第15話 レールガンは使えない
ファイラー。
それは初級魔法の1つであり、最初に覚える魔法の総称だ。
脳裏に浮かべた炎のイメージが精霊の力を借りて具現化する魔法だ。
人によって形が違う。
こちらでは神の力を使っていると考えられており、精霊魔法と呼ばないようだが中身は同じだ。
精霊は神々の眷属なので神の力とも言えなくない。
精霊の力を借りずにすべてを自分の魔力で賄う事もできるが、コスパを考えれば、精霊の力を借りない手はない。
魔法陣を使える事で長い長い詠唱を読まずに精霊を呼び出す事ができるようになった。
弱い魔法で詠唱の長さは童謡曲の1曲分で、高速詠唱でも1分から2分も歌う事になる。
長い割に威力がない。
対人戦の威力となると、より多くに精霊を集める為に3分以上は必要だ。
護衛が前を固めてくれないと使えない。
さらに極大魔法を使用しようとなると3日3晩でも足りない長い詠唱になり、現実的ではない。
魔王との闘いでは、巨大な魔法陣を使う事で同じフレーズ詠唱を繰り返し1日ほど読み上げて力を貯める方法が取られた。
しかも攻撃をする者と魔力を引き出す者が二班に分かれての分業作業だ。
勇者が魔王と戦っている間も、魔王城の近くでは巨大な魔法陣を使って遠距離攻撃を続けられていた。
魔族が魔法陣を壊そうと押し寄せているのを、多くの戦士と魔法使いが戦って、魔法陣の守備をしていたハズだ。
城外の勝敗を賢者は知らない。
魔王を倒し、魔王城を出る前に力尽きたからだ。
“我、精霊に語り掛ける。
汝の力を顕現し、今、理に従って具現化せん。
偉大なる火の精霊よ。
我に力を貸し給え。
汝に捧げるは我が魔力。
聖なる扉をここに開かん。
炎よ、ここにあれ。
ファイラー。”
魔法の指輪を起点に魔法陣が浮かび上がり、短文詠唱に反応して魔法陣が白く光り、炎が林の合間を掛けて行った。
成功だ。
ヤッター、本当の魔法が使える。
俺はさらにファイラーアローを使って見た。
林の隙間から城壁まで続く獣道に沿って撃ち出した。
城壁まで飛んで城壁に刺さって、城壁の一部を壊した。
問題ない。
ファイラーボールはお預けだ。
あれは圧縮された炎がぶつかった瞬間に弾け出し、大きな爆音が発生する。
騒ぎを起こすと大変だ。
ファイラーアローが使えるならば、ファイラーボールも問題ない。
精霊魔法は素晴らしい。
精霊を使えば、1の魔力の10の炎と交換してくれる。
貢ぎ物に対して返礼が大きい。
精霊魔法は魔法戦の基本だった。
もちろん、精霊を使わずに炎の魔法も使える。
だが、魔力を炎に変えるだけでも魔力を消費する。
1の魔力は1の炎としか変換できない。
ガキ大将に襲われた時に
エアークッションも体重を支えるほどの威力にならない。
10秒の高速詠唱で唱えても、その程度の威力だった。
対して、魔法具を使えば、短文は1秒の高速詠唱で魔法が使える。
威力は城壁の表面壁を少し崩す程度だ。
エアークッションならば、襲ってきた者を弾き返す程度の威力になるハズだ。
だが、派手な魔法は使わない方がいい。
魔法の指輪には、初級魔法『
衝撃は消せないが、貫通を防いでくれる。
銃弾程度ならば、弾き返してくれる。
完璧だ。
試したいのは、賢者が前世の組んだ
賢者はアニメのコマーシャルを見て、マジで研究を始めた。
防衛省やアメリカ国防省にハッキングして、
初期魔法なのに上級魔法並の威力が出る魔法陣が完成した。
天才は凄い。
因みに天才トレーダーと言われている賢者だが、8割は法則に則り売買を繰り返し、残り2割はハッキングによるインサイダー取引だ。
