第14話 お金貸してください
「ミョン爺」
「何じゃ」
「お金がほしいであります。貸してください」
椅子に座ったミョン爺に、私はペコリと頭を下げる。
何か商売をするなら、元手になるお金が必要だ。
しかし、残念なことに私はこの世界のお金を全く持っていない。
借金をする必要がある。
そういうわけで、ミョン爺を頼ったのだ。
「お金がほしい……いくらぐらいじゃ?」
「王都で新しい商売が始められるくらい」
「そんな大金はないわっ! おぬし、王都で店をやろうと思ったらいくらかかるか知っておるのか?」
「うーん、分かんない。でもそんな本格的な店じゃなくていいんだ。週に一回くらい、屋台的な感じで営業できたらいいんだけど」
私がやろうと思っているのは、もちろん生の魚を食べさせる店だ。
この漁村では定期的にいろいろなところへ魚を卸すんだけど、王都には週に一度の頻度で卸している。
だからそのついでに、王都でお小遣い稼ぎができると考えたのだ。
「それでも悪いが十分な金は貸せんのう……。何せ取り立てて豊かな村というわけではない。貧乏とまではいかんがな」
「そっかぁ……。そしたら何とかお金を稼がないとね」
私も村の仕事を手伝い始めたので、売り上げの分配にあずかれる。
でもこの感じだと、そのお金では十分な元手には遠く及ばなそうだ。
「ん? そうじゃ。一つ方法があるぞ」
ミョン爺がポンっと手を打った。
「どんな方法?」
「ミオン、おぬしまだ竜の血を半分ほど持っておるじゃろ」
「あー、持ってる」
合成したのは半分だったから、竜の血も胞子も半分ずつ残っている。
半分の材料からできた竜血茸は1本だけだったけど、それで十分に足りてしまったのだ。
「もう一度、竜血茸を作るんじゃ。そしてそれを売る。王都で店を2軒は建てられるくらいの金が手に入るぞ」
「そんなにっ!?」
「そもそも竜の血が希少。そして胞子も希少なんじゃ。わしが手に入れたのもほぼ奇跡に近い。どうじゃ、やってみい」
ミョン爺が胞子を渡してくれる。
私はそれを収納して呟いた。
「【
前回は1本、しかし今回は2本の竜血茸が手に入った。
この数に関しては、ランダム要素があるみたいだ。
野菜の種をまいたからって、決まった量の収穫が得られるわけじゃないもんね。
それと同じだろう。
「2本……! これなら4軒は建つ……!」
「そんなにチェーン展開するつもりはないんだけどね」
「明日、王都に魚を売りに向かう。一緒についていくといい」
「分かった」
「なに、困ったことがあったらいつでも相談するんじゃ。金は貸せんがの」
「ありがとね」
私は竜血茸をアイテムボックスにしまうと、ミョン爺の家をあとにした。
※ ※ ※ ※
翌日。
漁師の1人であるネロと私、そしてニナの3人で村を出発した。
今まで母親につきっきりだったため、ニナは久しく村を出ていない。
私が一緒なら安全だろうと、ティガスもフェンリアも送り出してくれた。
「楽しみ?」
「はい! お父さんとお母さんにお土産を買うんです!」
ニナが握り締める布袋の中には、今まで村の仕事をしてためたお金が入っている。
私よりも余裕でお金持ちだ。
何だか悲しくなってくる。
「王都まではどれくらい?」
御者席のネロに尋ねる。
私とニナは荷台に魚と一緒に乗り、御者がネロだ。
車を引く2頭の馬はオグリギャップとハニーブライアンっていうらしい。
どこかで聞いたような名前なのは、多分気のせいだろう。多分。
「そうだな……。今日は取りあえず、途中の宿場町へ向かう。そこで一泊して、さらに別のところでもう一泊。順調に進んでも、王都に着くのは明後日だな」
「遠いねぇ」
「そんなもんさ」
この距離なら、確かに移動中に魚が腐ってしまう。
でも私のアイテムボックスの中は時間が流れない。
フェンリアの毒の暴走が悪化しなかったように、魚も腐りはしない。
念のための実験も兼ねて、今のアイテムボックスには何の加工もしていない今日獲れた魚が入っている。
「まあ、どうってことない道で面白みはないからな。寝るなり何なり好きにしててくれ。危険が迫った時は頼むから」
「はーい」
ガタゴトとゆられながら、私はゆっくり目を閉じるのだった。
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