第24話 俺の魔法は使えないと言われた
5月も中頃になると魔術士が戻って来た。
いつもは季節が変わった最初の月の中頃だったのに、今回は随分とゆっくりしていた。
俺がそう言うと凄く不機嫌な顔をする。
「誰の所為だと思っている」
「誰の所為ですか?」
「本気で聞いているのか?」
「何となく想像はできますよ。でも、俺の所為じゃありませんよね」
魔術士は肩を竦め、後ろに付いて来た担当官さんが眉の辺りを押さえた。
判る。判るが、高々魔力の成長論だ。
王家が独占したとか、魔導師協会に秘密にしたいとか、別に俺の意思ではないし、責任でもない。
俺は知らん。
隠した方が良いと言われたので公開していないだけだ。
こっそりと調べているのは魔術士であって、独占しているのも魔術士だ。
「お前の為に俺がどれだけ苦労しているか、判っていないな?」
「判りません。しかし、貴重な情報を独占しているのですから、それだけの見返りは見込めるハズです。違いますか?」
「違わん。だが、限度がある」
俺は首を捻った。
俺の価値は魔力を増加させる方法、次に新しい魔術の存在を知っている事だ。
この二つで世界がひっくり返る?
大袈裟な。
俺はまだ賢者の遺産の初歩を披露しただけだ。
実際、魔王対戦に使った中級魔法の理解度はあやふやで説明できない。
最終決戦で使った上級、究極の魔法においては魔法陣と詠唱を書き出せるが、まったく判らん。
賢者は説明書を書いてくれているが記憶が残っているだけであり、それを読んでも全然理解できない。
つまり、俺が公開したのは知識の中でも小匙の程度だ。
「へぇ~~~~、そうですか」
「驚いているように聞こえんな」
「驚いていますよ」
この程度で驚かれている事に驚いている。
そもそも指輪には初級の魔法陣しか書き込めないので、俺は中級の研究に進む事が出来ない。
しかし、初級魔法でもこの指輪があると応用が利くので奥が深い。
まだまだ、実験したい事が沢山あった。
現在知識と合わせると、出来る事が無数のあるのだ。
考えるだけでワクワクする。
「おい、話を聞いているのか?」
「済みません。聞いていませんでした」
「まず、あの井戸は何だ?」
「冒険者らが水槽に水を運ぶのに、工房区からでは遠すぎと思って作りました」
「作りましたじゃない。消えた土はどこに消えた?」
「知りません。あれは闇の魔法で影に食わせるとしか書かれていませんでした」
「闇魔法にそんな効果はない。俺が来る度に新しい厄介事を増やすな」
新しい魔法の為に説明を要求されて、さらに苦情を言われても俺も困る。
建設予定地の外れに2つの井戸を掘った。
道などに『落とし穴を掘る魔法』を使った。
土の魔法で掘った場合、その土のやり場に困る。
道の両側に土の山が持ってあれば、ここに落とし穴がありますと言っているようなモノだ。
そこで考えられたのが闇の魔法で食わせるという方法だった。
物質を魔力と交換で消す。
俺の想像だが、異空間にでも転移させているのではないだろうか?
道なりに四角の落とし穴を円柱状のイメージを変えて、スコンと井戸を掘った。
後は井戸の周りを土の魔法で固めて完成だ。
河が近い為か、水位が高いので冒険者は楽に水汲みを終えた。
「終えたじゃない」
「闇の魔法の魔法陣と詠唱は渡したでしょう。自分でやればいいでしょう。所詮は初級魔法です。難しくもありません」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「難しくもありません」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「もしかして、試しましたか?」
「魔術式は本当にあっているのか?」
「調べれば、判るでしょう」
「理論と配置は判る。だが、詠唱は間違っていないのか?」
「俺が使っています」
「本当か?」
「えっ、まさか試して失敗したとか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「マジですか?」
「(マジだ)」
魔術士が真剣な顔をして小声で答えた。
どうして?
どうして初級魔法が発動しないんだ?
意味が判らない。
魔術士は担当官さんと違って魔力が足りないという事はない。
魔法が起動しないので王都に呼び出されたらしい。
「この時期は忙しい。この北の地区は秋から冬に掛けて種付けをする奴が多く、春から夏に掛けて出産が多い。それで無くとも人手が足りずに俺が回っている」
「秋は祭りがあり、結婚の季節です。冬は家から出ない日も増えますから仕方ありませんね」
「仕方ありませんねじゃない。忙しい最中に王都に呼び出されて、魔法の研究を聞かされる。実践しようにも魔法は起動しない。どういう事だと責められる。俺の身になってみろ」
知らんがな。
これはもう確かめるしかない。
俺達は実験する為に空き地に行く事になった。
姉さんが「私も」と付いて来ようとすると母さんが止めた。
姉さんは俺を守ると聞かない。
駄々を捏ねる姉さんに担当官さんが砂糖菓子1つで手懐けた。
俺の価値は砂糖菓子1つに負けるらしい。
「まず、俺がやる」
魔術士が担当官さんの持っていたロッドのような魔術具を取り出して、魔力を注いで魔法陣を起動する。
うん、問題なく起動した。
魔術士が声を出して、間違わないように一節毎に区切って詠唱した。
詠唱も問題ない。
魔法陣が白く輝き、そして、消えた。
魔法は発動しなかった。
「完成するイメージは?」
「やった」
「発現しませんね」
「誰も発動しなかった」
う~~~~ん、謎だ。
ロッドを借りて俺も同じように詠唱すると水球が発射された。
小さな水球、大きな水球、雨のように降る水球を続けて発動して見る。
「やはり、魔法陣に問題はありません」
魔術士が
同じ詠唱で違う効果を間近に見て衝撃を受けていた。
動揺する声で、壊れたラジオのように何度も同じ言葉、「本当に出来るのか」、「何故、できる」、「あり得ん」と呟くような言葉を吐いていた。
それに担当官さんは頷くように相づちを打つ。
魔術士と担当官さんが二人の世界に入ってしまった。
もちろん、甘い愛情を語っているのではなく、俺の如何が非常識かを確かめ合っている。
俺だけがのけ者だ。
山から吹き下ろすフェーン現象の暑い熱風が俺の横を過ぎて行った。
暑いから帰ってもいいですか?
「結論、お前の魔法は使えない。お前しか使えない魔法と判明した」
「そんな事はありません」
「そういう事にする。これは決定だ」
もう勝手にして下さい。
魔術士は秋までにもう一度王都に行って説明しなければならないと愚痴を言う。
俺の所為じゃないですよね。
「俺も面倒だ。いっそお前を王都に預けて来ようか? 俺としてはそれが一番楽なのだ」
「済みません。反省しました。母さんから引き離すのは止めて下さい」
「そうなりたくないならば協力しろ」
「協力します」
「とにかく、これ以上は目立つな。噂になって国王がお前を見たいと言われた日は擁護できん」
「判りました。目立たずに生きて行きます」
そもそも俺の何処が目立っているんだ?
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