながらミキが尋ねてきた。
「ワームだね」
「ワーム?」
ミキはワームを知らないようだ。ボクは更に詳しく説明を加える。
「ミミズの大きな奴だけど、全身硬い鱗に覆われていて、口には鋭い牙のような歯が幾つも生えているんだ」
「ミミズですか……」
ミキが身震いしているが、ミミズは苦手だろうか?
そうなると、ここでもポーターを雇った方がいいだろうか……。
E2坑道の入り口付近には、F3坑道のように子供のポーターを見かけることはなかった。
その代わり、ブースの壁にポーターを紹介する紙が貼られている。
そのほとんどがガタイのいい大人であったが、一人だけ女の子が混じっているので目を引いた。
どこかで見たことあると思ったらククリの紹介だった。この写真、修正しすぎだろう。
専属のポーターを持たない者は、その紙を見て事前に予約するのが普通のようだ。
Eランクより上の魔獣は、魔石だけ持ってくればいいため、日帰りならポーターがいなくても何とかなる。だが、泊まり込みで行く場合には荷物が多くなるので、ポーターが必要になってくる。
それともう一つ、ポーターがいた方がいい理由があるのだが……、それは、倒した魔獣から魔石を取り出す作業をポーターに任せる場合だ。
魔獣から魔石を取り出すには慣れが必要で、坑道の中で行うとなると、他の魔獣から襲われる可能性もあるので警戒も必要になる。そのため、魔石の取り出しをポーターに頼むハンターも少なくない。
もちろん、ハンターが自分でやることの方が多いのだが、ボクにそれができるだろうか? ミキに任せる? ミキには余計にできない気がする。
とにかく一度やってみないことにはわからない。何事も挑戦だ。
ブースでのチェックが済んだので坑道に入る。
今回も意識を集中して魔獣のマナを探る。
今回のワームはアングラウサギより大型で、魔石の大きさも大きい。体内に宿しているマナも多いようですぐに見つかった。
「ミキ、こっちだ」
「魔法というのは本当に便利ですね」
確かに、マナを感知できるようになるだけでも狩が格段に効率的になる。
これを広められればいいのだが、習得に何年もかかるからな……。
信じて鍛錬を続けられる者がどれほどいるだろうか?
ボクはマナを感じられる方向にどんどん進んでいく。
そして、坑道が広くなった所にいた。ワームだ。
「ミキは下がって!」
と、すぐ後ろを付いてきたはずのミキに声をかけたが、ミキは既に遠く離れた坑道の陰に隠れていた。
「マレック様、さっさとやっちゃってくださーい」
うん、まあ、安全に避難してくれて安心だね。
凶暴だが、さほど危険がなかったアングラウサギに比べると、ワームは齧られれば腕くらい簡単に持っていかれるし、頭から齧られれば当然生きてはいない。
巻き付かれて締められれば、肋骨が折れてしまうだろう。
ただ、動作は速くないので、慎重に当たれば攻撃されても避けるのは難しくない。
ボクは慎重に近付いてその胴体に剣を突き立てる。
しかし、ボクの持っている安い剣では鱗を貫くことができなかった。
「噂どおり随分と硬いな」
突かれて痛かったのだろう、体を捻って攻撃してくる。
ボクは慌てて距離を取る。
「同じ所を何度も突き刺せば刺さると思うが、その前に刃こぼれしそうだな」
なにぶん安売りの量産された剣だ。ワームを狩るのに使い捨てられていると聞く。
だが、ボクには秘策があった。
「さて、これで刺さってくれよ」
ボクは剣にマナを流し込む。付与魔法というものだ。
マナを触れたものに流すのは既にヨナのお母さんで実践済みだ。
人の場合マナにより身体強化されるが、剣にマナを流し込めば剣の切れ味と耐久性が向上する。
ボクは再びワームに近付くと付与魔法をかけた剣で突き刺した。
先程は跳ね返された剣であったが、今度は見事に突き刺さった。
ワームは先ほどより激しく体をくねらせて襲ってくる。
ボクは慌てて剣を引き抜いて再び距離を取る。
距離を取り、様子を見ていたが一度突き刺されたくらいでは死なないようだ。
それならばと、今度は付与魔法をかけて両断を試みる。
右上段から左下段に剣を振り切ると見事にワームが両断された。
それでも、すぐ死ぬことはなく、暫く体をくねらせていたが、やがて全く動かなくなった。
「ミキ、もう大丈夫だぞ」
「本当ですか……」
ミキが恐る恐る近付いて来たが、ある場所から動こうとしなくなった。
「マレック様、私は周囲の警戒にあたりますから、魔石の取り出しをお願いします」
そう言って、ミキはその場所で槍を構えた。
まあ、そうだよね。ミキには無理だと思っていたが、案の定だった。
ボクがやるしかないか……。
それにしても、あの槍、これを見越して買ったのだろうか?
ベタベタ、ドロドロになりながらなんとか魔石を回収する。
ハッキリ言って戦闘より大変だった。
やはりポーターをミキの他に雇うべきだろうか。
そうなると、ミキは連れて来なくてもよくなるのだが……。
ホテルに帰ってから相談かな。
魔石の取り出しに疲れてしまい、今日はこれで引き上げることにした。
ワームの魔石は一つ二万リングになったが、今までのアングラウサギの方がサクサク狩れてお金になった。ただ、アングラウサギには制限があるから、数が狩れるようになればワームの方がいいだろう。
「あ、マレックじゃないか。今日はこっちに来たんだ」
「ククリ」
「どうしたんだ、そんなにベタベタになって、ワームに苦戦したか?」
「いや、倒すには問題なかったんだが……」
「ああ、魔石の取り出しに苦戦したのか。解体のできるポーターを雇った方がいいんじゃないか?」
「どうしようか考えてる」
「あたしならお安くしとくぞ」
「ククリは解体もできるのか?」
「任せろ。バッチリだ」
「なら、明日からお願いできるか?」
「わかった。詳しい話は飲みながら詰めようぜ」
「ククリは飲んだら寝るだろ」
「あの時はたまたまだよ」
「また、寝ちゃって運ぶことにならないか?」
「それなら、ホテルの部屋で飲みましょう。それなら寝ちゃっても問題ありませんし、ホテルのお酒は高級ですよ」
「高級酒! ぜひそうしよう」
「ホテルの部屋か……」
「どのみちマレック様は着替えないわけにはいきませんし」
「まあ、そうだね」
「やったー! 高級酒、高級酒」
「飲み過ぎるなよ。仕事の打ち合わせなんだから」
ククリも合流し、三人でホテルの部屋に帰ることになった。
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