第九話 コンテストに向けて
「コンテスト、ね」
「はい! このコンテストで優勝できれば『カーヴ』工房が生きているというのを証明でき、お客さんが増えます! 」
「つまりは技術を用いての宣伝というわけだな」
「はい! 」
元気よく返事をするニア。今までの不健康そうな顔に少し
軽くニアが持つ紙に顔を寄せそれを見る。
そして軽く頭が痛くなる。
ニアは気付いているのか?
コンテストの
恐らく自身の商会で作った製品の宣伝だね、これは。
しかし……。
なるほどこれなら可能性は無くはない。ほんの
それに最悪……ふふ。
「面白い」
「なら! 」
「いいとも。君にボクの技術を教えよう。しかし……一つ聞いていいかい? 」
そう言うと少し勢いを落としながらも「いい」と答えた。
「何故ボクが魔技師だとわかったんだい? 確かにボクは深い
「確かにその可能性はあります。しかし父が時折「シャルロッテという師匠がいる」と口にしていました。そして先ほどの深い知識。もしかして貴方が父が言っていた師匠なのでは」
カーヴめ。娘にボクの事を教えやがって。
軽く手を髪にやり少し
「ああ、そうだ。カーヴに技術を教えたのはボクだ。と言ってもそんなに長い時間じゃないけどね」
「やっぱり! 」
「まぁそんなことどうだっていい。開催時間も迫っている。始めようか」
そう言い作業室へ向かった。
★
「まずやるべきことは幾つかある」
「やるべきこと、ですか? 」
それに軽く
「まずはこの店を見えるように壊すことだ」
沈黙が、流れた。
「え……今何と」
「この店を最低限見れるようにする。それだけだ。ただ、その
ボクの言葉に目を開き驚くニア。
「し、しかし、だけどここは父さんと母さんの思い出の場所で」
「ああわかっているとも。だから可能な限り壊しはしないさ。と、言うよりも私は魔技師であって
「よ、よかったぁ」
「だが使う魔法、刻印の過程でこの建物が
「壊れたらダメじゃないですか! 」
「……ニア。よく考えたまえ。外の
そう言うと前のめりになったニアが少し引き下がる。
どうやら気付いているようだ。
だが認めたくない、と。厄介だね。
「このボロボロな
「……やります」
「よし、決定だ。と言っても
「で、本題だ。技術の
そう言うと
「コンテストまでの短期間。全てを教えるのは難しい」
コクリと
「ニア。気付いていないだろうが修復技術は極めて高レベルに
「……正直あまりありません」
「そうか。ならばまず手本を見せよう」
そう言い腰にあるアイテムバックに手をやり道具を出す。
やると言っても軽く刻むだけだからこれくらいで良いか。
「……何か刻印するような物はあるかい? 」
「そ、そうですね」
腕を組み天井を見上げる。
中々
流石に持ってきたドラゴンに刻印するわけにはいかないしな。
ん? 何か物音が。
「誰か来たのかい? 」
「あ、私でます」
ニアも気付いたようだ。すぐに部屋を出ていった。
少しすると今度は少し多めの足音がする。
そう思っていると扉が開きバトラーが出てきた。
「シャル。お客様をお連れしました。
「
「そうと言えばそうですし、そうでないと言えばそうではございません」
「君にしてはえらい
バトラーに連れられ違う部屋へと足を運んだ。
★
「本日はありがとうございました」
「いやいや、ただ通りすがっただけだ。気にすることは無い」
「しかし命を助けられたのは本当でございます。
バトラーが連れてきた少々茶色い髪の小太りな男性が座った状態で軽くお
ギィっと音が鳴るが聞かなかったことにした方が良さそうだな。
が、商人と言ったがその外見からかなり
しかしさっきのゴミのように不快感はない。
こちらを警戒しているのだろうか、青い瞳に警戒の色が見える。
いくら命の恩人とは言え
「しかしまさかSランク冒険者『森の
「森の破風? 」
「その呼び方はやめてくれ。誰が付けたのかは知らないがつけたやつを細切れにしてやりたい気分になるからな」
「これは
「
後ろで震えあがる冒険者達よりも
「本日ここに来たのは何かお礼が出来れば、と思いまして参りました」
軽く全体を見つつそう言うパトリック君。
本当にいいのだけれども。
「さっきも言ったけれど本当に通りすがっただけだ。気にする必要はない」
「いえ。シャルロッテ様が気にしなくてもワタクシが気にします。恩を返しておかないとそれは周り回って自分に損失を出しかねませぬ。そう言うジンクス、のようなものがございますので」
「商人ってのはもっと
「はは。もちろん
そんなもんかね、と思いながらも軽く全体を見る。
これは引いてくれなさそうだ。
ならば適当に頼むのが一番か。
ん~、何が良いのか。材料? 職人?
「なら少し頼もうか」
「なんなりとこのパトリックにお任せを」
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