第40話 ネズミの肉なんてないさ、ネズミの肉なって嘘さ
去年と打って変わって今年は初夏が早い。
まだ、2月も終わっていないのにガンガンと気温が上がった。
俺は一人だけ泥遊びだ。
元が排泄物入りじゃなければ良かったのにね。
おいちに、おいちに、おいちに、泥スライムゴーレムが隊を為して桶に入って行く。
魔力を通す為にも、俺が水に浸からないと始まらない。
下の兄にクレーンを回す役、姉さんは綱を引っ張って板を引き上げて役だ。
汚泥に浸かるのは俺一人でサクサクと進めて休憩だ。
「何度、見ていても気持ち悪いな」
「ドブ攫いの指定依頼まで出した人が何を言うんですか?」
「来月の中頃から下水路の大掃除が始まる前に副路の掃除を終えなきゃいかん。今年は遅れていたが、お前らのお陰で追い付きそうだ」
「居住区の大掃除までですか?」
「横に大掃除と主路の掃除は同時にヤル事になっている。それまでに副路を終わらせる事になっている」
「そうですか」
「しかし、お前らのやった所だけが底の敷石まで見えて真っ新のようだ」
泥を掬う道具は敷石の凹凸まで洗えない。
たわしがゴシゴシと洗って水で流すのでなければ、底の汚れはどうしても残る。
泥スライムは自ら集まるので当然の結果だった。
それに俺が浸かった時に
本日の『ドブ攫い』は17区と18区が街路樹の向こうに見える場所だった。
露天の出店からガヤガヤと賑わっていた。
南の方を見ると教会と工房区が見えた。
そして、反対側の西にスラムがある。
「さぁ、休憩は終わりよ。日も大分傾いて来たわ。残りをやって終わりましょう」
教会の学校を終えてから半日仕事で終えるような仕事ではないのだが、魔法の力は偉大だ。
最後の桶を荷車に載せると終わった。
荷車は西の広場に持って行かれて乾燥させられ、石などを取り除いた後に下水道の処理土やゴミと一緒に有機肥料の材料にされる。
「ゴミ置き場がスラムの向こうにあるとは知りませんでした」
「ゴミ集めは17・18区に住んでいる人らの仕事よ」
「住む場所で仕事も違うんですか?」
「そうよ。5・6区に工房区で働いている人はいないモノ」
露天主らも17・18区の住人らしい。
俺が住んでいる場所は東側なので中央区や倉庫街の下人として働いている親が多い。
17・18区の住人はスラム出身が多い。
スラム民はエクシティウムに流れてきた浮浪者で、日雇いの労働力として使われながら、働き者らが昇格して市民になる。
スラム民も貴重な労働力だった。
領主様が代わった頃は森へ魔物の討伐隊を派遣する為に多くの仕事があったので各町から浮浪者も集まって来たが、最近はその数も減り、物価が高い割に手当が少ないのでスラム民が減っていた。
この『ドブ攫い』も手伝いの人数が集まらず、冒険者らが仕事の配分で揉めて刃傷沙汰になったそうだ。
誰だって、汚物の臭いで鼻が曲がる底に行きたがらない。
「あぁ、スラムの人にドブ攫いをさせて自分らは楽をしたかった訳ですね」
「そういう訳だ。今日も5枚で悪いな」
「いいえ、助かりました」
前回の北と違って、今回は珍しそうに見物に来る人がいたので責任者さんは「散れ、散れ、見世物じゃない。立ち退かなければ処分するぞ」と追い払うのに忙しかった。
姉さんが一人で綱を引き、下の兄が滑車を回してクレーンを回す。
子供が3人で作業をしていれば、珍しがられた。
作業が終わって下水路に掛かった橋を渡り、西通りに入った。
俺達を追い越すスラム民の子供らがいた。
「おっちゃん。大物だ。買ってくれ!」
スラムの子供らが抱いているのは大きな猫?
違った。
ネズミだ!?
「お前ら、こっちに持ってくるなと言っているだろう」
「夜中まで待てない。もう腹が減って」
「仕方ない。その箱に入れておけ」
「ありがとう。おっちゃん」
子供らは駄賃と
俺は呆然と口をアウアウとさせていた。
クズ肉はネズミ肉だったのか?
よ~~~~く考えれば、当り前だった。
飼育されている牛肉や豚肉は高価過ぎて手に入らない。
俺の担当官さんは毎朝に牛乳を飲む。
乳の出なくなった乳牛が潰されると安い肉が手に入るが、毎日のように潰れる乳牛がいる訳がない。
怪我をして走れなくなった馬も同じだ。
“さて、問題です。俺達が食べていた超安いクズ肉はどこからやってきたのでしょうか?”
その答えは下の兄が知っていた。
「ゴミ収集所に繁殖しているネズミを取りに行きたかったが、あそこはスラムの
「そんなにネズミが欲しかったらスラムに落ちればいいじゃない」
「誰がスラムに落ちるか。確かに貴族様の残飯に興味を引かれるが、どうせ俺の口に入らない。俺は今日の報酬の一部で商店街の肉串を買うんだ。態々、不味いネズミの肉を食うモノか」
つまり、俺達が食ってきたクズ肉の正体は、
1.貴族や中央区の残飯を集めた肉。
2.ネズミなどの肉。
3.老いた乳牛や怪我をした馬を処分した肉。
3が希だとすると、普段は1と2の肉を食ってきた。
もっと早くに気付けよ、俺。
「姉さん。明日から薬草を採りに行きましょう」
「薬草? いいわよ」
「今度のクエストは薬草摘みかよ」
「薬草摘みです」
ふふふ、俺は意味深く笑う。
子供の薬草取りは領軍の演習場に併設する森の中だ。
領主が狩りをする森であり、指定された時期のみ、薬草や山菜の採取が出来た。
でも、安い薬草しか採れない。
俺は指名依頼を受けに一人で冒険ギルドに行き、2階の資料室でギルド規約を読んでいた。
クエストを受けていれば、年齢に関わらず、冒険者は城壁の外に出られる。
でも、普通はそのクエストが受けられない。
低ランクの冒険者パーティーはそのクエストは受けられない。
ふふふ、そう言う事だ。
抜け道があったのだ。
領主の森で狩りは厳禁だが、外の森は獲物を狩っても怒られない。
残飯やネズミの肉など食っていられるか?
今度は肉の食改善だ。
もちろん、無理はしませんよ。
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