第13話 7歳まで神のうち
寒さが和らぎ、魔術士が戻って来た。
雪が解ける頃に戻って来ると言っていた割にゆっくりだった。
もう25日だ。
1月も終わろうとしていた。
「ゆっくりでしたね。どこかで休暇を取っていたのですか?」
「流暢に喋れるようになったな」
「誰かが急かしたので覚えました。高等科に進学しなくとも奴隷落ちしていない転生者もいるので聞こうと待っていたのですが?」
担当官も知らなかった。
違反や罪を犯せば、転生者も容赦なく奴隷落ちするが、高等科に進学できないだけで奴隷落ちは聞いた事がないらしい。
担当官は俺が5歳で初等科に入学するまで受け持つ。
それ以降も友人として付き合っている先輩も多いらしいが、やはり知らないと言ったらしい。
もしかすると、暗部の仕事が魔術士にあるのかもしれない。
そうならないでくれと言う意味かもしれない。
「ははは、なるほど、そう考えたのか」
「違うのか?」
「魔道具を貸すのは条件がある。まず、国や貴族に引き取られない普通の転生者は魔術具を付けない。引き取られた者には魔道具が貸し出される」
「俺は・・・・・・・・・・・・?」
「君は国が引き取った。君の家族に預けているだけだ」
そう言えば、引き取らない場合は孤児院に預けられると言っていたな。
俺は国の備品扱いなのか。
人権も糞もないな。
「例外として貧乏貴族や騎士だった者は国からの温情で魔道具が貸し与えられる。最後に他国の者や異世界人の場合は情報を引き出す為に無条件で貸し出される」
「高等科に進学しなくていいのは2番の奴らか」
「正解だ。魔道具が貸し与えられるのは国の温情だ。能力がなければ、進学はできない。だが、他国の者や異世界人は何をするか判らない。常に監視が必要だ」
そういう事か。
高等科に進学できない無能は奴隷の首輪を付けて、いつでも始末できるようにしておく。
だが、魔術士のようにはっきりと公言する者はいない。
何故だ?
高等科に進学できないだけで奴隷落ちは可怪しい。
「奴隷と言っても1つではない。主従の契約奴隷もある。これは公表されない。また、不信な者は罪をでっち上げて奴隷落ちにさせる。公式には、そんな事は記載されないし、担当官も気づかないし、知らないのも当然だ」
「随分と汚いですね」
「国とは汚いモノだ。国に善意を求めるな」
国は弱者救済をするのは、国民への人気取りでしかない。
税金を払わず、国に貢献しない者も助ける意味などはどこにもない。
誰も税金を払わなければ、国が崩壊する。
国家は慈善事業じゃない。
生まれながらにして自由かつ権利において平等?
そんなモノがある訳がない。
あるのは試練だ。
試練の題材が違うだけで等しく課題を与えられる。
幸せだな~と思っていると突然に奪われる。
幸せな暮らしは『
自分の世代ではなく、子供や孫の世代かもしれない。
あるべく事象をすべて疑え。
神ですら無償の善意など与えない。
「現に課題で荒稼ぎしているだろう」
「銀貨10枚の事か。代筆は違反じゃないぞ」
「構わん。俺の評価も上がる。紙とインク代が節約されるので問題ない」
「世知辛い事を言うな」
「現実だ」
領地に一人くらいは代わり者がおり、異世界出身のパトロンになる者は珍しくない。
但し、2歳を待たずにパトロンを見つけたのは珍しいようだ。
◇◇◇
魔術士が遅くなったのに理由があった。
1つは王都に呼び出された事だ。
宮仕えは大変だ。
命令書1つで国中を巡る事になる。
2つ目は川が凍って中々解けなかった。
町の横に町の名前の由来のエクシティウム川という大河が流れている。
この大河が凍る訳ではないが、船が着く埠頭が凍って使えなかった。
解けるまで待たされたようだ。
「馬車で来ても良いが宿や手配など面倒な上に料金が余計に掛かる。手当は一緒だ。安い船の方がお得なのだ」
「その間に他の仕事か?」
「ゆっくりと休暇を楽しんだ」
やはり休暇を楽しんでいた。
川下のフランク領の町は物資が豊かで、侯爵の邸宅でのんびりと居候していたと言う。
人材発掘課は暇らしい。
因みに、この北国では冬生まれの転生者はいない。
秋の終わり、魔術士が帰った後に生まれた赤子で転生者だった場合は、翌年の1月1日生まれに
酷い場合には、春生まれでも秋の収穫が終わるまで放置されて、翌年に1月1日生まれにされた者もいるらしい。
「俺の前の前任者の話だ」
「酷いですね」
「2歳まで生きている赤子は半分だ。どうせ死ぬと思って届け出ない者は多い」
2歳までの生存率は5割らしい。
意外と酷い世界だ。
そう言えば、江戸時代の5歳までの幼児の生存率は25~30%程度と書いてあったな。
4人に一人しか生き残らない。
栄養失調の上、着るモノも粗末なら仕方ない。
この世界も似たようなモノか。
俺が生まれたので我が家の食事が改善された。
銀貨1枚以外に乳代が払われ、授乳期が終わると離乳食が支給されて兄らのおやつにされた。
俺の古オムツが兄や姉の服の補修に使われて温かくなったらしい。
しかし、すぐに届け出る事が良いとは限らない。
転生者と判ると容赦なく魔道具が届けられる。
毎月、赤子の生育を確認に役人が来る。
放置すれば罰則を受ける。
国の備品を粗末に扱ったら重い処分も当然だ。
農作業を終えて家に戻って来ると、赤子が息をしていないなど普通らしい。
世話ができない貧乏農家が届け出を送らせるのもその為だ。
死ぬも生きるもその子の次第。
7歳まで神のうちか。
生まれてから1年以上も放置すれば役人から叱られるが、1年以内ならばお目零しにされる。
道理で俺より体が大きい子が多い訳だ。
家の母さんは兄姉が元気に育っているので、暢気にその日の内に届け出を産婆に頼んだらしい。
偶然、魔術士が到着した日と重なって、すぐにやって来た。
あと3日届け出が遅ければ、あの忌々しい魔術具を3ヶ月ほど遅らせる事ができた。
少しでも体力が付いてからが良かった。
実に残念な話だ。
「落ち込んだようだな。元気付けてやろう」
「簡単に浮上しませんよ」
「教えてもいないのに魔法が使えるそうだな」
「前世で賢者が口ずさんでいた呪文も再現しただけです。もちろん、賢者は魔法が発動しなくてがっかりしていました」
「あちらは魔力のない世界だからな」
「俺も発現してびっくりしました。本当に魔法が使える世界なのですね」
「この世界には神も自在するし、魔法もある」
「タダで教えませんよ」
「当然だ。だから、まずご希望の魔術書を与えよう」
魔術書だと!?
俺の気分は一気に上昇した。
この世界の魔法が見られる。
「ふふふ、さらに優秀な君にご褒美だ」
魔術士が俺に魔法の指輪をくれた。
魔術具だ。
仕様書も付けてくれた。
ヤッホー!
簡単の気分が上昇した。
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