株価暴落を事前に知れば、損失が小さいのは当り前だ。
下がった所で買い戻せば、大儲け。
会社の失敗をワザと漏洩させて暴落させて、マッチポンプで儲けた事もあった。
それで荒稼ぎをして一財産を稼いだ。
魔法『
俺は伸ばした腕の下に魔法陣を発現させた。
高速詠唱で魔法を発現させて、指で弾いた小石に磁気を纏わせ、落ちてきた小石が磁気レールの上に落ちて移動が始まる。
『行け!』
ギュインと小石が移動を開始して、ポタリと落ちた。
無理、無理、無理、絶対に無理だ。
加速する物質に合わせて魔法陣の出力をプラスとマイナスに変えるだけの簡単な作業だ。
5変換まで成功した。
だが、加速するほどに変換の速度が上がる。
変換速度が3乗倍で増えて行く。
反転速度がコンマ1秒を割り込むと感性で制御など不可能だった。
パソコンに加速度の計算制御を代替させないと無理だ。
リニア新幹線のプラス・マイナスの切り替えを手動で遣ろうとするようなモノだった。
理論は簡単だが、制御は不可能だ。
天才も穴に落ちる。
嫌ぁ、待て。
諦めるな。
演算速度を上げる魔法があったハズだ。
知覚時間を早くする魔法もあった。
賢者は天才だったのでどちらも使用した事がないと自慢していたが、魔法陣が残っていたハズだ。
俺は記憶を確認する。
あった。
記憶に残っている。
態々、魔法陣を書いてスキャナーでパソコンに取り込んでいる賢者の
問題はその魔法陣に説明がない事だ。
説明が書かれていないという事は、発動する為の詠唱の記述もない。
魔法陣を解読して、自分で考える事になる。
気が遠くなる。
「アル、どこだ?」
「シュタ、ここです」
「倉庫街は立ち入り禁止と教えただろう」
「後ろは倉庫街ですが、ここは林なので問題ありません」
「・・・・・・・・・・・・」
俺がいるのは倉庫街の東の端だ。
倉庫街と城壁の間にある林の中で裏道なのか少し広くなっており、都合のいい事に四方から死角になっていた。
魔法の練習をするには最適であった。
下兄のシュタニーが洗礼式のお祝いに男だけの秘密基地に案内してくれた。
大きな木の根っこに出来た空洞だった。
上の兄は学校に通い出すと、アネィサーが居ない時にシュタニーが偶に話し掛けてくるようになった。
余程、ウェアニーとアネィサーが苦手なのだろう。
今日も姉が母さんと買い物に出掛けた所で、お祝いだと連れて来られたのだ。
一緒に来た近所の子供らは木登りや穴掘りに夢中になった。
半分遊び、半分食料確保だ。
林の中は食料となる木の実やその他のモノが沢山ある。
栄養失調児らは自分の食料を自分で探す。
シュタニーは兜虫の幼虫のようなモノが美味しいと探し始めた。
絶対に食べたくない。
俺はこっそりと秘密基地を逃げ出した。
そして、林の中を探索して、この場所を見つけた。
「早く帰らないと昼になるぞ」
「アネィは?」
「もう帰って来ているハズだ」
「ヤバいです」
「ヤバいだろう」
母さんが戻ってくる前に家に戻るハズであった。
思考に拭けって時間を忘れた。
家から勝手に出たと知れば、アネィサーが怒り狂うのは見えていた。
はい、叱られました。
シュタニーは家に近くで姿を消して食事時間になるとちゃっかり戻って食事を取ると、俺が食事を終える前に消えていた。
隠密力の高い下の兄だ。
まぁ、どうせアネィサーは俺しか目に入っていない。
「ア~ル、正座」
「はい」
お昼で中断したお説教が続く。
何度も何度も同じ事を繰り返していうアネィサーだった。
過保護だよ。
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