第十八話 技術者として、経営者として
「おや。もう目が覚めたのかい? 」
「ご、ご心配をおかけしました」
がばっと勢い良く頭を下げるニア。
勢い
「こら。まだ本調子ではないのだから激しい動きはやめておいた方が良いと、ボクは思うがね」
「す、すみません」
「ま、徐々に慣れて行けばいいさ」
「
後ろから
全く失礼な奴だ。
ボクの場合は体力が無くて倒れているわけではない。集中しすぎていつの間にか寝ているだけだ。
ニアを
ニアは不安そうにこちらを見ているが……まぁさっきの話を聞いていたのだろう。
「
「で、でも師匠はすごい人で」
「ああ、そうだ。普通ならそれこそ工房がいくつも建つくらいの給金を毎月払わなければならない程にね」
泣きそうな顔で下を向く。
そんな顔をしないでくれ。ボクはニアをいじめるために言っているわけではないのだから。
「だが
他の魔技師はわからないけれど、と付け加え説明。
だがどこか納得がいっていないのか
「し、しかし雇う以上は」
「そうだね。だから普通の魔技師、つまりはカーヴが弟子に払っていたくらいの給金を払えばいいと思うのだがね。バトラー君」
「バトラーではありません。ソチメデス、いえバトラーであってます」
コホン、と軽く
「給金についてはシャルの言う通りでよろしいかと。加えるならば給金とは仕事に対する
「おいおい、バトラー。ボクは用事があってこの町に来ていないだけだろ? 」
「魔境引き
しかし悪意としか聞こえない言い回しだ。
これは後からもふもふ地獄の刑に
「……『魔技師』ニアと『経営者』ニア」
「!!! 」
「どちらを
何が言いたいのかわからない様子でコテリと首を
「確かに給金は必要だ。それは部下を持つ経営者として普通の感覚で、特に技術者の場合はその技術に見合った給金を払わなければならないと考えるのはもっともだろう。しかし君は経営者である同時に技術者でもある」
一呼吸置いて口角を上げながら更に言う。
「確かにボクは高位の技術者だ。だが君の師でもある。
そしてニアを見た。
ボクが何を言いたいのかやっと伝わったようだ。
ニアは立ち上がり、拳を
「わ、私! 師匠のお給料の事を考えすぎて何も見えてなかったようです」
「そうだとも」
「なので師匠のお給料をカットしてでも頑張ります」
いやカットするのは、と思うもやる気を出しているので何も言わない。
ま、最低限で良いし、そう言ったのはボクだ。
カット、というよりかは普通の技術者の給料にするのだろう。
しかしこれからが大変だ。
「じゃ、ニア。仕事をしようか」
「はい!!! 」
今日の所はカーヴ工房に泊り仕事をした。
久しぶりに他人と仕事というものをしたが、これはこれで
★
「深く眠っていますね」
「きっと今まで
フェンリル姿を取ったバトラーに背もたれしながらソファーで眠るニアを見た。
体を上にしているせいか呼吸をするたびにお腹が上下している。
本当によく眠っている。
「……襲うなよ? 」
「襲いませんよ。私を何だと思っているのですか」
「口の悪い
「……
床で
このからかい
それがこそばゆいのか軽く体を丸めた。
「っと、ボクは一杯やらせてもらうよ」
「……仕事をしたというのにお酒ですか? 」
「何を言う。仕事をした後の一杯がいいんだろ? 」
いつの間にか狼獣人の姿を取ったバトラーが横に立ちそれぞれに
「……最終的に君も飲むんじゃないか、バトラー君」
「いいじゃないですか。フェンリルが飲んでも」
「悪いとは言っていない。しかし、ならばボクの飲酒を否定するのは止めたまえ」
「そうはいきません。貴方と飲むのは
よくよく考えればワインを飲むフェンリルというのも珍しいのではないだろうか?
「それでこれからどうするおつもりで? 」
「どうする、とは? 」
「ニアさんの事です」
軽くグラスの中のワインを回して、口をつけるバトラー。
「貴方の事です。何かとんでもない事を考えているのでは? 」
「……
くくっと笑いながらほんのりと顔を赤くするバトラーを見る。
否定しなかったせいか軽く顔をニアに向け彼は同情の顔を作った。
「なに、とんでもないとはいえそんなに無茶難題でもなければとりわけ非常識なことでもない。ただ……」
「ただ? 」
「体力づくりをするだけだ。何をどうするにせよこれからの事を考えるのならば体力はあった方が良いだろう? 」
「確かにそうですが……。やり過ぎないでくださいよ? 」
「分かってるって。しかしそんなにニアの事が気になるかい?
「気になるのではなく、私同様貴方に振り回されることになる彼女に同情しているだけです」
「それを「気になる」というのだよ。バトラー君」
ワインを数本あけながら
結局の所、持ってきたワインが無くなるまで飲みあかした。
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