第13話 ヨナ

 相変わらず、朝起きた時に疲れが残っているが、今までこんなに体を動かしたことはなかったので仕方がないのかもしれない。それとも二日酔いだろうか。

 それにしても、昨夜も夢を見たような気がする。ククリのお尻が出てきたような気がするが、内容までは覚えていない。


 昨日、夕食を食べ損ねたので、ガッツリ朝食を食べミキと坑道に向かう。


 もうすぐ坑道の入り口という所で、ククリを見つけた。ここに来るなら一緒に来ればよかったのに。


「おはようククリ、大丈夫だったか?」

「マレック! 心配してくれてありがとう、足腰が立たなくなったけど、大丈夫だ」


「無理しないで休んだ方がいいんじゃないか?」

「あたしはそうするつもり、ただ、この子が……」

 ククリは何か困っているようだ。この子と言った時に、そばに小さな女の子がいることに気がついた。


「そうだ。マレック、また、ポーターを雇ってくれない?」

「休むんじゃなかったのか」


「あたしでなく、この子なんだけど」

 ククリはそばにいた女の子を前に押し出した。


「ヨナです。よろしくお願いします」

「ヨナはモノホンの幼女だから襲うなよ」

「いや、偽者でも襲わないよ」


「私のことは襲ったくせに……」

 おぶったけど、襲ってはないよな?


「えー。モノホンって、それにしたって小さすぎない?」

「少し訳ありで、ヨナのお母さんが病気中なんだ」

 訳ありということは、母子家庭なのかな? それで母親が病気になって、この子が稼がなければならないということか。


「でもなー」

「マレックなら安全に任せられるし、それに昨日、お尻を痛くしてまでサービスしてあげただろ」


「まあ、確かに」

「ちょっと待ちなさい! こんな小さな子に、お尻が痛くなるサービスって、あなた、何をさせたの!」

 ボクとククリの会話に割って入ってきた者がいた。アリサである。

 彼女たちも昨日に引き続きこの坑道にきたのだろう。


「アリサ、レナさん、おはよう」

「おはようじゃないわよ」

「おはようございます、マレック様」


「別にそんな酷いことしてないぞ。それにククリはもう、大人だし」

「そう、お尻が痛くなるサービスさせられて、無理矢理、大人の階段を登らされてしまったのね。なんて鬼畜な」


「お兄ちゃん、このお姉ちゃん何を言っているの? ヨナわかんない」

「ボクもよくわかんないな」

「なっ! 今度はその幼女に手を出す気なのね」


「いや、手を出す気はないから」

「お兄ちゃん、ヨナのこと買ってくれないの?」

「な、な、な! お巡りさん、ここに犯罪者がモゴモゴ」

 ボクは咄嗟にアリサの口を塞いだ。


「ちょっとアリサ、誤解だから、大声を上げるのやめてよ」

「ヨナ、それを言うなら、買ってでなく、雇ってだぞ」

「あ、そうだった。お兄ちゃんヨナのこと雇ってください」


 ヨナちゃんに可愛くお願いされて断ることができる人は、この世にいないだろう。

「わかった、雇ってあげるよ」

「わーい! ありがとう、お兄ちゃん」

「モゴモゴ」


 アリサが何か言いたいようだが、シスコンと罵られても、甘んじて受け入れることにしよう。


 今日も入り口で一悶着あったが、坑道に入った後は極めて順調だ。

 マナ感知でアングラウサギがいる場所がわかるボクは、次々にそれらを狩っていく。


「スゴい、スゴい! お兄ちゃん、どれも一撃だね」

「まあ、ボクにかかればアングラウサギなんてこんなもんさ」


「これでもう六トウだから、もう帰れるの?」

「そうだよ。ヨナちゃんはお母さんのことが心配なのかな?」


「うん」

「そうか、なら急いで帰ろうな」


「やったー」

 ヨナちゃんは跳び上がって喜んでいる。本当なら、友達と跳びはねて遊んでいる歳だろうに、働かなければならないなんて、この子のために何かできないだろうか?


「ヨナちゃん、ボクたちもお母さんのお見舞いに行ってもいいかな?」

「お兄ちゃんが家に来るの?」


「ダメかな?」

「いいよ」


「それじゃあお邪魔させてもらうね」

 ヨナちゃんにとって一番いいのは、お母さんが早く元気になることだろう。

 そのために、ボクは一つ試してみたいことがあった。

 それは、身体強化魔法をかければ病気が早く治るのではないかというものだった。


 幸い、ここ数日でマナを操作する能力が上がっている。今なら、他人に身体強化魔法をかけることもできるだろう。

 体が強化されれば、病気への抵抗力も上がるのではないだろうか?


 すぐに治ってしまうということはないだろうが、毎日かければ、それだけ病気が早く治るのではないかと思う。


 坑道を出て、街に戻りお見舞いに果物を買ってからヨナちゃんの家に行く。


 ヨナちゃんの家は平家の集合住宅の一部屋だった。


「お母さんただいま」

「ヨナかい。随分と早かったね」


「うん。お兄ちゃんがパパッと片付けちゃったから」

「そうなのかい」


「それで、そのお兄ちゃんがお見舞いに来てくれたの」

「え?」

「お邪魔します。ヨナちゃんにポーターをしてもらったマレックといいます」


「ヨナが何か問題でも起こしましたか!」

「いえ、ヨナちゃんが頑張ってくれたので、お礼も兼ねてお見舞いに伺っただけですよ」


「そうですか、わざわざすみません」

「これ、果物ですけど、後でヨナちゃんと食べてください」


「すみません、お茶も出さないで」

「あ、病気なのですから、無理をなさらないでください。それで、お加減はいかがですか」


「まだ少し熱があって、暫くは仕事ができそうにありません」

「そうですか。ちょっと失礼」


 ボクは熱を測るふりをして、ヨナちゃんのお母さんの額に手を当てると身体強化魔法をかけた。


「確かにまだ熱があるようですね」

「は、はい」

 ボクの行動に戸惑っているようだが、何をしたかまではわからないだろう。

 説明してからかけるべきかとも思ったが、効果があるかわからない。下手に期待を持たせてはいけないし、説明しても胡散臭くて納得してもらえないだろう。


「それでは長居してもよくないでしょうから、ボクらはこれで」

「えー。もう帰っちゃうの?」

 帰ろうとしたらヨナちゃんに引き止められた。


「お母さんが疲れちゃうといけないからね」

「うーん」


「明日も坑道に行くから、よかったらまたポーターをしてね」

「わかった。また明日」


「それじゃあね」

「わざわざ、すみませんでした」


 上手く効果があればいいが、また明日も確認に来ることにしよう。


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