第3話 白の離宮
ミラージュは白の離宮に招かれた。
離宮の中も白を基調としたデザインのシンプルな内装になっていた。
ミラージュは薄汚れた靴下だけを履いている。中に入る事を躊躇っていたら、声をかけられた。
「ふふふ。気にしなくていいのよ。私も今まで外にいたから、大丈夫よ。それに、ここは防水加工になっているからすぐに綺麗になるのよ。」
目の前の女性は長靴を履いていた。長靴には泥がついているように見える。白い床は光沢があり、ミラージュは言われるがまま中へ入った。
奥に誘導され、キッチンに連れていかれる。広いキッチンには白いテーブルと2脚の椅子が設置されていた。
「私は、マアリナよ。どうして貴方はここに来たの?見た所、王太子婚約者候補選別会に招かれたお嬢さんのようだけど?」
ミラージュは、目の前のアマリナを見る。
落ち着いた女性のアマリナは、なにもかも見通すような澄んだ眼差しをしている。30代に見えるが、もっと年上かもしれない。ミラージュは言った。
「私はミラージュと申します。実は、ある令嬢の身代わりで連れて来られたのです。見つかったらどうなるか分かりません。私には帰る場所も、行くべき場所もありません。」
(もう、私は一人だわ。母もいない。店にも戻れない。父親かもしれない人には二度と会いたくない。)
アマリナは言った。
「そう、、、、、、、ちょうどいいわ。貴方、私の侍女にならない?」
「え?でも、私が侍女だなんていいのですか?王妃様。」
「ふふふ。気付いていたの?ほとんどの人が、私のこの姿を見て王妃だと気づかないのよ。敏い所も気に入ったわ。この離宮には殆ど誰も訪れないの。私の憩いの場所なのだけど、手入れが大変で困っていたのよ。貴方は、ここにいていいのよ。」
「本当ですか?精一杯働きます。でも、どうして初対面の私に親切にしてくださるのですか?」
「私も、貴方くらいの年の時に困っていたら助けて貰ったの。あの人は何も言わずに私を受けれ入れてくれたわ。私はね、昔、受けた恩返しをしているの。貴方は気にしなくていいのよ。でも、年を取った時に、もし困っている人がいたら助けてあげて。それが私への恩返しだと思って。」
ミラージュは、王妃へ頭を下げた。
ミラージュは、その日から離宮に住み働く事になった。
時折年老いた使用人が訪れるだけで、白い離宮は閑散としていた。ミラージュの事を探しに来るものは誰もいない。離宮の中を掃除して、庭の手入れをする日々を過ごしていた。
庭には白いバラが咲き誇り、緑の葉と白いバラ、青い空が白い宮殿を包み込む。まるで空の上で暮らしているような錯覚に陥る事がある。
(グランはどうしているのだろう。本当にグランが王太子なの?私の大好きなあの人が、、、)
白いエプロンをつけた侍女服を身にまとったミラージュの髪は、元の黒髪に戻っていた。
ふと、ミラージュは目の前の大きな鏡を見る。
鏡にはミラージュが映っていた。
白い宮殿、青い空、輝く緑と白いバラの中に映る黒いミラージュ。そこには異物のミラージュがいた。ここも私の居場所ではないと感じる。店に帰りたい。また、あの店で働き、まれに訪れるグランを待ちたい。
グランは、私に微笑みかけてくれた。
グランが、私を選ぶはずがない。
でも、本当は選ばれたかった。グランと共に過ごしたい。
会いたい。
あの人に、、、、
ただ、会いたい。
鏡の中の紫色の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
キラキラ煌めく。
ゆっくりと涙が零れ、落ちて行く。
その雫の中に、金色の光が見えた。
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