第34話 何故か、責任者にされていた

年末、もう明日から新しい新年が始める。

俺も明日から4歳だ。

魔力もかなり増えて来た。

少しは賢者に追い付いただろうか?

ちょっと試したい気もあった。

でも、駄目だ。

下の兄が冒険者になって肉をたらふく食うと五月蠅い。

本音を言えば、冒険者になろうと言い兼ね合い。

今度こそ勝つと気合いが入っていた。


そうだ。

今日は最後の休息の日だ。

菜園整備の為に冒険者が雇われて、最後の仕事にやって来た。

昼の休憩中に練習を見て貰える。

下の兄の楽しみの1つだった。


さて、今日は恒例の草刈りとブロック石積みだ。

開拓は前回で終わり、溝を掘ってレンガ石を埋めて道と菜園場所の区割りを行なう。

何故か、俺が陣頭指揮をさせられている。

中東に出張させられた時に、ビジネスマンに土木工事の現場監督を押し付ける馬鹿がいたお陰でやり方は知っていた。

どんな菜園を作れば良いかと聞かれて、ざっとした構想を言うと担当官さんから庭園の基本図を書いて欲しいと頼まれた。

それを叩き台にこちらのプロが設計図を完成させてくるハズだったがそのまま採用された。


まず、中央の大通りにリング状の花壇を作り、庭園を囲うように樹木を植える。

樹木は柑橘系や果実系、栗の木の実など様々な木々が植える。

公園が見渡せる東西にギリシャ風の柱に囲まれた休憩所を建てる。

中央に噴水が欲しいが、それを諦めて池を置いた。

池には春にレンコンに似た作物を植え、夏に花が咲いて、冬の前に刈り入れる。

花壇は多年草を植えて、手入れだけにする。

樹木の前に植える前面には花が咲く野菜を植えて、芋などの収穫期は芋掘りのイベントを開催する。

こんな感じの基本計画だ。


どんな菜園を作るかの開発課の全体会議に、アドバイザーとして参加した担当官さんが叩き台の設計図を広げると、向こうの課長が喰い付いた。

細かい説明を聞いた後に、「これに決定だ」のつる一声ひとこえだった。

その後に俺が呼び出されて、さらに詳しい説明を聞かれた。


今日は区画割の糸にそってレンガを積んで終了だ。

レンガは子供らが粘土をかたどって野焼きで作った事にしている。

野焼きに似せて魔法で固めた硬化レンガだ。


冒険者らは手慣れたモノで早い早い。

午前中にほとんど終わった。

こんな事ならモルタルを用意して壁の完成まで計画に入れれば良かった。

最後に柱を立てて垂れ幕を張れば、工事中の完成だ。

後はこっそりと俺が資財を野焼きで作成した事にして、工事費をちょろまかす。

ごほん、予算を保留する。


暇になった冒険者が下の兄の練習に長々と付き合ってくれた。

そこまでは良かった。

だが、姉さんが俺の事を自慢する。

下の兄が力尽きた所事で、俺の力を見たいと言われたので断った。

すると、何故か姉さんが相手をする。


姉さんの鮮やかな剛剣が戦士の冒険者を苦しめた。

正確に言うならば、怪我をさせないように反撃できないで防戦一方になったのだ。

手加減しようとする戦士に苛立った斥候スカウトと交代した。

こちらは手加減無用だった。

戦士と斥候スカウトの腕は互角らしい。

今度は姉さんが防戦一方に晒された。


イザぁとなれば、俺が魔法で中断する準備をしておいた。

向こうの魔法使いに気づかれたが、まぁいいだろう。

暫くは防戦一方で頬や腕に切り傷が刻まれた。

でも、姉さんが楽しいそうだったので止められなかった。

仕留めようとするが、仕留められない。

一時間ほど防戦を繰り返すと、力が拮抗し、あっという間に追い越し、往なして終わった。

最初は賭け湧いていた冒険者が冷や汗を流した。

暗い場の雰囲気を消す為に刈った雑草を燃やして、芋パーティーを振る舞って誤魔化したのだ。


 ◇◇◇


1月、菜園に続いて農地の管理も任された。

開発課の課長のお墨付きだ。

未開発の居住区の半分まで農地として利用する事が決まった。

好きに開拓して良いと言われた。

元農夫が管理人に指名され、財務管理は担当官さん、相談役兼作業監督に俺の名が上がる。

何故だ?


露天の出店に野菜の半分を卸し、その売り上げで居住区の開発と農業支援金を拠出する事が決まっていたが、お試し期間を終わり、本年度の会議で正式に認可される。

去年は野菜が高騰したので露天の出店の売り上げが過去最高を記録し、野菜の売り上げの半分が二課に入った。

もちろん、後で経費を支出して貰った。

人材開発課はその経費の1割を手間賃として回収したので、開発課と農業課と人材開発課に余剰金が手に入った。

予算が削られる一方の行政府において、総額予算が増額したのはこの三課のみだ。

資産の横流し。

民事転用への横領。

住民サービスと言う名の詭弁。

これを『三課長の陰謀』と囁かれているらしい。


本来、商業課が謁見行為と横やりを入れても不思議ではなかったが、露天街の崩壊が防がれた事で見逃して貰った。

想定外は俺の取り分が減った事だ。

その損失を埋めるように、これからは菜園の経費もここから支払われる。

元農夫さんが正式に雇われ、後継者育成も含めて部下が雇えるようになった。

でも、基本はボランティアの農作業だ。

ボランティアでないと採算は乗らないので、仕事の形態は余り変わらない。

俺はちまちまと冬の間に農地を広げていた。


他には、油協会が油を売る許可をくれなかった事だ。

蝋協会と油協会は別の商業組合だったらしく、露天に油売りがいなかったのだ。

許可を求めると油を売る事に難色を示した。

油協会は、菜種油を高い値段で教会から買わされていたからだ。

安い菜種油が出てくる事を望んでいなかった。

教会が絡んでいると知って俺は手を引いた。


だがしかし、すべて諦めた訳ではない。

油で揚げた料理を売ってはならないと言われていない。

唐揚げ、コロッケ、がんもどき、揚げ豆腐、薩摩揚げなどレパートリーに事欠かない。

揚げ煎餅や揚げ菓子もある。

我が残弾は尽きていないのだ。


「それもレシピとして課題で公開すれば、真似たと言われずに済みますよ」

「はい、そうします」

「油料理ですか」

「試作品を作ってからレシピを書きます」

「是非、味見させて下さい。美味しかったら買い取られて貰います」


担当官さんもお茶会で苦戦中だ。

誘われる件数が多すぎてダイエットケーキですら赤字になって、親から借金しているらしい。

出世するほど赤字になるって悲しい話だ。

それで安い新料理ならば、喉から手が出るほど欲しい。

担当官さん、ちゃっかり菜種油を母さんから相場の100分の一のご近所価格の格安で購入していた。

油料理のレシピは欲しい訳だ。

でも、買って行く量が多くない?


「えっ、実家の宿屋に油を売ってもいいのですか?」

「売っていないわ。利子代わりに提供しているだけよ」

「いいんですか?」

「金銭のやりとりはないから問題ありません」


担当官さんも俺色に染まって来たな。

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